**第1話:ジャージで異世界トリップ?**
異世界トリップものが大好きです。
休日、それは尊い。
今日は久しぶりにじっくりカレーを煮込んで、2日間はカレーライス、3日目はカレーうどんで決まり!果実酒用に焼酎と瓶も買ったし、宅飲み居酒屋開店の準備は万端。
そんな楽しい計画を胸に、自転車をこぐ。
ジャージ姿にちょんまげ、おまけに眼鏡——完全に油断した出で立ちだけど、家に着いたら関係ない。
しかし。
前方に突如として霧が現れた。
「え、天気急変しすぎじゃない?」
それでも構わずペダルを踏み続ける。霧を抜けたら家だ——そう思った瞬間。
目の前に広がるのは鬱蒼とした森。
「……え?」
止まらない自転車、迫る木々。転倒。買い物袋の中身がぶちまけられる。
呆然と立ち上がり、あたりを見回す。
スーパーは?道路は?マンションは?
どこにもない。代わりに生い茂る木々がゆらゆらと揺れている。
「神隠しってこういう感じ?」
言葉にすると、急に実感が湧いてきた。ヤバい。これは異世界転移では……?
今まさに、私の完璧な引きこもり休日が終焉を迎えているのでは……?
「コンチわー」
振り返ると、そこには小さな羽の生えた女の子がフワフワと飛んでいた。
あ、嫌な予感。
「手違いで召喚場所間違っちゃった!てへぺろ★ でも無事着いたから問題なし!お願い、じゃないと上司に怒られるしー!」
言動が軽すぎる。
職場のギャルアルバイトを思い出した。
「上司の人と代わってもらっていい?」
すると、ひょいっと降臨したのは白髪の老人。
「メンゴ!」
「……上司も部下も同じタイプか!」
彼らによると、ここは異世界。私は「聖女」として召喚されたらしい。どうやらこの世界は滅亡の危機に瀕しており、救世主として呼ばれたとのこと。
「……いや、絶対に嫌だけど?」
戦えとかじゃなく、普通に家族を作って幸せに暮らせばいいらしい。預言によれば、私が幸せになる過程で世界も変わるらしいが、そんな保証どこにある。
「ほんとは王族に保護させようと思ったんだけどー、間違っちゃった★ てへぺろ!」
「おい!!!!」
しかも、すでに**「聖女降臨」の神託**を出してしまったため、今頃城内も城下町も大騒ぎで捜索が始まっているらしい。
「いやもう余計なことしかしてないじゃん」
「街に行くなら馬で5日、近くの村まででも3日かかるぞ」
「うわ遠い」
「まあこの森は人が近づかないエリアじゃし、安全じゃろ」
いやこれ富士の樹海みたいな感じなのでは?
「まあよい。達者でな——グエ」
とんずらしようとした老人のローブを掴んで引き留める。
「文明の力を捨てたくないんだけど!」
「ご、ごめん!じゃあスキルを一つやる!」
異世界チート、獲得。
つづく。