第38話 女王
海底での激闘を終え、アークたちが浜に戻った頃には、夜はすっかり明けていた。
アークは大あくびをしながら言う。
「ふぁぁ……徹夜はこたえるのう。年寄りを徹夜に連れていくとは、ポセイドンめ……」
しゃも:「アーク様、自分から暴走したのであって被害者ぶらないでください」
カノンは疲れているものの、どこか誇らしげに微笑んでいた。
「……でも、守れましたね」
「うむ。海も国も無事じゃ。まずは寝たい」
三人は砂浜を後にし、ふらふらの足取りで宿へ向かった。
宿の扉を開けた瞬間――
「アンタたちいったいどこ行ってたんだい!!」
老婦人が目をうるませながら飛びついてきた。
「ゆ、ゆうべね……海から“光の柱”がバーンッと上がって……そっから魔物がピタッといなくなったんだよ!
アンタたち、海の魔物に食べられたかと思って……!」
アークは鼻を鳴らして胸を張る。
「ふふん、まあ大体合っとる」
しゃも:「認める部分、そこですか」
カノンは慌てて頭を下げる。
「ごめんなさい! 心配をかけてしまって……でも、大丈夫です。海も、封印も、全部片付きました」
老婦人は胸を押さえ、涙目のまま大きく息を吐いた。
「ああ……よかったよぉ……!
ほんとに無事でよかったよぉ……!」
アークは照れ隠しのように手をひらひらと振って言う。
「とりあえずじゃ。わしら徹夜なんでな……先に寝させてくれ」
「……そうだね。もう部屋に戻りな。布団はふかふかにしてあるよ」
三人は部屋に戻ると、倒れ込むように眠りについた。
アークたちがぐっすり眠っている間。
老婦人は村の女たちを集めて言いふらしていた。
「聞いたかい!? 海が元に戻ったのは、うちに泊まってる“あの男”と“あの子”のおかげだよ!」
「嘘でしょ!?」
「まさか、あの変な杓文字じいさんが!?」
「信じられないけど……魔物がいなくなったのは事実だし……」
「宴だよ! 宴の準備をしな!!」
町中を巻き込んで、あれよあれよと祭りの話が広がっていった。
夕暮れの浜辺では焚き火が焚かれ、ずらりと並ぶテーブル、色とりどりの料理、踊る女性たち――久々の“観光の夜”が帰ってきた。
宿の女主人が声を張り上げる。
「それでは皆! この国を救ってくれたアーク殿とカノンちゃんに――乾杯じゃあ!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
一斉に女たちの歓声が響く。
アークは豪快なエールを一気飲みし、鼻息荒く叫んだ。
「ぬおおおおっ!! これぞリゾートの味じゃ!!」
しゃもが冷静に突っ込む。
「酒の味が分かる前に酔うのやめません?」
カノンは小さめのジュースを両手で持ち、微笑む。
「アーク様、本当に……良かったですね」
そんな中――
「ねぇアーク殿〜♡こっちで一緒に飲みましょ〜?」
「アークさま〜! この料理も食べてください〜♡」
女性陣が一斉に群がってきた。
まるでモテ期の大爆発。
アーク(心の声)
ぴぇぇぇ! これか! これが……これこそがわしの求めた楽園!!
が、その瞬間。
女A「でも男は嫌」
女B「ご飯だけ貰いに来ました〜」
アーク「ぴぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」
しゃも「胃袋100点、恋愛0点。前回と同じ評価ですね」
カノンはアークを庇って前に立つ。
「アーク様はすごい方なんです! もっと優しくしてください!」
女性たちはザワついた。
女たち
「カノンちゃん……かわいい……」
「守りたい……」
「抱きしめたい……」
しゃも「……カノンの方がモテましたね」
アーク「なんでじゃあああ!!」
夜も更け、焚き火が静かに揺れる。
老婦人
「おじいさん。あんたさんは、変な男だけど……本物だったよ。ありがとねぇ」
アークは少し照れた顔で鼻を鳴らす。
「ふん。礼などいらん。尻拭いはもう慣れとる」
カノン
「またいつか来ましょう。海、きれいでしたから!」
しゃも
「次来たときは“男歓迎の国”になってますように」
老婦人は笑いながら手を振った。
「その時までに、男に優しくする文化を作っとくさぁ。」
アークは海を振り返り、小さく呟く。
「……飯もうまかったしの。また来よう」
波が寄せて返す。
こうして水の国の夜は幕を閉じた。
翌朝
アークはしゃもじを担ぎ、カノンと共に街の門へ向かう。
朝日がオレンジ色に石畳を照らし、潮の香りが名残のように漂っていた。
門が近づくと、後ろから賑やかな声が上がる。
「アーク様ーー!! 本当にありがとうございましたーーっ!!」
「観光地を救ってくれて感謝してるよぉーー!!」
「男は基本キライだけど、アーク様は“例外”だからまた来ていいよーー!!」
「若い男は見たくないけど、おじいちゃんならオーケーだからねーー!!」
アークは思わずつまずきかけた。
「ぴぇぇ……褒められておるのか、馬鹿にされておるのか分からんわい……」
しゃも:「事実を言われているだけですね」
カノンはくすくす笑いながら、後ろへ手を振る。
門の前まで来ると、見覚えのある女兵士の門番が姿勢を正し、アークの前に立った。
「アーク様。入国時はご無礼をいたしました。
……こちら、当時お支払いいただいた入国金貨です。全額お返しいたします」
彼女は深々と頭を下げ、袋を差し出した。
アークは固まる。
「ぬっ……ぬぅぅ……な、なんじゃこれは……」
カノンがそっと耳打ちする。
「アーク様……認められたんですよ」
女兵士は微笑み、胸に手を当てた。
「またいつでもお越しください。
アーク様は、私たちの“恩人”ですから」
その言葉に――
アークの背中が、一瞬だけ、ほんの少しだけ 大きく見えた。
しゃも:「アーク様、泣きます?」
アーク:「な、泣いとらんわい……鼻水じゃ……潮風で鼻がやられただけじゃ……!」
カノンは優しい目で微笑み、門をあとにしようと一歩踏み出した──その時。
ふとカノンが呟く。
「そういえば今回……水の国の王様には、ご挨拶しませんでしたね」
アークは胸を張り、偉そうに言い放つ。
「ふん! わしは学んだのじゃ! 王族と関われば“尻拭いフラグ”が乱立するとな! わざわざ尻を増やす必要などない!」
しゃもが冷静に口を挟む。
「アーク様、水の国の王は“王様”ではなく“王女”ですよ。
大陸一の美女としても有名で、しかもまだ独身で……今年二十歳とか」
アークの足が ピタッ と止まった。
「……なんじゃと? 美女……? 二十歳……? 独身……?」
カノンは首をかしげる。
しゃもはさらに追い打ちをかける。
「ちなみに、ものすごいスタイルらしいです。あと性格も良いそうです。
“結婚するなら海の王女”とまで言われるレベルとか」
アークは震える声で叫ぶ。
「なぜ!! なぜもっと早く言わんのじゃ貴様ぁぁぁ!!!」
しゃもは涼しい声で答える。
「聞かれなかったので」
アークは即座に振り返り、海の国へダッシュしようとする。
「ま、まだ間に合う! 挨拶だけならギリギリ――!」
しかししゃもも即座に。
「今戻ったら“未練タラタラの老人”として歴史に残りますよ」
アークは固まり……
うなだれ……
砂浜に小さく座り込んだ。
「ぴぇぇぇ……人生、塩辛いのう……」
カノンは笑いをこらえながら、そっとアークの肩をポンと叩く。
「大丈夫ですよ、アーク様。また来ればいいじゃないですか」
アークは鼻をすすり、立ち上がる。
「……うむ。次こそは、米と美女と酒じゃ。
よし、参るぞカノン!」
こうして――
ほんのり未練と大量の誤解を残しつつ、アーク一行は港町を目指して歩き出した。
お疲れ様でした。
次の旅も宜しくお願いします。




