第2話「エレナ」
「相変わらず元気そうだな」
「はい。ギルドの仕事も順調です」
エレナはロスハーゲンの街にある冒険者ギルドで、受付の仕事をしている。
荒くれ者の多い冒険者たちの中で、彼女の穏やかな笑顔は、多くの者にとって安らぎとなっていた。
エレナはギルドに勤め始めて六年間、毎年、彼の訪れを密かに待っていた。
「そういえば……」
カーティスが何気なく口にした言葉が、エレナの心をざわつかせた。
「男ができたらしいな」
エレナは驚いた。
「そんなこと、誰が……?」
「俺の耳に入ったってことは、そういう噂があるってことだ」
彼の言葉に、エレナは小さく息をのんだ。
そんな事実はない。それでも、まるで試されているような気がした。
「そんな噂です。その、誤解です」
「……そうか」
彼の返答は短いものだったが、その瞳の奥にかすかな動揺を見た気がした。
カーティスはエレナよりもずっとずっと大人な男性だった。
一つの場所にとどまらず国中を飛び回る。どこへでも行ける自由な人。
そんな彼を、エレナはずっと想い続けていた。
「私、ずっとここにいます」
エレナの宣言はカーティスにとっては何の意味もないのだろう。
それでも言わずにはいれなかった。
カーティスが他の冒険者たちの輪に囲まれ、行ってしまった。
遠くから彼の姿を見つめながら考える。
ここにいると言ったが、正確には、何のとりえもないエレナがここ以外で彼に会えるような場所はないのだ。
村から出てきて、何とかギルドの職について年に一回会うことができるだけでも奇跡だと思っている。
もしかしたらギルド本部がある王都まで行けばもっと沢山カーティスに会えるのかもしれないと思ったが、美しい人の多くいる王都ではエレナなど霞んでカーティスの目には映らないだろう。
だからこそ、彼がいつ訪れても変わらず迎えられるように。
それだけが、今のエレナにできることだった。