**第5話:異世界共同生活スタート?**
カチャカチャ、もぐもぐ。
「うまーーーーーーー!」
もぐもぐ。
「うまーーー。おかわり!」
「えー、私、食べ物見つけるまでこれで食い繋ぐんですけど……まあ、まだあるし、はいどうぞ!」
朝の静かな食堂に響く、豪快な食事音。
うぅん。
はー、いい夢見たな……。まだ夢の中のいい匂いの余韻が——。
**パチ**。
——え?
「おっ、起きました?カレーよそったので食べてくださいね。こっちに座ってください。
はい、どうぞ。」
え?
まだ夢か?
目の前にいるのは……黒曜石のような瞳を持つ女性。美しい人が優しく話しかけて微笑んで、椅子まで引いてくれて、食事まで出してくれた。
もぐもぐ……?
「うまーーーーー。」
ガツガツガツガツ。
「ゆっくり食べないと、寝起きだから詰まっちゃいますよ。
はい、お水です。」
「ありがとごじゃあまふ。」
ガツガツガツガツ——
「はー、もうなくなった!」
「まだありますよ。おかわりしま」
「します!!!いただきます!ありがとうございます!」
「はい、どうぞ。」
……これが、幸せというものなのか?
**もし、俺に姉がいたらこんな感じだったのだろうか?**
野球部の部活帰りに「ねーちゃん、腹減った。なんか作って」と言うのが憧れだった。
弟なんて生意気で臭いだけだよって、あさちゃんは言ってたっけ。
——あさちゃん。職場のみんな。友達。
**もう、会えないんだな。**
ふと、胸が締めつけられる。
「……あの?悲しいことでも?」
「いえいえいえ!なんでもないんです。目にまつ毛でも入ったかな?すみません。気を使わせて!」
「カレー、気に入ってもらえました?
私の好物で、私の故郷では家庭の味なんです。」
「はい!めちゃめちゃおいしいです。こんな美味しいもの食べたことないです。もう死んでも悔いはないです。大好きです!」
「あははははは。
よかったです。」
「あなたは女神ですか?俺はもう死んだんでしょうか?」
「え?いや、死んでないと思いますよ?
おじーちゃん、この方、死なないよね?」
「おう。死なんな。」
「だそうです。」
……え?現実?
目の前の美しい女性が、俺に話しかけて微笑んでいるのが、**現実?**
周りにはヨボヨボの老人と、ご飯にがっついている精霊しかいないが——?
「……あの、あなたの夫たちは?どこに?」
「え?夫たち?
私は独身なので、夫はいないです。」
「……え?」
「……え?」
独身と聞こえたが……空耳か?まだ魔植物の影響が残っているな。
「ご老人、この方は、あなたの娘さんだろうか?」
「いんや。」
「この方の父上たちや夫たちが見当たらないが、この方を放っておいて何をされているのか?」
「この娘は、親もおらんし家族も、夫もおらん。
**天涯孤独じゃ。かわいそうなんじゃ。**
んじゃ、わしはこれでな。」
(色々知られたくないなら適当にごまかすんじゃな)
「また気が向いたから来るから、その時は供物の料理を忘れてるでないぞ。カレーでも良いぞ。
さらば。」
「**あっ、おじーちゃんまたねー!色々ありがとう。**」
……天涯孤独?
「えっと。(おじーちゃんからも言われたし、色々詮索されたら説明できないし)
私、家族はもう死んでしまって1人なんです。
ここでホテルを開業しようと思って準備中で、とりあえず5日分のご飯を作ってたところにあなたが来られて。
元々遠い田舎の国から出てきたので、この辺のことも、習慣とか?何も分からなくて……」
「本当に夫は1人もいらっしゃらないと?」
「はい!1人も……って、バツイチに見えますか?あはは。
今まで一度も結婚したことないです。」
「……天涯孤独でかわいそうなんじゃ。」
俺は、ぐっと息を呑む。
この美しくけなげな人が、一人で生きようとしているなんて——。
**「あの!俺とけっこん……」**
「……おれとけ?」
「すみません、最後の方聞こえなくて……」
「いえ!
**私をここで雇ってください!**
なんでもします!
お願いします!」
「え?あなたも無職なんですか?」
「いえ、私は冒険者をしていますが、しばらくここに滞在したいので、雇っていただけませんか?」
「えっと……そうですね。色々手伝ってもらえるのはありがたいんですけど、
この通りお客さんもいなくて、お給料が——」
「**いりません!**」
「……え?」
「住まいと、その食事をいただけるのであれば、報酬はいりません!」
「**あーなるほど。住み込み!**
わかりました!お客さんたくさん入るようになるまでは、お手伝いお願いします!
はやくお給料出せるように頑張りますね。
この辺のこと分からないので、ほんとに助かります。」
**「改めまして、私は高橋岬です。」**
「たきゃはし……みしじゃき様……?」
「いえ、たかはしみさき。」
「たきゃあーし……みぃじゃーきー様……?」
「……じゃあもう『みぃ』で!
**みぃです!**」
「……みぃ様……?」
「はい、みぃです!」
「私は、ジェイドと申します。」
「じぇいろ……さん……?」
「かかかかかかわわわわわわわ——!」
「え?かわ?」
震えてるのかな?カレー食べ過ぎ?大丈夫かな?
**バチン!**
「え?急にほっぺた叩いて……大丈夫ですか?」
「いえ!
**ジェイと呼んでください!**」
「じぇいさん?」
「かかかかかかわわわわわわわ……」
こうして、奇妙な2人暮らしが始まった。
つづく