表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/70

第22話 牢屋飯

静まり返った巨大な書庫。

数千冊の魔導書が整然と並び、月明かりが窓から差し込む。


アークは慎重に棚をめくりながら、しゃもに小声で言う。

「ふむ……古代魔法関連の本はこの辺りのはずじゃが……」


しゃもが光を弱めて照らす。

「タイトルが全部“禁断”“封印”“閲覧注意”って書いてありますね。どれも怪しいです」


「全部読むか」

「読む気満々じゃないですか!」


カノンは緊張しながらも、手伝うように棚をなぞる。

「アーク様、この“封印の記録書”って……」


その瞬間──

ガガガガガガッ!!


棚の奥から金属音が鳴り響いた。


しゃも:「……いまの、何の音でしょう?」

アーク:「わしの腹ではないぞ」

カノン:「アーク様、あれ……!」


本棚がスライドし、奥から巨大な**警備魔像ゴーレム**が現れた。

目に赤い魔力の光が宿り、声が響く。


> 「不正侵入者、発見。排除、開始。」



アーク:「ぬわーーーっ!? なんじゃこのタイミングは!!」

しゃも:「侵入者認識、100%正解ですね」

カノン:「逃げましょうアーク様っ!」


アークは慌てて魔法陣を展開。

「《スモーク・しゃも・カーテン!》」


バフッ!!

煙がもくもくと立ち込め──視界ゼロ。


しゃも:「これ、ただの煙じゃないですか!匂い玉ですよ!」

アーク:「えっ!? 間違えた!!」


鼻を押さえてゲホゲホしながら走り出す二人。

後ろからドドドドッと鉄の足音。


> 「逃走行動、検知。追跡モード、起動。」




「あーく様、スパイ映画どころかコントですよこれ!」

「うるさいっ! スパイも逃げるときはこうなるんじゃ!」



カノンは廊下を駆け抜けながら、魔法で床に小さな火の玉を投げた。

「《ファイア・トラップ!》」


爆発!

床が崩れ、魔像の片足がハマる。


「ナイスじゃカノン!」

「えへへっ、褒められた!」


アークはさらにしゃもを構え、叫んだ。

「《リフレクト・しゃもスラッシュ!》!」


……しかし、ただの「カーン!」という音が響いた。

しゃも:「……普通に金属に当たりましたね」

アーク:「今のは試運転じゃ!」



二人は非常口を突っ切り、月明かりの中庭に飛び出す。

アークは息を切らしながら叫ぶ。


「ま、まさか図書館一つにゴーレムまでおるとは……この国、物騒すぎるわい!」


しゃも:「そりゃあ勇者が石化させた王様の本を保管してるくらいですから」

カノン:「……でも、楽しかったですね!」


「た、楽しかったて……!?」

アークは苦笑う。


「まあよい、命あっての物種じゃ。次はちゃんと昼間に入るとするかの」

しゃも:「昼間はもっと衛兵多いですよ」

「…………」


夜風が吹き抜け、二人のシルエットが静かに闇に消えていった。


騒ぎの末、作戦を立て直す為に、再び牢屋に戻ったアーク。

「作戦を立て直す」という名目だったが、実際は逃げるのが面倒になっただけである。


「ふぅ……やはり静かな牢の方が落ち着くのう。計画は立て直しじゃ」


しゃもが小声でツッコむ。

「捕まり直すのを“落ち着く”って言う人、初めて見ましたけどね」


アークは壁にもたれ、ぼんやりと牢の隅を見やった。

そこには、かつてマフラーを巻いてやった“石像”が静かに立っている。


「お主、まだ寒かろうと思ってのぉ……」

アークは苦笑しながら、石像の首に巻かれたマフラーを直した。


しゃもが呆れ声を出す。

「ついに暑くてボケてきましたか?」

「誰がボケ老人じゃ!」


その瞬間――


マフラーがふわりと光を放った。

ほのかな熱が牢内に広がり、空気が揺らめく。


「……おや? なんじゃこのぬくもりは?」

「アーク様、まさか本当に暖房魔法でも発動したんじゃ……?」


だが次の瞬間、石像の表面にヒビが走った。

ピシッ、ピシピシッ――!

音が響くたびにヒビは広がり、眩い光があふれ出す。


アークはしゃもを掲げ、思わず後ずさった。

「お、おいおい、まさか――!」


ドォンッ!


石の殻が弾け飛び、煙と光の中から一人の男が現れた。

黄金の髪に王冠をかぶり、威厳をまとった姿――まさしく“王”そのもの。


「……う、うむ……体が温かい……? 余は……生きておるのか?」


アークはぽかんと口を開けたまま、しゃもを握りしめる。

「え、えぇぇぇぇ!? まさか、あの石像が前王!? いや、いやいや、偶然じゃぞ!? たまたまじゃからな!?」


しゃもが呆然と呟く。

「まさか……マフラーが封印解除のキーとは……。

“ぬくもりで国家再生”って、新しいジャンルですよアーク様」


王はふらつきながら立ち上がり、アークに視線を向けた。

「そなた……余を蘇らせたのか? 感謝する。そなたこそ、真の勇者であろう」


アークは全力で否定した。

「違う違う違う! わしはただのしゃもじじいじゃ! マフラー編んだだけじゃああ!」


しゃもがぼそりと付け加える。

「まさか“おじいちゃんの夜なべ”が王国を救うとは……歴史に残りますね」


アークは天を仰いだ。

「……わしの人生、どこでこうなったんじゃろうな……」


牢屋の石壁に囲まれた狭い空間。

封印が解けたばかりの王は、腹を押さえて「ぐぅぅぅぅ……」と情けない音を響かせた。


「……腹が……減った……」


アークは眉を上げた。


「詳しい話はあとじゃな。まずは飯でも食って落ち着け。カノン、お主もこっちへ来い」


隣の牢にいたカノンは嬉しそうに頷き、アークの魔法で鉄格子を開けて中に入ってくる。


しゃもが光りながらつぶやいた。


「牢屋の中で料理始める囚人、初めて見ましたよ」


「腹が減っては会話もできん。食は平和の第一歩じゃ!」



アークは収納魔法から食材を取り出す。


「さて、今日の献立は――魔イルドボアの腸詰め、つまりウインナーじゃ!」


懐かしい香りが漂う。

アークはしゃもじをひょいと構え、フライパンを浮かせて魔力で火を灯す。


「ほれ、音を聞け。ジュウジュウ……たまらんのう!」

ジュウゥゥ……ッ!!


牢屋の石壁に反響するのは、ウインナーが弾ける心地よい音だった。

脂が火花のように弾け、香ばしい香りが立ちこめる。

湿っぽく冷たい牢獄の空気が、一瞬で食堂のような温かさに変わっていく。


アークはしゃもじを器用に操り、まるで楽器を奏でるようにリズム良くウインナーを転がした。


「見よ、この黄金色の焼き目を! 食欲の芸術じゃ!」


しゃもがぼそりと突っ込む。


「……牢屋でテンション高いですね。油、はねてますよ」


「料理とは魂の戦じゃ。多少の火傷は名誉の勲章じゃ!」


アークは笑いながらしゃもじをくるりと返し、次に鍋を取り出す。

魔法の火を灯し、そこへ刻んだ野菜と穴ク魔の肉を放り込む。

じっくりと煮込み始めると、牢の中に野菜の甘みと肉の旨味が混ざり合った香りが漂い出した。


「……おいしそう……!」


カノンの瞳がキラキラと輝く。

王も腹を押さえながら身を乗り出した。


「な、なんと……この香りだけで飯が食える……!」


アークはしゃもじを突き出し、誇らしげに言う。


「これぞしゃもじ料理の真髄じゃ! 魔法でも科学でも再現不能の旨味調和!」


しゃもが小さく光ってぼやく。


「いえ、再現は可能です。ただ普通は牢ではやりません」



スープが完成し、黄金色の湯気が立ちのぼる。

アークはしゃもじで鍋を軽くかき混ぜた。

しゃもじが淡く光り、温度と味を最適化する。


「お主、やるのう」 「はいはい、また“神器”として働かされてますよ」


ウインナーも焼き上がり、パリッとした音と共に香りが弾けた。

アークはそれをパンに挟み、しゃもじでパンの表面を軽くあぶる。

ジュッと音が鳴り、焼きたての香りが牢の中に広がる。


「できたぞ! 牢屋特製ホットウインナーと野菜スープのセットじゃ!」



王が恐る恐るかぶりつく。

パリッ……ジュワァァ……!


「う、うまいっ!! 歯を立てた瞬間に、肉汁が溢れるではないかっ!!」 脂のしつこさはまるでない。

舌の上でとろけ、香ばしさだけが残る。


カノンも頬を押さえて感動している。


「サクッとしてるのに……なめらか……!  脂がしつこくないどころか、飲めます……!」


アークはドヤ顔で腕を組み、うんうんと頷いた。


「ふっふっふ、しゃもじ効果で脂の重さを軽減しておる。  つまり――無限に食えるやつじゃ!」


しゃもがため息をつく。


「……健康診断で引っかかるタイプの発言ですね」


「牢に診断士はおらん! 食えるうちに食っておくんじゃ!」



三人は無心で食べ続けた。

王は涙を流しながらウインナーをかじり、カノンは頬を紅潮させてスープをすする。

アークはそんな二人を見て、しゃもじを撫でながら満足げに呟いた。


「……食とは、身分も立場も越えるもんじゃな」


しゃもが静かに返す。


「……ですね。牢屋でも、いい匂いだけは一流です」


石の牢屋に、笑い声と香ばしい匂いがこだました。

まるでそこだけが、別世界のように温かかった。




今回も読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ