鞍付けとブレーキング…え?もう坂路!?
もう桜も散って早くも気温が30度近くになって来た初夏。
いつものようにセリ組とそうでは無い組に分かれて、セリ組は馴致で馬房に。そうでない俺は昼夜放牧に出ていた。
つぶあんはセリに出るようで会う機会はめっきり減ってしまった。唯一の仲良し馬のフォルテもセリ組なので俺はまた独りになった。
まあその方が行動しやすいし邪魔もされないからいいんだけどな。
にしてもセリ出なくてよかった。この放牧地で伸び伸び過ごせなかった前が考えられないほど今が幸せだ。
走りたい時に走って草も普通の草より甘いクローバーを探しに歩いては食べを繰り返すこの生活だ。そう思ってしまう。
そうしてぐーたらしているとすぐに時間が経って、だんだん暑さは続くが日が短くなってきてやっと夏が終わるんだなと感じている秋。
ここ1ヶ月は大きな放牧地には行かずに、一頭一頭の小さな放牧地。パドックというらしいが、そこに放牧に出されては時々鞍を背中に付けたりをしている。
特に鞍を着ける時に締める腹帯というものが大嫌いで仕方ない。
初めて着けた時は苦しくて隣の馬房まで穴が空くほど強く壁を蹴ってしまった。
もちろんそれで俺の馴致担当のゆーさくにブチ切れられてしばかれて以降はやってない。
ただこの苦しいやつも対処法がわかってきた。そう息を沢山吸っておくのだそうするともう締められないと思って辞めるだろう。
まあそんな訳にも行かず、息を吐いた時に締められて終わりなんだけどな。
ただそれ以外は俺でも思うくらいに順調で一週間もすれば止まる合図。進む合図は完璧に理解できた。
まあ流石に人の声で分かるからすぐやれる。何故かって?痛くは無いんだけど鞭とか使われたくないしな。
そうして9月に入る頃には既に人が上に乗って馬房を周回したり、大きな樽のような場所。ロンギ場と言うらしいがそこで人を乗せた状態で走る練習も始めた。
ゆーさくも「うん、順調そのもの。これは早いうちにデビューできるぞ」
そうして木が枯れてきた頃。朝パドックで日向ぼっこをしていると「よし今日はコース行くぞ」なんとゆーさくじゃなくてはるきさんが俺を呼びに来た。
コースってあのクソ広いところを走らされんのかよまあ勾配着いて無さそうだしいっか。
そう思って準備されていると「いやー坂路いきなり登るのきついだろつから傾斜きついとこだけダクで緩くなったらキャンターで行こうか」
一瞬嫌な言葉が聞こえたが無視しよう。
そして案の定俺は坂路の目の前に誘導された。全力で後ろを向いて帰ろうとするが、それを許してくれない。左右の脚で圧迫されて前にしか逃げ道がないようにされる。
それでもゴネていると左右に手綱を振り強制的に一歩一歩、歩かされる。
これ以上鞭入れられるのも嫌なので仕方なくコースに入る。
「ようやく観念したか。こいつがこんなに嫌がるなんて思わなかったわ」と笑いながら馬上のはるきさんが言う。
内心舌打ちしながらも仕方ないから坂路を登る。
途中まではジョギングくらいのペースで走るが坂が急な分少し息が上がってきた。
その後傾斜が緩くなり7、8割位の力で走る。
俺は最初ゴネていたので最後尾でぽつんと一人走る。
ただあまりにも前が遅いので、差がコースの半分を行く頃には無くなっていてかなり力を緩めた。
走ってる間はいいのだが、ペースが崩れると一気にやる気がなくなる。
速歩に落とそうとするとすかさず鞭を入れられ仕方なくゆっくり走る。あー面倒くさ。
登り終えると流石に疲れがきて歩く気にもならない。
ゆっくりと坂を下っていく。急なところ以外は速歩でそそくさと帰る。
終わって体を洗われると一気に眠気が襲ってくる。
寝ている間に洗い終わったようでウォーキングマシンでとぼとぼと歩かされ、馬房に帰される。
あまりにも疲れが出たので入るなり餌には目もくれず、意識が無くなった。
1回だけ乗った馬が未勝利戦勝ってちょっと嬉しいです。
ちなみに坂路は結構嫌がる馬多いです。傾斜あれば尚更。
1歳の冬くらいまではキャンター途中まで出さないで、負担かけないように乗ります。