第43話 決戦その2
八魔田の怒号が響き渡る洞窟前で、
しゃもは深いため息をつきながら前へ一歩進んだように光る。
「……あ〜、始まった。面倒なタイプですね」
そして淡々と怪物に向け、まるで教師のような口調で言い放つ。
「喋れるのなら知能は高いはず。
おとなしく降参しなさい。そうでないと――本当にひどい目に遭いますよ」
八つの頭が一斉にギロリとしゃもをにらみつけた。
「知るかボケぇ!!
わしゃこの世の中で一番の存在なんじゃ!!
誰に向かって口きいとるんじゃボケカスがぁぁ!!!」
そして――八つの口が一斉に開く。
「雷鳴咆哮!!」
ドォォォォンッ!!!
凄まじい雷撃がアークめがけて直撃――
……するはずだった。
だがその雷は、アークの横に突き刺してあったしゃもじへ一直線に集中。
ギャリギャリと青白く弾け飛び、まるで避雷針のように全て吸い込まれて消えていった。
アークとカノンは無傷。
服すら焦げていない。
八魔田は目を丸くし、
「……なかなかやるやんけ」とボソッと呟いた。
次の瞬間、
「ほなもう一発じゃボケェ!!」
再び雷撃―― しかし結果は同じ。
何度放っても、雷はしゃもに全吸収されるばかりだった。
カノン 「……全然とどきませんね」
しゃも 「だから言ったでしょう、“ひどい目に遭う”って」
アークは腕を組み、ため息を吐く。
「……せっかくの食材じゃし、丸焼きになる前に確保したいのう」
そしてくるりとカノンへ振り向いた。
「カノン、白金のドラゴンの姿になり、ちょっと脅して気絶させてこい」
カノンは困った顔で眉を下げる。
「弱い者いじめみたいで嫌ですけど……
でもアーク様のお願いなら……傷つけない程度に、ですね」
覚悟を決めたカノンの体を光が包む。
次の瞬間、ドラゴンへ変化し、その頭上にアークがどっかり座った。
大きく息を吸い込み、喉の奥が赤熱する。
咆哮。
空気ごと裂くほどの衝撃が大地を波打たせ、木々はなぎ倒れ、砂塵が巻き上がる。
ただの一声で、大気の色さえ変わったかのようだった。
八魔田はその姿を見た瞬間、目を飛び出さんばかりに見開いた。
ドラゴン族。
ただの伝説ではなく、目の前に“本物”がいる。
その衝撃に、八つの頭が硬直する。
白金のドラゴンとなったカノンに威嚇され、巨大だった八魔田の鰻は、突如ぺたんと地面に伏せて震え出した。
「ほ、本当にすみませんでしたぁぁぁ!!
ちょっとみんながチヤホヤするもんだから!
調子に乗ってしまって! ノリで雷とか撃っちゃって!
出来心だったんですうううう!!」
――数秒前までの尊大な態度はどこへやら。
カノンもアークも、あまりの急展開に呆気にとられる。
しかも八魔田の口調は、さっきまでのガラの悪い関西弁ではなく、やけに丁寧な標準語になっていた。
アークは思わず眉をひそめて。
「おい、話し方変わっとるぞ。キャラ崩壊しとるわ」
八魔田は肩をすくめ、ペコペコしながら言い訳する。
「いやぁ〜……関西弁の方がキャラ的にしっくりくるかと思いまして……
すみません、試してみたかっただけなんです……本当すみません……!」
完全に平謝り。
さっきまでの威厳は、小骨ほども残っていない。
さらに八魔田は八つ全部の頭を地面につけて泣き叫ぶ。
「命だけはご勘弁を!! ほんっっとうに反省してます!!!」
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カノンがアークの袖をそっと引っ張る。
「アーク様……かわいそうです。許してあげましょうよ」
アークは腕を組み、
「むぅ……せっかく今夜は鰻の蒲焼きで一杯やる予定じゃったのに……」
と心底名残惜しそうなため息をつく。
そこへしゃもが、冷静かつ残酷なトーンで追撃。
「どこかの誰かさんと動機が似てますね。
“ちやほやされて調子に乗るうなぎおじいさん”」
アークの眉間に青筋が浮かぶ。
「誰がうなぎじいさんじゃ!!
わしは千年生きた大魔法使い――アーク・エルディアじゃ!!」
しゃもはしれっとした声で返す。
「そのくだり、久々ですがもう聞き飽きました」
バチバチと火花が散る視線の応酬。
だがカノンが間に入り、両者をなだめる。
「アーク様、しゃも。ケンカしないで……」
結局――
アークは口を尖らせながらも頷いた。
「……分かった分かった。今回はカノンの顔を立ててやるわい」
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アークは渋々しゃもじを掲げ、八魔田に魔法をかける。
「縮身封印」
ぼふんッ!
巨大な八魔田は一瞬でどじょうサイズに縮んだ。
「ありがとうございますぅぅぅ!!
二度と悪さしませんのでぇぇぇ!!!」
泣きながら小さな体でピチピチ跳ね、洞窟脇の川へジャボンと帰っていった。
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アークは空を見上げ、恨めしそうにつぶやく。
「……せっかく脂の乗った極上うなぎじゃったのに……」
しゃも 「情けはかけたのに未練は捨てないんですね」
カノン 「でも……よかったです。誰も傷つかなくて」
アークは照れ隠しのように咳払いし、
いつものように一行は次の場所へと歩き出した。
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