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第0話「エピローグ」
カーティスにとって、それは人生でも数少ないシアワセな時間だった。
温かな食事にありつき、ひとときの安らぎを得る。
エレナにとって、それは特別な時間だった。
「エレナ」
久しぶりに届いた低く響く声に、彼女はゆっくりと振り向く。
カーティスは、いつものように変わらぬ表情でそこに立っていた。
どれほど長い時間が空いても、彼が戻ってきたとき、彼女は変わらぬ微笑みで迎えようと決めている。
「お久しぶりです」
一年ぶりの再会だった。
約束なんてしたことがない関係だ。
それでも彼がこうして戻ってきてくれることが、エレナにとっては何よりも嬉しいことだった。
どんなに感情が揺れてもそれを表に出してはいけない。
求めてはいけない。
目の前のいつ消えるかも分からない幸福を掻き抱く。
ドロドロとした思いが溢れ出て、彼を、私を傷つけてしまわないように。
今日も私はシアワセで塗りつぶす。