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異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


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第25話 市場

宴の後。

アークは王から直々に呼び止められた。


「アーク殿、そなたへの感謝のしるしとして、明日正式に褒賞を授けたい」


「ほう、そりゃまた立派な話じゃ。ぜひ受けさせてもらおう」


アークは鼻を鳴らして胸を張る。

しかしその後、すかさず手をもみもみしながら続けた。


「ところで陛下……その前に、少々お願いがあるのじゃがのう……

 じつは、明日城下で買い出しをしたくてのぉ。手持ちが、ゼロじゃ」


王は苦笑いを浮かべ、金貨を数枚取り出した。

「ははは、それは困ったな。これを使うがいい。明日の支度金だ」


「おおっ、さすが王様! 太っ腹じゃのう!」

アークは感激して目を輝かせた。


翌日。

アークとカノンは、城下でもっとも賑わう「魔導市場マギアバザール」へと足を運んだ。


通りに一歩足を踏み入れた瞬間――

香辛料と焼き物の香りが風に乗り、ふたりの鼻をくすぐる。

鉄鍋で煮えるスープ、風魔法で回される焼き串、

炎魔法で炙られる肉の香ばしい煙。

通りの両脇には屋台がびっしりと並び、人の声と魔法の光が溢れていた。


「ぴぇぇぇぇ……これが“文明の香り”というやつかのう……!」

アークは目を輝かせながら鼻をひくつかせ、まるで犬のようにあちこち嗅ぎ回る。


カノンはというと、初めて見る屋台の数々にすっかり夢中になっていた。

焼き果実の屋台では、魔法の炎でカラメル状に焼かれた果実がキラキラと光り、

風魔法の屋台では、浮遊する糸で飴細工が形作られている。


「アーク様っ! 見てください! この飴、空中で回ってます!」

「おおぉぉぉ……重力無視の芸術じゃな! わしのはもっと凄い重力を操れるぞい……!」


しゃもがため息をつきながら光る。

「完全に観光客ですね。目的を忘れてません?」


アークは顔を引き締めると、

「忘れておらん! 今日は調味料探索の日じゃ!」

と力強く宣言した。



アークは次々と露店を巡り、片っ端から調味料をチェックしていく。

「ふむ、この香りは……“ドラゴンペッパー”か。上級者向けじゃな」

「この岩塩、粒がでかいのう。しゃも、砕けるか?」

「砕けますけど、私しゃもじですからね?」


通りの店主たちは、アークのあまりの真剣さに圧倒されていた。

「おじいさん、料理人かい?」

「いや、おじいさんではない。ただの“飯の探求者”じゃな」


アークは調味料を片っ端から購入し、袋がどんどん膨らんでいく。

カノンはそんなアークの後ろで、

笑顔を浮かべながらあちこちの屋台に首を傾げていた。


「アーク様、これ、甘い香りがします!」

「むぅ、これは……“砂糖”じゃな。高級品じゃ。確保じゃ!」


「わぁ……これ全部、食べ物に使うんですね……」

「当然じゃ。飯は人生そのものじゃ」


しゃも:「この調子だと報酬より先に破産しそうですね……」


カノンはくすくす笑いながら、

「でも……こういうの、楽しいですね」

と呟いた。


アークは頷き、

「うむ。食材を見ていると、生きておる実感がわくのう」

と、袋を抱えて満足げに笑った。



市場を出るころには、

アークの両腕は戦場帰りのようにパンパン。

袋の中には塩、胡椒、香草、乾燥肉、そして高価な砂糖までぎっしり詰まっていた。


しゃも:「……おじいさん、それ担いで歩くんですか?」

アーク:「うるさいわい! これが未来の幸福の味なんじゃ!」

カノン:「ふふっ……アーク様らしいです」


魔法の国の朝日は、そんな三人の背をきらめかせていた。



そしてその日の午後。

大広間で、正式な授与式が行われた。

両脇には貴族たちがずらりと並び、金の光沢が反射する豪華な空間。


アークは堂々と胸を張って進む。

カノンは緊張で背筋を伸ばし、後ろでこそこそ歩く。


「アーク・エルディア殿、国の救済と王位奪還の功績により、

 金貨一万枚を授ける!」


「ぴぇぇぇぇぇぇっ!! い、一万じゃと!? 夢じゃないか!?」


アークの目が金貨の形に輝き、ヨダレがつーっと垂れた。

しゃも:「……もう完全に子どもですね」


カノンはくすっと笑って言う。

「よかったですね、アーク様!」


だが次の瞬間――


財務大臣がよそよそしく手帳をめくりながら口を開いた。

「ちなみに……今回の戦闘による城の修繕費、金貨九千九百九十九枚になります」


「…………………………ぴぇ?」


「残り一枚は切手代に充てますので、よろしくお願いします」


アークは石のように固まった。

しゃも:「自業自得ですね。城、吹き飛ばしましたもんね」


カノン:「つぎ頑張りましょう、アーク様……!」



意気消沈したアークは、

「もう今日中にこの国を出る」とぼそぼそ呟き、旅支度を始めた。


出発の時。

城門の前には、王が直々に見送りに現れた。


「アーク殿、改めて礼を言う。そなたがいなければ、この国は滅んでいた」


アークは肩を落としながらも頭をかいた。

「いやぁ、まあ、飯も食えたし、それなりに楽しかったわい……」


王はふと思い出したように笑い、

「ああ、そうだ。昨日貸した金貨、返してくれな」


「………………は?」


「貸しだぞ? “貸し”だったぞ?」


「ぴぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!? あ、あれ“支度金”じゃなかったのかぁぁぁぁぁ!?」


しゃも:「アーク様、貴族どころか庶民でも理解できる契約違反ですよ」


カノン:「アーク様、また頑張って稼ぎましょう!」


アークは肩を落とし、

「世の中、飯より世知辛いのう……」とため息をついた。


王は優しく笑みを浮かべ、続ける。


「“返す理由”があれば、またこの国に来るだろう?

 そなたのような者に、もう一度会えるなら、金貨など安いものだ」


一瞬の沈黙。

アークは鼻を鳴らしてそっぽを向く。


「……そんな小粋な真似をするとは、やるのう、王よ。

 だが、わしは借金取りに追われるような人生は好かんのじゃ」


しゃも:「じゃあ、返しに来るってことですね」


アーク:「ぴぇっ!? いや、だから違うと言っとるのに!」


カノンは笑いながら手を振る。

「王様、またお会いしましょうね!」


門の向こう、旅路へと踏み出す前に、

カノンが王の首元を指さした。


「アーク様のマフラー、まだ王様がつけてますね」


アークはちらりと振り返る。

日に照らされたマフラーが、まるで柔らかな光を放つように揺れていた。


しゃも:「結果的に、あのマフラーがこの国を救ったわけですね」


アーク:「……夜なべの甲斐があったというもんじゃ」


カノン:「ふふっ、やっぱり優しいですね、アーク様」


「うるさいわい!」


そんな調子で、

“マフラーで国を救い、借金を背負って旅立つ英雄”は、

今日もしゃもじを杖に、“借金を返すため”――いや、“また飯とうまい出会いを求めて”。

彼らの旅は、まだまだ続くのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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