第24話 決着
城門を吹き飛ばし、兵士をなぎ倒し、魔導師を空に舞わせ──
アークたちはついに王座の間へとたどり着いた。
「……ふぅ、思ったより骨が折れたのう。
年寄りにはちと運動量が多いわい」
「いやアーク様、これ運動のレベル超えてますから! 物理的に破城してますから!」
しゃもが思わず悲鳴を上げる。
広間の奥、豪華な赤い絨毯の上には、あの肥満王──
いや、“偽王”がふんぞり返って座っていた。
両脇には金ピカの鎧を着た近衛兵が立ち、顔には緊張と恐怖が入り混じる。
偽王はブチ切れ気味に叫んだ。
「貴様ら、何者だっ!! この余の城を何だと思っている!」
アークは胸を張って答える。
「王の再教育施設じゃ!」
「なっ!? なにを──!」
「お前さん、偽物じゃろ。
本物の王はもう“目を覚ました”ぞい。
……牢の中でな!」
その言葉に、偽王の顔がみるみる青ざめる。
しかし次の瞬間、無理に笑って取り繕った。
「ば、馬鹿なことを言うな! 前王は死んだ! 我こそが真の王だ!」
カノンが一歩前に出る。
「あなたのような王が国を腐らせたんです!」
偽王が嘲笑を浮かべる。
「ほう……その口の利き方、教えてやる必要がありそうだな。
――衛兵ども! 焼き払え!」
数十人の魔導兵が一斉に魔法陣を展開。
だがアークはすでにしゃもじを構えていた。
「しゃもじアクティブモード、オン!」
光が走る。
しゃもじの先端が魔力を吸収し、周囲の魔法が一瞬で消える。
そして次の瞬間、逆流した魔力がドカーンと兵士たちを吹き飛ばした。
「ぎゃあああああっ!?!?」「魔法が! 魔法が跳ね返ったぁぁ!!」
しゃもが静かに解説する。
「《しゃもじ・リフレクト》。相手の魔法を“調理して”返す最悪のスキルです」
アークは仁王立ちで言い放つ。
「うむ、この国の“腐った味”はこれで十分味わったわい!」
その瞬間、王座の後ろにかかっていた巨大な王国旗が燃え落ち、
玉座の光が偽王の顔を照らした。
その頬には冷や汗がつたう。
「ひ、ひぃ……ま、待て! た、助け──」
アークは静かにしゃもじを構え、
「――もうお腹いっぱいじゃ」と言って、
しゃもじの一撃で王冠を弾き飛ばした。
王冠は床を転がり、火花を散らして止まる。
その瞬間、兵士たちは一斉に武器を捨て、頭を下げた。
「も、申し訳ありませんっ! 本物の王が……お戻りに!?」
カノンが安堵の息をつき、アークの横に立つ。
しゃもがぼそりと呟いた。
「……結果だけ見れば、完全にクーデター成功ですね」
アークはしゃもじを腰に差し直し、
「ほれ見ろ、わしを誰だと思っとる? 千年生きた老人は伊達ではないのじゃ」
カノン:「さすがアーク様! やっぱり無敵です!」
しゃも:「いや、無鉄砲の間違いでは……」
玉座の間に静寂が訪れた。
燃え残った絨毯の上で、偽王の冠がカランと音を立てて転がる。
「――ふぅ、やれやれじゃ。
少しは運動不足が解消されたかのう」
アークはしゃもじを肩に担ぎ、満足げに鼻を鳴らした。
しゃもがぼそりと突っ込む。
「いえ、それはもう戦争レベルの被害ですから」
王国兵たちは次々と膝をつき、玉座の奥から真の王――
あの牢屋で復活した王がゆっくりと姿を現した。
彼の胸元には、アークが編んだ“マフラー”がまだ巻かれている。
「……戻ったか、我が国よ」
広間にいた兵士たちは一斉に頭を垂れ、
歓喜と涙が交錯した。
カノンは胸に手を当てて言った。
「本当によかったですね……アーク様」
アークは腕を組んで、ふんと鼻を鳴らす。
「わしのしゃもじにかかれば、この程度よ」
王位再建の申し出
やがて王がアークの前に歩み寄り、深々と頭を下げた。
「アーク殿、あなたはこの国の恩人だ。
もし願いがあるなら、何でも叶えよう。
……この国を共に立て直してはくれぬか?」
アークはその申し出を聞いて、数秒考えた。
しゃもが「まさか、まじめに考えてます?」とつぶやく。
「……うむ。立て直すのは良いが……」
アークは顎を撫で、真剣な顔で言った。
「正直、めんどくさい」
王:「……え?」
アーク:「書類仕事、会議、責任……すべてわしの敵じゃ」
しゃも:「いや、敵視の方向おかしいですよ」
王は一瞬ポカンとしたが、すぐに笑い声を上げた。
「ははは! なるほど……貴殿は真に自由な人だな。
では、せめて恩人として宴を開かせてくれ!」
アーク:「……飯が出るなら断る理由はないのう!」
その夜。
王の帰還と国の再生を祝う宴が、王城の大広間で盛大に開かれた。
金色の燭台が光を放ち、長いテーブルには、見たこともない豪華な料理が並ぶ。
湯気の向こうで、肉と香草の香りが渦を巻き、空腹を容赦なく刺激してくる。
「ふむぅ……なかなか見た目は悪くないのう」
アークは腕を組み、料理評論家のようにうなりながら椅子に腰を下ろした。
出てきたのは、豚のロースト、黄金スープ、貝のクリーム煮、そして香草たっぷりの焼きパン。
その一つひとつを、アークはまるで審査員のようにじっくり観察していく。
「香りはよいが、肉の焼きが五秒ほど早いのう」
「塩加減、あとひとつまみ足らん……」
「スープは悪くない、悪くないが――わしのしゃもじでかき混ぜれば完璧じゃな」
しゃもがテーブルの上で光りながら、呆れ声を漏らす。
「アーク様、食べる前に減点方式やめましょうよ……」
「評論は心の準備じゃ。味わうための儀式じゃよ」
そう言ってアークはスプーンを手に取り、黄金スープを一口すすった。
その瞬間――
「ぴぇぇぇぇぇっ!! うんまいっ!!」
あまりの衝撃に、アークの目が見開く。
「こ、これは……舌にとろけるような滋味、そして後を引く香草の香り……!
わしの千年の味覚を震わせおったぁぁ!」
しゃもが小声でぼそり。
「……結局おいしいんじゃないですか」
次に、ウェイターが赤いワインを注ぐ。
アークはグラスを持ち上げ、慎重に観察する。
「ふむ……色は深いルビー、香りは甘い果実と樽の気配。よし、いざ――」
一口、くいっと。
「ぴぇぇぇぇぇっ!! これもう“飲む宝石”じゃ!!」
そう叫びながら、アークはうっとりと目を閉じた。
だが数秒後――
「……じゃが、ほんの少し渋みが強いのう。しゃもじでかき混ぜればよくなるかもしれん」
しゃも:「いや、絶対混ぜちゃダメです!」
カノンは横で笑いながら、パンをちぎってスープにつける。
「アーク様って、本当に食べるのが好きなんですね」
「うむ、飯こそ命の源じゃ。
この世の理は“うまいものが正義”じゃ!」
しゃも:「もはや哲学ですね、それ……」
カノンは隣で微笑み、
「でも……こうしてみんな笑ってるの、すごく素敵です」と呟いた。
アークは頷き、
「うむ。飯とうまい酒があれば、人は幸せになれるのじゃ」
その言葉に、王は深く感銘を受け、
「……その言葉、国の新しい理念にしよう」と真顔で言った。
しゃも:「……もうこの国、“食と笑いの王国”になりますね」
大広間は笑い声と香ばしい匂いに包まれ、
その夜は、久々に“心から平和な宴”となった。
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