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第3話「職場」

ギルドの先輩であるアダムに夕食に誘われる。

新人研修をやってくれた優しくも厳しい先輩だった。



ギルドの仕事を始めたての時だった。


よそのギルド所属の冒険者がロスハーゲンのギルドを訪れた際、事前にポーションの調達依頼の連絡を受けていたようだが、こちらの手違いで想定した数が届かないとの事態があった。


冒険者と言っても様々である。

家庭を持ちあくまで仕事として請け負う者、カーティスのように才能を活かし人々を救うもの、そして時々いるのが暴力を生業とする仕事だと判断して他の仕事が続かず流れ着いたような者もいる。

そして、その時の冒険者は後者だった。


「オイ!こっちは命がけでダンジョンに潜ってんだよ!!お前らはぬくぬくそこの椅子に座ってる間に命かけてんの分かってんのかっ!!!」

「この度は申し訳ありませんでした。ただいま、確認していますので、今しばらくお待ちください。」


マニュアルに従った対応を行うが逆に男を刺激してしまったようだった。


「舐めてんのかっ!そんなんで納得するとでも思ってんのかよ。こっちは潜る予定の時間もうすでに過ぎてんだよ。その損失どう穴埋めしてくれるの!嬢ちゃんよォ!」


男は凄んでくる。

これまでは、基本的にこのギルドに登録している冒険者しか相手にしてこなかった。

初めての他所の冒険者が荒くれものとはつくづく自分は運が悪いと思わないでもない。


ただ、ギルドの受付嬢として働くことを決めた時点でこういった事態は予測していた。他の人たちも忙しそうなのでここは仕事として切り抜ける必要があると思い唾を飲み込む。


「類似のポーションに変えられないか含めて確認してきます。」

「さっきから、確認、確認ってふざけてんのかっ!」


男がカウンターから身を乗り出し、こちらに迫ってくる。


「嬢ちゃん。お前、自分で出来る保証ってやつを考えろよ。な?分かんだろォ?」


男の背後では、ニヤニヤと男と一緒に来た冒険者たちも笑っているのが見える。

嫌な雰囲気に頭が真っ白になった。


「ただいま先方に確認した所ご連絡いただいていたとの件について確認が取れませんでした。現在、そちらのギルドと連絡を繋いでいるのでご確認いただけますか?」


そう言ってアダムが後ろから声をかけて来た。

ゴトリと音を立てて連絡用の水晶を置く。

高級品なのでギルド長の許可がなければ使えないはずだ。


エレナが驚いていると、アダムはエレナを庇うように軽く前に出て冒険者と話始めた。


「ああん?お前、俺が嘘ついてるって言いてぇのか?」

「いえ。ただ、所属ギルドの方がそういった依頼があるか簡単に調べて下さいましたが確認が取れなかっただけです。もしよろしければ、類似のポーションであればすぐに用意できますが、いかがいたしましょう?」


アダムが対応している間に他の先輩に声をかけられる。


「私達も裏で状況確認をしましょう?」


そう言って裏に下がった。


「はあ、あいつ性懲りもなく今年も来たわね。」

「あいつって…」

「さっきの冒険者よ。そこそこ腕はいいらしいけど、柄が悪いでしょ?それに新人の女の子とか、慣れていない女性の冒険者にああやって凄んで脅したりして関係を迫るの。」


なるほど。自分も新人というだけで狙われてしまったことを理解する。


「まあ、アダムが対応してくれているから、彼が裏に戻ってくるまでここにいること。いいわね?」


そう言うと先輩は受付へと戻って行った。


程なくしてアダムが奥へと入ってくる。

エレナは駈け寄るとお礼を述べた。


「アダムさん、お忙しいところありがとうございました。」

「いや、全然大丈夫だよ。大変だったね。」


アダムは優しく声をかけてくれた。


「けど、せっかく経験あるメンバーがいるんだからああいうときは周りに頼るべきだ。どんなにマニュアルを覚えても一人では対応できないことは沢山ある。」


例えばと前置きしてアダムが続けた。


「うちのギルドだとああいう連絡をしている、していないで厄介な事態に巻き込まれたときには受付でなら連絡用の水晶は使っていいことになっているんだ。」


むやみやたらに使うんじゃなくてまずは出すだけ出して、相手の出方を見るんだと教えてくれた。本当に困っている場合は使いたいと言ってくるはずだと言われ納得する。


「こういうのは全てのギルドで出来るわけじゃないから初日に配ったマニュアルには書いていない。けど、慣例として歴代の先輩たちが作ってくれたんだよね。」


まあ、そう言うこともあるから困ったときは周りにまずは聞いてみてと言ってアダムはカウンターに戻ろうとする。


心配してくれたことが伝わり感謝の念が湧いてくると同時に自分で対応できると思いあがっていたのだろうかと暗い気持にもなってしまった。


アダムはそんなエレナの様子も察してくれていたのか受付に向かって歩きながら続ける。


「けど、あの状況でちゃんと自分で対応しようとしたのは頼もしかったよ。これからも頼むね」

「はい…!」


いいギルドに就職できた喜びを噛みしめる。早く一人前になりたいと思うエレナだった。



そんなこともあったなと思いながら席へと戻る。


エレナの5つ上だったアダムは当時付き合っていた女性とその翌年には結婚し、結婚式には職場のみんなも招待してくれた。


あの時のウェディングドレスはエレナにとっても一生忘れられない物となった。

初めて参加した都会の結婚式は間近で見れば見るほど美しく、村とは比べられないほど豪華だった。


いつか、そう思わなかったと言ったら嘘になる。

けれど、そのいつかは今後一生来ないのであろうことも予想していた。



意識が別の処へと飛びかけていたが、口はちゃんと動いていたらしい。


「今日は、ちょっと」

「そうか…。また誘うな」


そう言ってアダムはあっさりと去っていく。

そう言えば、月に一回ギルドの同じ部署での飲み会だったなと思う。

幹事はアダムのはずなので最後に確認を取ってくれたのだろう。



隣の部署で同期のマーガレットが声をかけて来た。


「ねえ、アダムさんっていい人よね」


少し悪い顔をしている。


「そうね、尊敬してる」

「何かないの」

「ただの先輩、それにもう既婚者でしょ」


エレナは苦笑しながらも答えた。

この同期は明るく人がいいが恋愛話に目がないのだ。


「えぇ。昔も?先輩が結婚する前とか。尊敬する先輩とのラブロマンスに一回ぐらい憧れるのが乙女心ってやつでしょう?」

「もう!からかわないで。仕事が残ってるでしょ」


昼休憩が終わる。受付奥の事務室での会話を気にする者はほとんどない。




大規模討伐が終わる日、彼は討伐メンバーのお誘いを蹴って何故かエレナの家に来てくれる。今日は他所に行くことは出来ない。


いつ無くなってもおかしくない習慣に今年もエレナはすがっているのだ。


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