表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界グルメ探究!!?勇者の残した「雑な仕事の尻拭い」  作者: 酒本 ナルシー。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/70

第11話 疑惑

雑草の駆除(という名の焼畑農業)を終えたアークは、汗をぬぐいながらギルドの扉を押し開けた。


「嬢ちゃん、終わったぞ。依頼は完了じゃ」


受付嬢は書類に目を通し、顔を上げて驚きの声を上げる。


「えっ……?」


「えっ、じゃない。終わったものは終わったんじゃ。報酬をくれ」


受付嬢は慌てて笑顔を作る。


「……わ、分かりました。ただ、いったん確認だけさせてくださいね」


「なんでじゃ、終わったと言っとるじゃろうが」


「規則なので……」


渋々椅子に腰掛けたアーク。

視線の先では酒場スペースで冒険者たちが酒を飲み、楽しげに笑っている。

アークの喉がごくりと鳴った。


「(ああ……わしも早う一杯やりたいのう……)」


よだれを拭きながら、今か今かと待つアーク。

だが、時間は過ぎていく。


一時間後──


「アーク様、こちらへ」


受付嬢が深刻な表情でアークを呼び、奥の部屋に案内した。


重厚な扉をくぐると、机の前に初老の男が立ち上がった。

頬はこけ、目の下にクマがあるが、所作はやけに丁寧だ。


「……初めまして。私がこのギルドのマスター、カイルです」


カイルは深々と頭を下げた。


「まず、これまでの失礼な振る舞い、受付嬢の対応、そして長くお待たせしたこと、すべて私の責任です。本当に申し訳ありませんでした」


「え? ええと……」


突然の深いお辞儀に、アークは目をぱちくりさせる。


「いや、別に謝られることは……報酬が出るならわしはそれでええんじゃが……」


カイルは眉を寄せ、さらに頭を下げた。


「本来ならすぐにでも報酬をお支払いしたいのですが、ただいまギルドの予算が尽きておりまして……。

 せめて今日の宿代と、酒が飲めるだけの分でよろしければ……後日、必ず正式な報酬をお届けします」


アークはしばし口をつぐみ、そして笑った。


「全然かまわんよ。今日の宿代と酒が飲めるだけあれば充分じゃ」


カイルは真剣な顔で「ありがとうございます」と言い、頭を下げた。


「本当に……ありがとうございます……」


アークはようやく落ち着き、椅子に腰掛けて尋ねた。


「ところで、そんなに困っとるのはなぜじゃ?」


カイルは深く息を吸い込み、事情を話し始めた。


「勇者様がこの街の草の魔物を討伐してくれたのは一年ほど前です。

 しかし根を残したせいで雑草が異常繁殖し、畑は荒れ、収入も激減しました。

 ギルドは村や農家の支援に資金を回し、依頼料を払う余力がなくなっていたのです……」


アークは眉をひそめ、しゃもを軽く叩いた。


「ふむ……せっかく東に来たというのに、なぜ勇者がこの街におったんじゃ?」


カイルは少し言いにくそうに答えた。


「……勇者様は魔王討伐の前に“旨い酒”が飲みたいとおっしゃいまして。

 この街の名物“グランエール”をわざわざ飲みに来られたのです」


「……なんじゃと」


アークの口元がひきつる。

しゃもが懐で光り、淡々と突っ込んだ。


「アーク様と考えていること、あまり変わらないですね」


「誰があんな勇者などと一緒にされてたまるか!!」


アークは机をドンッと叩いて立ち上がり、ぶつぶつ言いながら行ったり来たりする。


「わしは“食”じゃ! グルメじゃ! あやつはただの酒飲みじゃ!」


しゃもがぼそり。


「(魚に酒……同じラインですけどね)」


「うるさいわい!」


アークはカイルの前に座り、次の話を待っていた。


カイルは深々と頭を下げ、ゆっくりと顔を上げた。

しかしその目は、どこか鋭い光を宿していた。


「……アーク様。ひとつ確認させていただいてもよろしいでしょうか」


「なんじゃ、急にかしこまって」


「先ほどの依頼──“雑草駆除”の件です」


「終わったぞ。あれだけの草、全部片付けたわい」


カイルは眉をひそめ、低い声で続ける。


「……本当に、あれを“お一人で”やられたのですか?」


「む? なんじゃ、信じておらんのか?」


カイルは机の上に両手を置き、深く息を吐いた。


「申し訳ありません。しかし、あの草原は一年以上、ギルド総出でも手に負えなかった危険地帯でした。

 根は魔物植物の養分で強靭、刈っても刈っても再生する。

 ……それを、たった半日で、しかも“老人枠”で登録した方が終わらせてしまったと聞いて、正直信じがたくて」


「……わしを老人扱いするなというに」


しゃもが懐でぼそり。


「事実“老人枠”ですからね……」


アークは机に肘をつき、ニヤリと笑った。


「わしがどうやったか、知りたいかの?」


カイルは無言で頷く。

額にうっすら汗を浮かべている。


「土魔法で根ごと地面を浮かせて砕き、炎魔法で焼き尽くしたわい。

 ついでに畑も耕しておいたから、今頃はふかふかの土になっておるじゃろう」


「……!」


カイルは目を見開いた。

ギルドの若手冒険者でも苦戦する大魔法の同時使用を、さらりと言ってのける老人。


「そ、そんな……。そのような高度な魔法、王都の宮廷魔導師でも……」


「わしは魔法使いじゃ。しゃも……いや、神器もあるしのう」


アークは肩をすくめ、ひらひらと手を振った。


「まあよい。実はな、わし──ただの老人ではない」


カイルが目を丸くする。


「……え?」


「わしもこの国が勇者召喚で呼び出した“勇者”のひとりなんじゃ。

 だが、この姿ゆえに“勇者ではない”と判断され、事情も告げられぬまま城を追い出された」


「な、なんですって……!?」


アークは淡々と続ける。


「本来のわしは、あらゆる魔法を学び尽くした魔法使いじゃ。

 その知識と力を持ったまま転生し、召喚されたのじゃが……見た目がこれではな」


カイルはゆっくり椅子にもたれ、深く息を吐いた。


「……だから、あの草原を一人で片付けられたのですね……」


「そういうことじゃ。わしのことを疑うのも無理はない」


しゃもが小声でぼそり。


「勇者召喚されて追い出された勇者、って結構レアですね」


「うるさいわい」


カイルはようやく納得したように、真剣な眼差しでアークを見つめ、深く頭を下げた。


「……本当に申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございます。

 あなたこそ、本当の意味で勇者様なのですね」


アークはため息まじりに笑い、しゃもを撫でた。


「勇者と呼ばれるのはもううんざりじゃが……報酬さえ出ればそれでええ。宿代と酒代だけでもあれば十分じゃ」


カイルは涙ぐみながら「必ず後日正式な報酬を」と頭を下げる。


こうして──千年の大魔法使いにして“しゃもじいさん”ことアーク・エルディアは、

勇者の尻拭いをしながら、ついに自らの正体を明かし、ギルドに認められることになったのだった。

今回も読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ