第19話 お迎え
その夜。
宿の外は雪が降り部屋では、カノンがすやすやと寝息を立てていた。
その横でアークは、しゃもを抱えてゴソゴソと動いていた。
「ふふふ……寒い冬といえば、マフラーじゃな」
しゃもじを針代わりにして、魔法の糸を編み上げていく。
光を帯びた糸は空気を暖める性質があり、完成すれば普通の毛糸よりも数倍あたたかい。
「……昔は“じいさんが夜なべをしてマフラーを編んでくれた”なんて歌があったのう。わしもまさか、本当にやることになるとは」
ちゃっかり自分用の分も編み込みながら、アークはニヤニヤ。
「明日の朝、カノンに渡したら泣いて喜ぶに違いない……むふふふふ」
その妄想に浸ったまま、アークはご機嫌で眠りについた。
朝、目を覚ましたカノンの首に、ふわりと柔らかい布が巻かれる。
「……え?」
アークが得意げに胸を張る。
「どうじゃ? わし特製の魔法マフラーじゃ。寒さも吹き飛ぶぞ」
カノンは両手でマフラーを押さえ、目を輝かせた。
「アーク様……っ! ありがとうございます! 本当に暖かいです!」
顔を赤らめ、はしゃぐカノンにアークは鼻を高くする。
「ふふん、当然じゃ。当然……」
しゃもがボソリと突っ込む。
「……ちゃっかり自分用まで編んでますけどね」
「うるさいわい」
二人が準備を整えて宿を出ようとしたそのとき――
ドンドンッと部屋の扉が激しく叩かれた。
「じいさーん! じいさーん! 大変だぁ!」
宿の店主の声だった。
アークはカッと目をむき、ドアを開け放つ。
「誰がじいさんじゃあ!」
店主は息を切らしながら告げた。
「こ、この宿に……国王陛下からの直々の呼び出しが来てる! 兵隊が外にずらっと……!」
アークは「やっぱりわしの偉大さが伝わったか」とニヤけるが――
外に出ると、昨日会った指揮官が馬上から声を張った。
「アーク殿……いや、そちらの娘、カノン殿!」
「……えっ?」
「昨日、王にドラゴンの件を報告した際……その美しきお姿のことも伝えたのだ。陛下は大いに興味を示され、ぜひとも城へお連れするよう仰せだ!」
アークは思わずズッコケる。
「(わしじゃなかったぁぁぁ!?)」
しゃもが小声でぼやく。
「……ですよねぇ」
カノンは目を瞬かせ、思わず胸に手を当てる。
「わ、私を……? お城に……? そんな、どうしよう……」
その姿は明らかに緊張で強張っていた。
一方のアークは、頭を押さえてブツブツと文句を言う。
「なんじゃ……わしじゃないのか……!? この大魔法使いアーク様が呼ばれるべきじゃろうが……!」
しゃもがさらりと突っ込む。
「アーク様、顔に“嫉妬”って大きく書いてありますよ」
「だ、誰が嫉妬しとるかい! ただの……ただの確認じゃ! 確認!」
カノンはそんなアークを見て、小さく微笑んだ。
「……でも、アーク様が一緒なら、心強いです」
その言葉にアークは一瞬、口をつぐむ。
頬をかきながら鼻を鳴らし、視線をそらした。
「ふん……まあ、わしがおらんと危なっかしいからな。仕方なく付き添ってやるわい」
カノンはこくりと頷き、マフラーをきゅっと掴んだ。
「ありがとうございます。これも……アーク様がくださったお守りみたいな気がします」
アークはさらに顔を赤くし、しゃもを小突いた。
「お、おい、今の聞いたか? お守りじゃと! わしのマフラーが!」
しゃもは冷静に返す。
「……はいはい。よかったですね、じいさん」
「誰がじいさんじゃ!!」
宿の前に集まった兵士たちは、そんな二人のやりとりを不思議そうに眺めながらも、彼らを王城へと案内する準備を整えていた。
王城へ向かうために用意された豪華な馬車の前には、燕尾服を着たしゅっとした執事風の男が立っていた。
その男は恭しく頭を下げ、馬車の扉を開ける。
アークは気後れしながら尋ねた。
「のう……わしも同行してよいかの?」
執事はにこやかに微笑み、丁寧に答える。
「もちろんでございます。保護者様同伴であれば、何の問題もございません」
「……保護者?」
言葉に詰まるアーク。
間違ってはいない、間違ってはいないのだが――どこにどう突っ込めばいいか分からず、口をぱくぱくさせるしかなかった。
続いてカノンが案内される。
執事は恭しく彼女に手を差し伸べた。
「では、お孫様はこちらへ」
「……お、お孫様……?」
アークのこめかみがぴくりと跳ねる。
心の中で思わず叫んだ。
「(わしがじいさん扱いなら、カノンは孫扱い……!? なんじゃこの設定は!!)」
カノンは照れくさそうに微笑みながら乗り込むが、アークの内心はぐつぐつ煮えたぎっていた。
しゃもが、涼しい声で追い打ちをかける。
「……つまり、“ひ孫とひーおじいさん”というわけですね」
「だ、誰がひーおじいさんじゃああああっ!!!」
顔を真っ赤にして怒鳴り返すアーク。
兵士たちも執事もぽかんとする中、カノンだけがくすっと笑っていた。
こうして――なんとも複雑な空気のまま、アークとカノンは王城へ向かう馬車に揺られることとなった。
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