5、嫌いな能力
ここは能力が当たり前の世界。
そんな世界で僕が授かったのは『あたためる能力』だ。
けれど僕はこの能力が嫌いだった。友達は火を操れたり身体を強化できたりするのに、僕はお弁当を温めるか冬に体を暖めるかだけ。
そんなショボいこの能力が嫌いだった。
ある曇りの日。僕が高校から帰宅中、公園のベンチで一人俯く少年を見かけた。
放っておけなかった僕は、少年に声を掛けてみることに。
「どうしたの?」
「……ぼく、能力が弱くていじめられてるの」
呟くように答える少年。
どうやらこの子も同じような悩みを持っているらしい。
励ましてあげたい。でもどう言葉を掛けていいか分からない。
困った僕は。
「大丈夫だよ」
と、少年を抱きしめた。
分かっている。能力で無理やり心も暖めようとするのは卑怯だって。
でも僕にはこれしか思い付かなかった。
やがて少年はお礼を言って去った。
「これで良かったのかな」
不安が募る。
けれど僕の心を暖めてくれる人は誰もいない。
お読みいただきありがとうございました。
今回は、ランダムワード「異能力」「物思いに耽る」から連想して生まれた作品です。
悩みや葛藤を抱いている時って、なんだか人間らしさを実感しますよね。……あれ、もしかして私だけだったりします?
それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)