第55話 近衛前久(解説編)
本当に第4部から第14部まで、長きに亘って、織田(三条)美子のライバル、宿敵として戦い続けるような関係に、近衛前久がなるとは。
私自身が振り返ってみて、思わず遠い想いをしてしまいます。
史実の著名人を色々と思い浮かべて、この世界の歴史ならば、こうなるだろう、と私なりに考えながら執筆していったのですが、前久と美子が、このような関係になるとは、第4部の時点では本当に思いもよらないことでした。
そもそも論をすれば、第5部が最大の転機で、前久によって、美子が従三位尚侍に抜擢されたことが発端になります。
そして、エジプト独立戦争等が一段落した後、政争に巻き込まれることを嫌った美子が、前久に言わせれば恩を仇で返して、尚侍を辞任したことから、前久と美子は犬猿の仲になります。
更に美子は、こういった状況から前久の政敵である二条晴良に接近もしたのです。
又、その直後には、晴良の実子である九条兼孝と、美子の義妹の上里敬子が結婚する事態が起きたことから、完全に晴良と美子は結託したと言われても当然の状況になり、前久と美子は、これ以降は宿敵関係に突入することになります。
そして、1574年の大日本帝国憲法発布から国会議員の総選挙が行われて、織田信長政権が誕生することになり、前久は首相に就任できませんでした。
こういった状況から、前久は自分に味方する衆議院議員を集めようとすることになり、島津荘という縁があった島津義久と手を組んで、信長率いる労農党に対抗する保守党を結党することに。
本当に、この世界でも近衛新党を造る羽目になるとは、思わず歴史の修正力を私は想起しました。
更に史実を絡めて描いた結果、美子は九条、二条、鷹司の三摂家と縁を結ぶことになり、前久は一条家と手を組むことになるとは。
この辺りについては史実に引っ張られ過ぎ、と言われても仕方が無いですが。
小説の流れ的には、そう不自然ではなく、私的には自然な流れで描けました。
そういった流れの末に、前久と美子は、最終的には日本の宮中や政界の黒幕になってしまうことに。
実際問題として、信長の引退に合わせて、美子も政界から引退させることも考えたのですが、そうなると前久に対抗できそうな公家の重鎮が、私には思いつかなかったのです。
何しろ晴良は1579年に薨去しており、九条兼孝は1553年生まれで、前久より17歳も若い上に1579年時点では26歳に過ぎません。
そして、二条昭実や鷹司信房は、更に兼孝より年下なのです。
こうした状況から、1580年代以降は、美子が様々な縁を駆使して、前久に対峙することになりました。
もっともこれはこれで、小説を執筆する上では、ある意味では楽な事態になったのも事実です。
何しろ美子と前久を登場させることで、主に宮中における暗闘について描くことができるからです。
私だけかもしれませんが、それこそこの場で出てくるのがおかしくなくて、更に自然にやり取りできる人がいるというのは執筆の際に有難いのです。
そうしたことから、主に宮中問題について、美子と前久が主導する描写が多発することになりました。
そして、史実という縛りがあることもアリ、作中で1612年に前久は薨去することになりました。
更には第14部から最終部に掛けての様々な事態が絡み合った末に、前久の孫の信尋と、美子の姪孫になる鷹司智子が結婚して、近衛家の血脈が伝わっていく事態が、この世界では起きるとは。
この世界の前久のことですから、
「まさか九尾の狐の姪孫と、儂の孫が結婚するとは」
とあの世で苦笑する姿が、私の脳裏に浮かんでなりませんが。
本当に第4部や第5部の頃から考えると、何とも言えないことです。
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