第33話 反射
鍛冶場の炎が赤々と燃え上がり、金属を打つ音が山に響く。
グランは汗をぬぐいながら、鉄槌を振るっていた。
「よし、ここの温度を保て! クリスタルは扱いを誤ると砕けるからな!」
その横で――アークは袖をまくり、しゃもじを手にキラリと光らせた。
「任せるのじゃ! わしにかかれば百人力よ!」
しゃも:「嫌な予感しかしませんけど」
アークは溶けかけた鉄塊の前に立ち、気合い十分。
「よぉし……いざ参る!」
カーンッ!! カーンッ!! カァァァンッ!!!
……金属音が、やけに軽い。
グランが振り返り、絶句した。
「……おい、それ、しゃもじで叩いてるのか?」
アーク:「ふむ、わしのしゃもじは万能じゃ。焼く、煮る、叩く、全対応!」
しゃも:「……叩くのは対応外です」
グランは頭を抱えたが、ふとアークの方を見ると、
しゃもじの表面に魔力が流れ、鉄がなめらかに整形されていく。
「なっ……なんだと!? 金属が均一に伸びてる……!?」
アークは得意げに笑い、しゃもじをクルッと回す。
「ふふふ、わしは元・大魔法使いじゃ。
熱と金属の“会話”ぐらい、お手のもんじゃよ!」
グラン:「くっ……ぐぬぬ、認めたくねぇが職人技だ……!」
しゃも:「職人技(魔法)ですね」
その後も二人は火花を散らしながら黙々と作業を続けた。
アークが魔法で温度を調整し、グランが金槌で仕上げる。
まるで魔法と技術の共演だった。
グランはふと笑みを漏らす。
「……アーク殿、あんた、悪くねぇな」
アークは鼻を鳴らして答える。
「当然じゃ。飯作りも鍛冶も、熱の扱いが命じゃからのう!」
しゃも:「料理と鍛冶を同列に語る人、初めて見ました」
カノンは鍛冶場の隅で、ニコニコとその様子を見つめていた。
「すごい……アーク様、本当にかっこいい……!」
アーク:「ふっ……まぁの、見惚れるのも無理はない」
しゃも:「もう調子に乗ってる」
こうして――
“しゃもじを持つ謎のドワーフ職人”の噂が、
鍛冶場の仲間たちの間で広がり始めたのだった。
後日。
鍛冶場の炎が落ち着く頃、グランが額の汗をぬぐった。
「……できたぞ! 国宝“クリスタルメイル”だ!」
光り輝く青白い鎧。
細部まで丁寧に研磨され、まるで氷の彫刻のような美しさだった。
胸元の紋章には“竜としゃもじ”を模した意匠が刻まれている。
「ふはははは! 完璧じゃ! ……いや、誰がしゃもじ彫ったんじゃ!!?」
「注文に“持ち主の魂を刻め”って書いてあったからな」
しゃも:「職人魂の暴走ですね」
アークは満面の笑みで鎧に腕を通す。
「ぬぅっ……! このフィット感! この光沢! わしが主役みたいじゃ!」
しゃも:「主役どころか、魔王側の最終ボス感ありますね」
鎧のクリスタルは魔力を自動で吸収・反射する仕組み。
王が説明する。
「この鎧は“魔法反射結晶”を核にしておる。
攻撃魔法を受けても、同じ威力で跳ね返すぞ!」
アーク:「ほぉ……ならば、試してみるか!」
しゃも:「いやな予感しかしません」
城門の外。
アークはしゃもじを握りしめ、胸を張った。
「では、初級魔法――《フレイム・バレット》!」
火の玉が放たれ、吊るされた鎧に命中。
バチンッッッ!!
瞬間、反射魔法が作動。
炎は2倍の威力で跳ね返り――
自分に直撃した。
「ぴぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
爆風と煙。
辺りに焦げた匂いが漂う。
しゃも:「アーク様、感想をどうぞ」
アークの身につけた鎧は……真っ黒に焦げ、ところどころ溶けていた。
アークは膝をつき、煙を吐きながら呟いた。
「……すばらしい反射性能じゃった。
問題は……使用者の運命も反射されたことじゃ……」
しゃも:「原因は単純です。
アーク様の魔力が強すぎたうえに――しゃもじで叩いて作った鎧なので、
反射後の魔法の威力が“2倍”に強化されてしまったようです」
アーク:「ぴぇぇぇぇ!? わしのしゃもじ製ハンマーが裏目に出たぁぁぁ!!!」
カノンは青ざめながら駆け寄る。
「アーク様っ!! お体は!? やけどは!?」
「問題ない……わしの誇りが焦げただけじゃ……」
しゃも:「誇りと鎧、両方燃え尽きましたね」
その後、
黒焦げの鎧を背負いながら街を歩くアークの姿があった。
歩くたびに“カチャ、カラ…”と乾いた音が鳴る。
「ふぅ……この音、悲しみのメロディじゃのう……」
カノン:「アーク様、次は普通の布の服にしましょうね」
しゃも:「“燃えにくい”っていうのも性能のうちです」
アークは空を見上げ、静かにため息をついた。
「……結局、竜騎士より、わしはやっぱり料理人が似合うのかのう」
しゃも:「ですね。焦げた鉄の香りが似合うのは、料理人です」
「うるさいわい!!」
グランの鍛冶場。
日が差し込み、鉄を打つ音が心地よく響いていた。
そこへ、すすけたアークがのそのそと現れた。
「の、のお……グランよ。鎧の調子が……少々な……」
グラン:「少々!? おい……まさか――」
アークがマントをめくると、
そこにはボロッボロに焦げたクリスタルメイルの残骸。
肩の部分は炭化し、胸のあたりは見るも無残な穴だらけ。
グランの顔がみるみる青ざめていく。
「な、なぁアーク殿……まさか……試し撃ちなんかしてねぇよな……?」
アークは目を逸らし、鼻を鳴らした。
「……まぁ、試し“軽く”撃ってみただけじゃが……」
「軽くでこうなるかぁぁぁぁぁぁ!?!?」
鍛冶場に響く怒号。
ハンマーを握ったままのグランの腕がプルプル震えている。
しゃもがぼそり。
「実際には威力“十倍”+反射“二倍”の合計二十倍です」
「ぴぇぇぇぇ! しゃも余計なことを言うでない!」
そのとき――
鍛冶場の外から慌ただしい声が聞こえた。
「王の使者だ! 装備の仕上がりを確認しに来たぞー!」
アーク、グラン、カノンの三人がピタリと動きを止めた。
グラン:「……やばい。バレたら首が飛ぶ」
アーク:「いや、飛ぶのは多分わしの方じゃ」
しゃも:「燃えたあとに飛ぶのは珍しいですね」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、アークが勢いよく叫んだ。
「撤収じゃ!!!」
しゃも:「早いですね決断!」
カノン:「は、はいっ!!」
アークは焦げた鎧とカノンの鎧を収納魔法で即座に隠し、
煙を上げながら鍛冶場を飛び出した。
グランはその背中に叫ぶ。
「また来いよ! 次は“燃えない仕様”で作ってやるからな!!」
「頼んだぞぉぉぉ!!」
城門を抜けるころには、
アークの焦げたマントが風になびいていた。
しゃも:「アーク様、次はどちらへ?」
アーク:「……もう火の魔法はこりごりじゃ。水の国にでも行くかの」
カノン:「アーク様、背中まだ煙出てますよ!」
アーク:「ぴぇぇぇ!? 誰か水をぉぉぉぉ!!!」
こうして、
“鎧を燃やした賢者”アーク・エルディア一行は、
再び新たな尻拭いの旅へと出発した――。
お付き合いいただきありがとうございました。




