第32話 欲しいもの
翌朝、街はまだざわついていた。
「“塩賢者”が宿に泊まっているらしい!」
「魔法使いなのにドワーフみたいだって噂だ!」
「昨日、塩が光ったって本当か!?」
アーク:「……なんか、どんどん話が盛られてないか?」
しゃも:「もはや“塩が踊った”とか“塩がしゃべった”説まで出てます」
カノン:「あはは……みんな、アーク様のことを信じてる証拠ですよ!」
アーク:「信仰って怖いのう……」
そんな他愛もない会話をしていると、
宿の前に――黄金の鎧に身を包んだ騎士団が整列していた。
「ドワーフ王国直属の近衛隊です!」
店主が青ざめて叫ぶ。
そして、騎士の一人が声を張り上げた。
「“塩賢者アーク・グルメディア殿”! 国王ガルドロム陛下がお呼びである!」
店内の全員がアークを見る。
アークはしゃもじを持ったまま固まった。
「ぴぇぇぇぇぇぇ!? わし、また捕まるんか!?」
しゃも:「いや、今度は褒められる側ですよ、多分」
黄金の馬車に乗せられ、アークとカノンは城へと向かう。
街の人々が道の両脇から手を振っている。
「塩賢者さまー! うちのパンにも祝福をー!」
「次の塩フェスいつですかー!?」
アーク:「フェス化しとるぅぅぅ!!!」
しゃも:「アーク様、もう半分観光地のマスコットですね」
カノン:「でも……すごいです。アーク様が国を変えてます!」
アークは恥ずかしそうに頬をかきながら、
「ぬぅ……わしはただの料理人じゃったのに……」と呟いた。
城の玉座の間に通されると、
鉄の王冠をかぶったドワーフ王・ガルドロム三世が立ち上がった。
「アーク・グルメディア殿! その働き、余も聞き及んでおる。
お主が“奇跡の塩”で民を救ったと――!」
アークは恐縮してしゃもじを胸に当てた。
「いやぁ……あれは、ただの料理の副産物でしてのう……」
しゃも:「“副産物で国家救済”って」
王は笑いながら続ける。
「余は思う。――そなたの知識と力、ぜひこの国の“魔導顧問”として仕えてほしい!」
その瞬間、周囲の貴族たちがざわめく。
「魔法使いを城に!?」「あり得ぬ!」
「陛下、ドワーフの伝統が汚れますぞ!」
アークは冷や汗を流しながら苦笑した。
「ぴぇぇぇ……わし、空気が完全にアウェーなんじゃが……」
しゃも:「安心してくださいアーク様。全方向に嫌われるのはもう慣れましたね」
王は一歩進み出て、
「どうか、この国に残り、力を貸してほしい」と頭を下げた。
アークは少し黙り込み、
しゃもを軽くトントン叩いてから言った。
「……わしは旅の途中じゃ。他にも助けを求めている者がおるかもしれん。たぶん。」
カノンがそっとうなずく。
アーク:「ただ、困ったときは飯を作りに戻ってくる。それでよかろう?」
王はしばし黙ってから――
大笑し、豪快にうなずいた。
「うむ! それでこそ“塩賢者”だ!」
アーク:「やめぇぇぇぇい!! その呼び名、ほんとやめぇぇぇぇぇ!!!」
王は笑いを収めると、再び玉座に戻り、
ゆっくりとアークを見つめた。
「……そなたのような者に出会えたこと、国の誇りである。
アーク殿、褒美を取らせよう。望むものは何だ?」
アークは即答した。
「かっこいい竜騎士の装備じゃ!
あと、武器は剣がいい! 大きくて、キラキラして、光るやつ!」
しゃも:「子どものプレゼント希望みたいですね」
カノン:「アーク様……剣、使えましたっけ?」
アーク:「見た目が大事なんじゃ!!」
そのとき、しゃもがピカッと光りながら冷静に言った。
「……ところでアーク様。
この国に来た本来の目的、覚えておられますか?」
アークは自信満々に胸を張る。
「もちろんじゃ! ドワーフの国の飯と酒を味わうため――」
「違います。カノンの装備を整えるためです」
「ぴぇぇぇぇぇぇ!? 本当じゃ! すっかり忘れておった!」
カノンは慌てて手を振る。
「い、いえっ! アーク様の装備も素敵ですよ!」
しゃも:「フォローが優しすぎて逆に泣けますね」
アークは頬を赤くして頭をかきながら、
「ま、まあ……わしの装備を先に試して、
そのあと同じ素材でカノンのも作ればええ! 順番の問題じゃ!」
しゃも:「つまり“おそろい装備が欲しいおじいちゃん”ですね」
アーク:「うるさいわい!!」
王はそのやり取りに大笑しながら頷いた。
「よかろう。では――竜騎士装備、二人分だ!」
カノン:「えっ!? あたしの分も!?」
アーク:「ふふふ、当然じゃ。竜と竜騎士、揃ってこそ絵になるんじゃ!」
しゃも:「……言ってることだけは格好いいですね」
王はその勢いに少し引きつりながらも笑みを浮かべた。
「……よかろう。ではこの国の至宝――“クリスタル鉱石”を使おう。
ドワーフ一の鍛冶師、グランに命じて作らせる!」
その場にいたグランが目を丸くする。
「お、王よ!? クリスタル鉱石は国宝級の素材では……!」
王はどっしりと頷いた。
「民と国を救った“塩賢者”のためじゃ。文句あるまい」
アーク:「誰が塩賢者じゃああぁぁぁ!!!」
しゃも:「正式採用、ありがとうございます」
カノンは目を輝かせながら言った。
「アーク様! 本当に竜騎士みたいになっちゃいますね!」
アークは鼻を高くして、腕を組んだ。
「ふふん……まぁ当然じゃ。昔のわしはな、鎧姿も似合っとったんじゃぞ」
しゃも:「エプロンの似合う大魔法使い、ですよね?」
アーク:「ぴぇぇぇ!? それは言うな!!」
後日、王命を受けたグランは鍛冶場に戻り、
炎の前で拳を握りしめた。
「国宝のクリスタルで作る竜騎士装備か……!
アーク殿のためなら、全身全霊で打たねばな!」
王国随一の鍛冶場では、
鉄の音が山脈全体に響き渡った。
その様子を見たアークは、
「ふむ、これでわしも“竜騎士の見た目をした料理人”じゃな」
と、満足げにしゃもじを撫でる。
しゃも:「肩書きがどんどんカオスになっていきますね」
カノンは笑いながら頷く。
「でもアーク様、やっぱり……かっこいいです」
アークはちょっとだけ照れ、
ウォッカを一口あおって言った。
「ふむ……“かっこいい”か。
……悪くない響きじゃのう」
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