26、しゃべる
「今度は何を買ってきたの?」
晴天の庭。呆れつつ問う私に、コレクターの父は胸を張って答える。
「喋るシャベルだ」
「はぁ?」
一見するとただの大きなシャベル。
大方予想はつくが、これがなんだというのか?
「このシャベルはな、土を掘る度に喋るんだ」
だろうね。
「まぁ見てろ!」
すると父は意気揚々とシャベルに足を掛け、勢いよく地面に突き刺した。だが。
「喋らないけど」
喋るシャベルは喋らなかった。ややこしいな。
「おかしいな?」
父は一度シャベルを地面から引き抜き、再び突き刺す。
だが。
「ダメじゃん」
やはりシャベルは沈黙のままだ。
「なぜだ!」
すると何を焦ったか、父は何度もシャベルを突き刺し始めた。と、その時。
「痛いです……」
微かな声が聞こえた。
「誰?」
「シャベルです……」
「いや声ちっさ! なんでそんな声小さいん!?」
私がツッコむと、シャベルはおずおずと答えた。
「喋るの苦手なんです……」
まさかの名前負け。
私は少し同情した。
お読みいただきありがとうございました。
今回は、適当に思いついた駄洒落を元に生まれた作品です。
実はこの作品、『400字小説』を執筆し始めた最初の方には完成していたんですが、文字数が500文字になってしまったので、『500字小説』を始めた時のために一応とっておいたんですよね。
ですが、「やるかも分からないのにとっておくのもなぁ」と思ったので、なんとか削りに削って収録しました。その代わり、無理やり感が残る文章になってしまいましたが……。
それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)




