第40話 降臨
ようやく辿り着いた、大ジャポン帝国・港町ミナト。
潮の香りと青空を吸い込みながら、アークは船着き場でくるりと回ってみせた。
「ふぉっふぉっふぉ! どうじゃカノン! 和の心がわしの中で目覚めたわい!」
彼が身にまとっているのは、ついさっき港の露店で買ったばかりの 和風旅装束。
さらにしゃもじを杖サイズに伸ばし、完全に“ソレを意識した格好”である。
カノンは目をぱちぱちさせて固まった。
「ア、アーク様……そのお姿は、いったい……?」
しゃもがため息まじりに解説する。
「カノン様。アーク様は今、“水戸黄門ごっこ”の真っ最中です」
「…………」
カノンはそっと目をそらした。
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アーク一行は国門へ到着し、門番によって呼び止められた。
「止まれ! そなたら何者――」
門番はアークの姿を見た瞬間、目を見開き、
「ま、まさか……! 御老公様ではございませんかっ!?」
アークは少しだけ口元を吊り上げ、わざとらしく顎を撫でる。
「――うむ」
その一言で門番は即、地面に額がつくほど頭を下げた。
「こ、こ、こ、これは失礼いたしましたぁぁーーッ!!
お通りくださいませ御老公様あぁぁ!!」
アークはどこで覚えたのか分からない動きをしながら、
「苦しゅうない、苦しゅうない! カッカッカッ!」
と笑いながら堂々と通り抜けていく。
しゃもは呆れきった声でつぶやく。
「……なぜ通れたのか、私が一番聞きたいです」
カノンはキョトンとした顔で小声になる。
「アーク様って……そんなに偉かったんですか?」
「違います。完全に“勢い”です」
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城下町に足を踏み入れるや否や、道行く人々が次々に頭を下げる。
「おぉ……将軍家の方では?」
「いや、殿のご親戚かもしれんぞ!」
「お顔は拝見したことがないが……只者ではない!」
ざわざわと噂が駆け巡る。
アークは鼻を高くし、まるで舞台の主人公のように胸を張る。
「ふぉっふぉっふぉ。わし偉いんじゃもん!」
しゃも:「……自覚だけは一人前です」
カノンはと言うと、まだ信じられない様子で、
(……なんでノリと衣装だけで国民に通じてるんだろう……)
と、真顔で疑問を抱いていた。
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やがて城下の通りの香ばしい匂いにアークの腹が鳴る。
「ふむ、ひとまず腹ごしらえじゃ。茶屋に入るぞ!」
こうして、御老公アーク一行のジャポン帝国編は幕を開けた。
暖簾をくぐった瞬間、店主が弾かれたように顔を上げた。
「も、もも、もしかして御老公様ッ!?
こ、こちらへ! 奥の一番広いお部屋をご用意いたしますゆえ!!」
深々と頭を下げた店主に、周囲の客たちが一斉にざわつく。
「御老公だ……本物だ……」
「生きてるうちに拝めるとは……」
アークは鼻を鳴らし、
「うむ、苦しゅうない苦しゅうない。案内いたせ」
と偉そうに言いながらも、しっかりVIP部屋へ足を進める。
しゃもは無言で浮かびながらため息。
(※もう突っこむ気力すらない様子)
カノンは完全に事情不明のまま、そっとアークの後ろに続いた。
部屋に通されると、程なくして店主がお茶を運んできた。
「御老公様、まずは一服を……」
アークは湯呑を手に取り、ずずず、とお茶をすすりながら言う。
「よし、では団子を持ってまいれ。みたらしでも三色でも構わん。腹が減っておるんじゃ」
店主は申し訳なさそうに、肩をすくめる。
「申し訳ございません……団子は品切れでして……」
「む……ならばおはぎはあるか? ちなみにわしはきなこ派じゃ」
「ございません……」
アークの眉間にシワが寄る。
「では何があるのじゃ。甘味が一つもないとは言わせんぞ」
店主は苦し紛れの笑顔で告げた。
「……かりんとうなら、ございます」
アークはしばし沈黙し、やがて観念したように言った。
「……持ってまいれ」
出されたかりんとうを、ぼりぼり、ぼりぼり無言で噛むアーク。
カノンは恐る恐る声をかける。
「アーク様……そんなにかりんとうはお好きじゃないんですか?」
アークは頬を膨らませ、渋い顔で答えた。
「好き嫌いではない。ただ……和の国なのに、団子も、おはぎも、わらび餅すら無い。
これはおかしかろうが」
しゃもが静かにうなずく。
「……確かに、甘味文化が死んでますね。この国、何かあったと見て間違いなさそうです」
アークはかりんとうをもう一口バキっと噛み、目を細める。
「ふむ……わしの“甘味レーダー”に狂いはない。
この国には――深刻な砂糖不足があると見た」
そしてアークは卓を軽く叩き、こう結論づけた。
「よし、飯の前にまず事情を聞き出すぞ」
VIP扱いのまま、ようやく大ジャポンの異変に気づき始める御老公アークであった。
かりんとうをぼりぼり囓りながら、アークは店主を手で呼びつけた。
「店主よ、甘味がここまで乏しいとは……ただ事ではないな。
何が起こっておるか、包み隠さず話してみよ」
店主は深いため息をつき、ポツリと語り出した。
「……本来なら、南の砂糖畑から“砂糖”が献上され、城で甘味として振る舞われるはずなんですがね。
最近は、その砂糖を積んだ荷馬車が一向に城へ届かないんですよ」
アークは腕を組み、頷く。
「ふむ。それは山賊の仕業か? それとも戦か?」
店主は首を横に振る。
「いいえ……原因は、勇者様ですよ」
アークの手が止まった。
しゃもの光がピクリと揺れる。
「……また勇者か」
店主は続けた。
「神に献上する“神酒”という、雨乞いの儀式に使う酒がありましてね。
それを――勇者様が
**『喉乾いてたから飲んじゃった!』**と笑いながら全部飲んでしまったんです」
アーク「ぴぇぇぇぇぇぇ!! また酒絡みかあのバカ勇者!!!」
店主「ええ……儀式ができなくなった直後、ヤマタノオロチが山に出現。
街道を塞ぎ、荷は通らず、雨は止み、砂糖も米も届かない……
おかげで甘味も食糧も今や不足続きですじゃ」
アークは鼻で笑った。
「ふん……やはりな」
しゃもが即ツッコミ。
「いや今初めて聞いたでしょ」
「うるさいわい! こういうときはな、“察し”が大事なんじゃ!
わしほどになると、未来が見えるんじゃよ!」
カノンは小首をかしげる。
「アーク様……私、話の半分くらい置いていかれてます……」
「大丈夫じゃカノン! わからんでも勢いで乗ってしまえば解決するのが冒険じゃ!!」
しゃも「(……この人に慣れてきたわたしが一番怖い)」
この瞬間、アークは確信していた。
――またも、勇者の尻拭いであると。
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