第16話 思考中
モダンに改築された洞窟に、暖かな光がともる。
穴ク魔の香ばしい匂いも、すっかり消えた夜明け。
アークはしゃもじを杖にし、立ち上がった。
「……さて、わしはそろそろ行くとするかの」
カノンの大きな瞳が、かすかに揺れた。
『も、もう行かれるのですか?』
アークは軽く笑って肩をすくめる。
「長居しても仕方なかろう。わしにはやることが山ほどあるしのう」
カノンは俯き、長い尻尾を床にすべらせた。
百年もの間、誰とも関わらずひとりで過ごしてきたドラゴンにとって、
人と食卓を囲む時間は、あまりにも久しぶりで、あまりにも暖かかったのだ。
アークは視線を外し、静かに言った。
「これ以上一緒におっては情がうつる……すまんの」
そう言って背を向け、歩き出す。
しゃもが光り、小さくぼそり。
「(……優しいですね、アーク様)」
岩山を降りる途中、アークは背後の気配に気づいていた。
けれど、気づかないふりをして歩き続ける。
「(……ついてきておるな)」
しゃもが光り、ぼそり。
「ドラゴンサイズで“ついてくる”は、なかなか目立ちますね」
「わしも見ていられんのじゃが……」
アークは足を止め、振り返った。
そこには、距離を置きながらも、必死に泣き顔をこらえているカノンの姿があった。
「……なぜついてくるのじゃ」
カノンは唇をかみ、何も言わない。
黄金色の瞳が、子どものように揺れている。
アークはしばし見つめ、それ以上何も言わず、再び歩き出した。
そして、また背後から、控えめな足音がついてくる。
しゃもが光り、ため息をつく。
「(これ、完全に保護者と子どもの図ですね)」
アークは顔をしかめ、空を仰いだ。
「……まったく、わしは勇者じゃなくて、保護者になりに来たわけじゃないんじゃが」
そうぼやきながらも、歩みを止めることはなかった──。
岩山を離れ、ひたすら続く山道をアークは歩いていた。
しゃもじを杖代わりに、顔をしかめながらつぶやく。
「……関わるべきではなかったのう……」
しゃもが光り、小さくため息をつく。
「もう後には戻れませんよ、アーク様。
出会って、背中をかいて、家まで直して……責任は取らないと」
アークは肩をすくめ、眉をひそめた。
「猫や犬を連れて歩くのとはわけが違うんじゃぞ?
ドラゴンじゃぞ? 国ひとつ傾く生き物じゃぞ?」
口ではそう言いながらも、胸の奥は揺れていた。
千年生きた大魔法使いの人生に、こんな展開は本来あり得ない。
けれどなぜか、あの黄金の瞳と食卓を囲んだ記憶が頭から離れない。
「……どうしてこうなったのかのう……」
アークはかたくなに前だけを見て歩き続けた。
しゃももそれ以上は何も言わず、ただ淡く光っている。
やがて一時間ほど歩いたころ。
背後の大きな足音も、黄金の気配も、完全に消えていた。
アークはふと立ち止まり、頭を押さえた。
「……おらん、か」
静かな風が頬をなでる。
ほんの少しだけ軽くなったような、逆に胸の奥にぽっかり穴があいたような、不思議な感覚。
「(あやつ、泣き顔をこらえておったな……)」
しゃもが光り、ぼそり。
「……考えてること、顔に出てますよ」
アークは小さくため息をつき、空を仰いだ。
「……わし、ほんとに勇者じゃないのう……」
そうつぶやきながら、また一歩、前へと足を踏み出した──。
山道を下りながら、アークはしゃもじを杖にして歩いていた。
頭の中ではまだ“カノン”のことがぐるぐるしている。
「(……わしが関わるべきではなかったのう)」
しゃもが光り、ため息をつく。
「もう後には戻れませんよ、アーク様。
責任は取らないと」
「……」
胸の奥は揺れていた。
そのときだった。
ドォォォォン──!!
山の奥から、大きな爆発音が響いた。
アークは顔を上げ、しゃもを握りしめる。
「……まさか、カノン!?」
考えるより先に、アークは山道を駆け上がっていた。
少し行った先で、岩陰にカノンがいた。
ボロボロになった姿で、弱々しい声を出す。
『アーク様……またキズを負ってしまいました……助けてください……』
アークは眉をひそめる。
目を凝らせば、傷は浅く、魔力の流れも正常だ。
明らかに「自分でつけた」ようなものだった。
「……おぬし……まさか、わしに連れて行ってもらうために……」
アークは立ち止まり、頭を抱えた。
「もぉついてくるな! わしは連れて行かんと言っとるじゃろうが!」
しかしカノンは、必死に尻尾を畳み込みながら声を絞り出した。
『……あたし、空も飛べるし、アーク様みたいに魔法も使える……
人間にも変身できるし……邪魔になりませんよ……!』
アークは唇を噛み、問う。
「……なぜ、それほどまでにわしについてこようとする?」
カノンは一瞬、目を閉じ、震える声で答えた。
『……優しいから……です。
あなたのように優しくしてくれた人は初めてで……もっと一緒にいたいんです……』
アークは息を呑み、ゆっくり天を仰いだ。
高い空、白い雲、黄金色の光。
胸の奥に、またひとつ重いものが積み重なっていく。
しゃもが光り、ぼそり。
「アーク様……もう決断の時ですよ」
アークは空を見たまま、深く息をついた──。
完全にコメディ路線で書くつもりだったのですが、気がつけばこんな展開になっていました。
自分でも投稿するかどうか迷っていたのですが、とりあえず思い切って投稿しました。
また考えた結果、書き直しになるかもしれませんが、何卒ご了承ください。
迷っています。いい案が思いつかないです(^_^;)
ん〜〜モヤモヤする




