第23話 一点突破
牢屋の中、食後の温もりがまだ残っていた。
王は器を置き、長い沈黙のあと、ぽつりと語り出す。
「……余は“あの肥満の王”ではない。あれは、余であって余ではなかったのだ」
アークが眉をひそめる。
「つまり入れ替わりかのう?」
王は頷く。
「一年前、勇者がこの国を訪れ、魔王を倒す術――古代封印魔法を求めた。
余は直々に図書館へ案内したのだが……勇者が黒い本を手に取った瞬間、封印が発動した。
余の肉体は石と化し、魂だけが封じられた」
カノンが息を呑む。
「じゃあ……勇者が?」
「勇者は己の過ちを隠すため、“魔王の罠だ”と叫び逃げた。
混乱の中、第一王子が王位を奪ったのだ」
アークはしゃもじを撫でながら、苦笑する。
「ほう……わしの夜なべマフラーが、まさか封印を解くとはのう」
しゃもがぼそり。
「まさに“ぬくもりで世界救済”前代未聞ですね」
王は深く頭を下げる。
「恩人よ、名を聞かせてくれ」
「アーク・エルディア。千年を生きた大魔法使いじゃ。
――しゃもじ片手に、グルメ探求の旅をしておる」
王は驚き、やがて小さく笑った。
「……奇妙だが、不思議と納得できる名だな」
王は深くため息をつきながら言った。
「……古代魔法書は、もう存在せぬ。
あれは“封印と同時に消滅する”一度きりの呪具だった。
ゆえに、今となっては取り戻す術もない……」
アークは腕を組み、うーむと唸ったあと、ニヤリと笑う。
「ならば話は早い。
残る問題は、王の座を奪い返すことじゃな」
カノンが目を丸くし、しゃもが青ざめた。
「ま、まさかアーク様……」
アークは胸を張り、しゃもじを掲げる。
「王位奪還作戦じゃ!!」
王は驚きのあまり立ち上がりかけた。
「ま、待て! あの第一王子の背後には衛兵千人、
さらに魔導師団まで控えておるのだぞ!?
まともに戦えば勝ち目など――」
「わかっとる、わかっとる」
アークは軽く手を振って制する。
「だからこそ、わしが考えた。作戦名――『正面突破』じゃ!!」
「……いや、考えてないですよねそれ!」
しゃもが思わず突っ込んだ。
王は頭を抱え、カノンは「また始まった……」という顔をしている。
しかしアークはすでにやる気満々だった。
しゃもじを肩に担ぎ、やたらと勇ましい声で宣言する。
「わしを誰だと思っておる!
千年を生き抜いた大魔法使いにして、
世界を三度救い、四度こぼしたスープの味も忘れぬ男じゃ!」
「いや、その最後の経歴いります?」としゃもが小声で突っ込む。
アークは聞こえぬふりをして続けた。
「そもそも敵が多いからといって隠れるなど、わしの性に合わん!
堂々と正門から入り、真正面で名乗りを上げ、
“王を返してもらいに来たぞーい!”と叫ぶ! どうじゃ!」
カノンが心配そうに言う。
「アーク様……それ、ほぼ突撃ですよ……?」
「うむ! 古今東西、突撃こそ最も効率のよい戦術じゃ!」
しゃもの光が消え、王が天を仰ぐ。
「……なんという無謀な老人だ……だが、不思議と……希望を感じる」
アークは不敵に笑った。
「安心せい。わしが前を行く。
そして奴らの目の前で、王の“威厳”とは何かを思い出させてやる」
しゃもがぽつり。
「いや……多分思い出すのは“恐怖”か“混乱”のどっちかですけどね……」
アークは聞こえぬふりで、しゃもじを振り上げた。
「では――作戦開始じゃ!
目指すは正門、目的は王座! 腹が減ったら途中で飯!」
こうして、
“千年魔導の老人としゃもじと竜娘”による、
世界一やかましい王城突撃作戦が幕を開けた。
◇◇◇
王座奪還作戦、通称「正面突破」。
作戦立案者:アーク・エルディア。年齢1000歳オーバー。
作戦内容:ド正面から乗り込んで暴れてなんとかする。
……以上。
夜明け前の王都。
城門の前に、妙にやる気に満ちた老人と竜娘、そしてしゃもじが地面に刺さっていた。
「ふふふ……静かじゃのう。夜明け前は奇襲の基本じゃ」
「いや、奇襲って言いましたけど、真正面に立ってますよ今!」としゃもが嘆く。
アークは構わず、しゃもじを掲げて呪文を唱える。
「《フル・マジックブースト・しゃもじモード》――発動じゃ!」
しゃもじがギュインと光り、謎のエネルギー波が走る。
カノンはその迫力に目を輝かせた。
「アーク様、なんかカッコいいです!」
「当然じゃ。わしは千年魔導の大魔法使い――つまり千年分のドヤ顔ができる男じゃ!」
アークは両手を広げ、巨大な魔法陣を展開した。
空気が震え、地面が割れる。
「これぞ――《中級土魔法・大地の目覚め》!!」
どごごごごんッ!!!
地面が隆起し、王城の門ごと兵士たちを持ち上げる。
城門の上にいた衛兵たちは、空中に飛び散った。
「ひぃっ!? 地面が生きてるぅぅ!!」
「ふははははっ! 老いぼれをなめるからこうなるのじゃ!!」
アークがしゃもじを構え直し、今度は火球を投げる。
「《初級魔法フレイム・しゃもじ・カタパルトォォォ!!》」
しゃもじから飛び出した炎の塊が、見事な放物線を描いて門の向こうに落ちる。
ドカァァン!!
「うわああああっ!? な、なんだあの老人!?」
「しゃもじが、しゃもじが火を噴いたぁぁぁ!!」
兵士たちは完全にパニック。
その隙にアークは仁王立ちで名乗りを上げた。
「聞けい愚王の手下ども!!
わしはアーク・エルディア!! 千年前に“歴史を作った”男じゃ!!
そして今から、少し歴史を修正しに来た!!」
カノンが横で拍手している。
「すごいですアーク様! なんか名言っぽいです!」
しゃもが小声でぼそり。
「名言っぽいけど、実際何も言ってませんけどね」
王城内部に突入。
魔導師団が慌てて魔法を構えるが、アークのほうが早かった。
「《低級魔法リバース・スペルフィールド》!」
全員の魔法が逆流し、使用者たちが自分で吹っ飛ぶ。
「ぎゃああああっ!?」「な、なにが起きた!?」
アークは鼻を鳴らす。
「だから言ったじゃろう? “わし昔は偉かったんじゃもん”とな!」
しゃも:「……もはや老害の域ですね」
カノンは笑いながらついていく。
「アーク様すごい! でも、もうちょっと静かにいきませんか!?」 「静かにして勝てるなら、世界はもっと平和じゃ!」
アークが突っ込むたびに兵士が吹っ飛び、魔導師が壁にめり込む。
気づけば城の廊下はまるで台風一過。
残ったのは、しゃもじを杖にした一人の老人と、その隣で頬を紅潮させる竜娘だけ。
しゃもがぽつり。
「アーク様……もう“王位奪還”というより、“単独侵略”ですよ……」
アークは笑いながら返す。
「よいではないか。よいではないか。たまには派手にやらんとのう!」
その声は、まるで千年前の戦場を駆けた英雄そのものだった――
……ただし手に持っているのはしゃもじである。
こんな話にお付き合いいただき、いつもありがとうございます。




