第34話 男女比1対1000
ドワーフの国をあとにしたアーク一行。
次なる目的地は――“水と観光の国”アクア・パラディーゾ。
山を抜け、草原を越え、遠くに青く光る海が見え始めた頃。
アークは上機嫌でしゃもをくるくる回しながら聞いた。
「しゃもよ、水の国とはどんなところなんじゃ?」
しゃも:「温泉とリゾートと美女が有名ですね」
「ぴぇぇぇ!? 美女!? つまり、ハーレムの国ということじゃな!!」
アークの目がキラリと光る。
カノン:「アーク様、顔がいやらしいです」
「いやいや、これは“文化研究”じゃ! 文化研究なんじゃよ!」
しゃも:「あの顔で“研究”とか言われても説得力ゼロです」
「ふふふ……わしの学問は実践重視型じゃからな!」
そんな軽口を叩きながら、彼らは波音の聞こえる海岸線を歩き出した。
アークの脳内ではすでに、美女たちが手を振り、
「アーク様〜♡」と呼ぶ“理想のリゾート光景”が展開していた。
青く澄み渡る空。
海鳥の声と潮の香りが漂うその先に、巨大な白い都市が広がっていた。
「おおぉぉ……! 見よカノン、あれが水の国“アクア・パラディーゾ”じゃ!」
アークは両手を広げ、胸いっぱいに潮風を吸い込んだ。
「空は青い! 海も青い! そして――美女が多いっ!!」
しゃも:「完全に目的が変わってますね」
カノン:「アーク様、観光ですよね? “尻拭い”ではなく……?」
「ふふふ、尻拭いも旅の一部じゃ。
……だがの、旅には癒しも必要なんじゃよ、カノンくん!」
アークの目は輝いていた。
彼の頭の中では、美女たちがビキニ姿で手を振る“ハーレムパラダイス”が展開中。
アーク:「はっはっは! この国は男女比1対1000らしいぞ! つまり――」
しゃも:「はい、計算上“ほぼハーレム”ですね」
アーク:「ぴぇぇぇ! 神はまだわしを見捨てておらなんだ!」
カノン:「……いやな予感しかしません」
入国ゲートをくぐる。
門番の女性兵士が無愛想に言った。
「次の方、入国証を」
アーク:「おぉ、麗しき女性兵士殿。ようやくわしの時代が――」
「はい、男性ですね。税2倍です」
「ぴぇぇぇぇぇ!?」
しゃも:「出鼻をくじかれましたね」
アークは銀貨をしぶしぶ渡しながら、門をくぐる。
だが、入ってすぐに――目の前の光景に呆然と立ち尽くした。
街は水路が張り巡らされ、橋の上には無数の美女。
どの女性も陽光を浴びながら、ビキニや軽装のリゾート姿。
「ぴぇぇぇぇぇ……ま、眩しいのう……!」
アークの目がキラキラと輝く。
だが、次の瞬間。
「ちょっとアンタ、通らないで!」
「汗くさっ! 何このおじいさん!」
「男とか久しぶりに見たわー、うわ、やっぱ無理!」
アーク:「ぴ、ぴぇ!?!? なんじゃこの塩対応!!」
しゃも:「“塩対応の国”と呼ばれているらしいですよ」
アーク:「そんなニックネームあるんかぁ!!」
カノンはそっとフォローした。
「でも……アーク様、みんな綺麗ですね!」
「綺麗なのは認める! だが態度が冷たすぎるのじゃぁ!」
港の市場を歩く二人。
アークは周囲の女性たちにことごとく避けられ、
「男だ」と囁かれるたびに道を開けられていた。
だが――カノンの方は違った。
「まあ! あなた可愛いじゃない!」
「肌ツヤツヤじゃない! どこのサロン使ってるの!?」
「この水着似合いそう〜!」
あっという間に人だかり。
店員から観光客まで、皆カノンの周りに集まっている。
カノンは頬を赤らめながら、
「え、えっと……ありがとうございます……!」と困り笑い。
アークはその光景を少し離れた場所から見つめていた。
しゃもが冷静にコメントする。
「アーク様、完全に“かやの外”ですね」
「ぴぇぇぇぇぇ……なんでじゃ! わしも同じ人じゃぞ!」
「そこが問題なんですよ」
「むぅぅぅぅぅ! この国は見る目がなさすぎる!!」
アークは悔しさを押し殺しながら、
しゃもじを握りしめて小声でぼやいた。
「……わしの方がツヤはあるんじゃがな」
しゃも:「それは油です」
「やかましいわ!!」
その後、カノンが屋台で貝殻のアクセサリーを勧められ、
「似合うわよ!」と周囲の女性たちに囲まれていた。
アークは遠くから腕を組み、唇を尖らせる。
「(むぅ……こうなったらわしも何かで注目を――)」
その瞬間、アークの目がギラリと光る。
「そうじゃ……“料理”で勝負じゃ!」
しゃも:「やっと本職に戻りましたね」
アークは宿の前で腕を組み、真剣な顔になった。
「……よし、方針を決めた。女の心が氷なら、飯で溶かせばよい!」
しゃも:「アーク様、それいつものパターンです」
「よいかしゃも、古の格言にこうある――“胃袋を制する者は世界を制す”!」
「そんな格言ありません」
その日の昼下がり。
アークはしゃもじを釣竿代わりに振り回し、魔力糸で海をなでるように操った。
結果――見事な**くる魔エビ(車海老)**を100匹以上釣り上げていた。
アークはくる魔エビの束を手に取り、ニヤリと笑った。
「ふっ、今日の獲物は上物じゃ……! 肉厚、艶、色つや完璧!」
しゃも:「アーク様、魚市場のバイヤーみたいな口調です」
アークは構わずしゃもじを掲げる。
「しゃも、レシピ検索じゃ!」
しゃも:「はいはい……《検索結果:アヒージョ。評価:モテ度A、満腹度S》」
「よし、それじゃそれに決まりじゃな!」
アークは素早く大きなフライパンを取り出し、火を灯す。
オリーブオイルを注ぎ、刻んだにんにくを落とすと――
じゅわぁっと、香ばしい香りが広がった。
そこにエビを投入。殻がパチパチと音を立て、油が跳ねる。
「ぬぅ……! この音、この匂い……戦場に響く鐘のようじゃ!」
しゃも:「例えが毎回物騒なんですけど」
通りの女性たちが足を止め、香りのする方へと顔を向ける。
「なにこれ……いい匂い……」
「エビの香ばしさ……食べたい……」
アークの口角が上がる。
「ふふふ、ようやく時代がわしに追いついたか!」
しゃも:「ただのアヒージョですよ」
アークはしゃもじでオイルをすくい、火加減を調整。
塩とハーブをひとつまみ。
「**塩梅こそ人生――すべてはバランスじゃ」
しゃも:「今のはちょっとカッコいいですね」
「当然じゃ。わしの名はアーク・エルディア、飯で世界を救う男じゃからな」
やがてフライパンの中でエビが黄金色に輝く。
アークは皿に盛り付け、仕上げにパンを添えた。
「さぁ、食べてみるがよい! これぞ“エルディア流アヒージョ”!」
女性たちは恐る恐る口に運ぶ。
そして、次の瞬間――
「う、うまっ……! これ……すごくおいしい!」
「オイルが甘い! エビの旨味がすごい!」
「おかわりないの!?」
アークは胸を張り、しゃもじを高く掲げた。
「ふふふ、どうじゃ? 飯は国境を越えるんじゃ!」
しゃも:「……胃袋100点、恋愛0点ですね」
カノン:「でも……アーク様の料理、私は大好きです!」
「ぬははは! そうかそうか、もっと食え!」
アークは自分でも味見をしながら、しゃもじをスプーン代わりにオイルをすくう。
「……ぬぅっ、絶妙じゃ……! エビの甘みが油に溶け、ガーリックの香りが舞う……!」
しゃも:「アーク様、実況が完全に“グルメ番組”です」
カノン:「でも本当においしいですっ! パンが止まりません!」
アーク:「パンはオイルを掬うためにあるんじゃ。掬え、カノン! 掬うんじゃ!」
しゃも:「名言のようで名言じゃありません」
そんな騒がしい中でも、女性たちは次々にアヒージョを食べ、感動の声を上げていた。
だが――最後に一人の美女が言い放つ。
「でも男はイヤ」
「料理だけ貰って帰るね!」
アーク:「ぴぇぇぇ!?!? 心は掴めんのかぁぁぁ!!!」
しゃも:「アーク様、今回も敗因:性別」
アーク:「世知辛いのう……!」
それでもカノンはにこにこしながら言った。
「でも、アーク様の料理、私が世界で一番好きですよ!」
アークはしゃもじをくるりと回し、苦笑した。
「……ま、わしにはお前らがおれば十分じゃ」
しゃも:「※なお、ハーレム計画は初手で破綻しました」
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