第21話 潜入
石造りの牢の中。アークは腕を組み、眉をひそめていた。
「……しかし気になるのう。この国、王の腐敗っぷり……ただの食いしん坊では済まん気がするぞ。
ふむ、番兵にでも聞いてみるか」
しゃもが小声で突っ込む。
「そんなこと、番兵に聞いて教えてくれるわけないでしょうに」
「ふふふ……甘いのう、しゃもよ。わしの話術は千年磨き上げた最強スキルじゃ。どんな相手でも、心を掴んでみせる」
アークは自信満々にしゃもじで牢の鉄格子をコンコン叩き始めた。
「おーい! 番兵殿やーい! 聞こえておるかー!」
「おーい! おーい! そこの番兵殿ー!」
「のう! わしが話しかけとるんじゃぞ!」
「おーい! スタッふぅぅ〜〜〜〜〜〜!」
カン、カン、カンッ! と金属音が牢屋に響き渡る。
あまりのしつこさに、やがて足音が響き、怒鳴り声が飛んできた。
「うるさいぞ! 何の騒ぎだ!」
牢の前に現れたのは、仏頂面の監守だった。
その瞬間、アークは口角を上げ、サッと話術モードに切り替える。
「よぉ、ブラザー! 調子はどぉだ? 最近給料の上がり具合とか、上手くいっとるか? ここらの兵士も大変じゃろ?」
自然な流れで懐に入り込み、心をほぐす作戦――のはずだった。
だが監守は眉間に皺を寄せ、バッサリ切り捨てる。
「黙れ、しゃもじじい! ムチで叩かれたいか!」
「だ、誰がしゃもじじいじゃあああ!」
アークが鉄格子にかじりついて怒鳴った時には、監守はすでに立ち去っていた。
しゃもが呆れ声を漏らす。
「だから言ったのに……」
アークは額に手を当て、しばし黙り込むと――ふっと真顔に戻る。
「……まあええ。こうなったら話術は捨てて、本気を出すしかなかろう」
しゃもが眉をひそめる。
「……まさか」
アークはにやりと笑い、指先に魔力を込めた。
「精神魔法。――お主の心、覗かせてもらうぞ」
牢の向こうに残っていた監守の気配に、魔力の糸がスッと伸びていく。
その瞬間――アークの脳裏に監守の思考が流れ込んだ。
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――あれは、ちょうど一年前のことだ。
当時の俺は、王の近衛として仕えていた。
あの日、勇者と名乗る男がこの国を訪れた。
目的は“魔王を封印できる古代魔法”の入手。
それが、この国の王立図書館にあると聞いて来たらしい。
王自らが応対し、古文書を手ずから説明していた。
勇者は熱心に書をめくっていたが、やがて一冊の分厚い黒革の本に手を伸ばした。
『これは何の本だ?』と勇者が尋ね、王に渡した瞬間だった。
……王の体が黒く染まり、そのまま石のように固まったんだ。
城内は大混乱。
勇者は焦って、こう言い残して去っていった。
「魔王の呪いだ! 手先の仕業だ! 俺が見つけ出して必ず解く!」──と。
けど、あれはおかしかった。
あの本をすすめたのは、第一王子だったんだ。
“父上に見せたい本がある”って……その時から妙に落ち着いてた。
まるで、最初からこの事態を知っていたかのように。
そして、その翌日にはもう、王子が“新たな王”として即位した。
貴族たちは王の死を悼むより早く、新王への忠誠を誓い、宴を開いた。
……そこからだ、腐敗が始まったのは。
税は上がり、民は苦しみ、王は酒と女と肉に溺れる。
あの“見るからに頭の悪そうな顔”でな。
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アークの口元がわずかに引き締まる。
「……また、勇者が絡んでおったか!」
番兵の意識はさらに続く。
――まったくよぉ……。
隣の牢の娘はともかく、なんだあのしゃもじ持ったじじい。
牢屋番やってから変なのばっか捕まってくるんだよな……。
はぁ……転職してぇ……。
アークは目を細めて小声でぼやいた。
「……最後のくだりはいらんわい」
しゃもがため息をつきながら言う。
「内容は有益でしたけど、人格評価は厳しめでしたね」
夜の牢屋。
湿った空気の中、アークがそっと立ち上がる。
「……ふむ、どうやら番兵どもは寝落ちしたようじゃな」
しゃもが小声で言う。
「また無茶をするつもりですね、アーク様?」
「当然じゃ。腐敗の真相は、城の図書館にある。
わしの“エージェント魂”がうずいておる!」
アークは自信満々に片手を上げ、呪文を唱えた。
「《ステルス・クローク・オブ・アークスペシャル!》」
ボフッ。
一瞬、もやっと白い煙が立ち込め……
しゃもが冷静に言った。
「半分しか透明になってませんよ。上半身だけ消えてます」
「むぅ、サービスじゃ。上級者にしかできん技じゃぞ」
まるで自分を誇るスパイ映画の主人公のように、アークは胸を張る。
しゃもはため息をついた。
任務開始
「さて、まずはこの牢を……」
アークはしゃもじを鍵穴に突っ込み、軽く叩いた。
「《アンロック・しゃも・リバース・スペシャル!》」
カチャン。
見事に鍵が外れた。
「ふふん、これぞわしの千年技術よ」
しゃもがボソッと。
「いや、ただの物理衝撃で外れましたよ」
アークは聞こえないふりをして、隣の牢へ向かう。
カノンは膝を抱え、不安げにうつむいていたが、アークの姿を見てぱっと笑顔になった。
「アーク様っ!」
「しっ、声をひそめい。
わしらは今から“潜入ミッション”じゃ」
「ミッション……?」
「そう、メタルギア……いや、メタルしゃもじオペレーションじゃ!」
カノンはよく分からないながらも、こくこくと頷く。
アークは彼女にもステルス魔法をかけた。
(※こちらは成功。カノンは完璧に透明化)
「ほう、やはり若いと魔力のノリが違うのう」
「アーク様……今、なんか卑わいなこと言いました?」
「き、気のせいじゃ!」
こうして二人は牢を抜け出し、月明かりの差す城内を忍び足で進む。
廊下を歩く衛兵を背後からすり抜け、物陰に隠れながら階段を上がる。
アークは耳を澄ましながら囁いた。
「ふふ……この緊張感……悪くないのう。わしの血が騒ぐわい」
しゃもが呆れ声で返す。
「いや、息が荒いだけです。ぜぇぜぇ言ってます」
「うるさいっ……! これが“熟練者の呼吸”じゃ……!」
曲がり角で兵士が近づくと、アークは咄嗟にカノンを壁の陰に押し込んだ。
二人の顔がぴったり近づき、カノンが小声で言う。
「アーク様、顔が……近いです」
アークの顔が真っ赤になる。
「し、しーっ! わしは作戦に集中しておるだけじゃ!」
しばらくして、ついに巨大な扉の前にたどり着く。
「ここが……王立図書館か」
アークはドアを押しながら、にやりと笑う。
「さて──真実のページ、めくるとするかの!」
しゃもが小声で言った。
「このノリ、完全にスパイ映画のエンディングですね」
カノンはワクワクしながら答えた。
「なんか楽しいです!」
「ふふふ、これからが本番じゃ。
“しゃも&アーク・コードネーム:メタルしゃもじ作戦”──始動じゃ!」
しゃもの小さなため息が、静かな図書館にこだました。
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