調教開始と移籍初戦
ようやく時間が出来たので3話分書けました。
遅くなりすみません。
大井競馬場に来てから2日。初日は調教せずに今日から乗るらしい。
そして大井競馬場の朝は早いようで空がまだ真っ暗な朝2時。厩舎に電気が点る。
「……おい、起きろリアン飯だ」
そう言って飼い葉桶を持ってきたのは、俺を馬運車から降ろした無精髭の男。名前はかまだと言うらしい。
正直俺はこの男が嫌いだ。何故かと言うとかなり力任せで乱暴な世話の仕方をする。馬房のボロ取りでは俺が少しでも動くと、おい!と怒鳴り思いっきり肩を叩いてくる。
別に痛い訳では無いが少しイラつくし、こいつが馬房に入るとまた叩かれないか心配で、これがなかなかストレスだ。
みなちゃんのあの心のこもった接し方を見習って欲しいものだ。
もちろんこんなのは少数で殆どは必要な時以外は何も言ってこないから別に嫌な印象は無い。
飼い葉は別にマズイ訳では無いから食べる。食べて1時間程すると騎乗チームがやってきた。
俺に乗るのは初日だし感覚を掴むという意味だろうな。大井競馬のリーディングジョッキーのもりかわという人が乗ってくれるらしい。
昨日隣の馬房で話していたことを聞いて少し楽しみだったのだ。
かまだが俺の馬装を終えて5分後くらいにやってきたのが、大井競馬のリーディングもりかわか。30代のまだ若い顔をしている。かなりニコニコしていて爽やかな感じがする。
「へえ、これがリアンエテルネルか。なんか思ってるよりも子供な体してるね。よろしく」
うるせえ。こちとらまだ4歳なりたてやぞ。
もりかわが俺に跨ると上手いんだろうなということが背中から直ぐに伝わってきた。これがリーディングかゆっきー見習えよ。心の中でそう思う。
ダクを軽くした後に本馬場でハッキングをする。
「結構ストライドピッチなんだね。うん、いい感じだよ」
3周ハッキングした後に整理運動をして今日の調教を終えた。
厩舎へと帰ると満足気なもりかわが降りてきた。
「どう?森川くんこの馬」
こう聞くのは俺の大井での調教師のあさい調教師だ。
「麻井先生、噂に聞いてた通り素晴らしい。次走乗るのが楽しみです。走りには前向きのという程では無いけど反抗もしないし、操縦性は全く問題ないですね」
「それなら良かった。次走はアメリカジョッキークラブカップに森川くんと登録するから再来週の日曜日中山行くよ」
「分かりました。お願いします」
体を洗われて直ぐに馬房へと帰る。
この時期の調教は寒いがシャワーが暖かい事が最高だ。
馬房へ帰ると朝が早いからかすぐに寝てしまう。しかし、また空から轟音が聞こえてきた。
これもそのうち慣れるのだろうか。とりあえず今のところは睡眠を邪魔されてイライラしかしない。
それから2週間後の水曜日。最終追い切りをする日になった。
1週前は12秒くらいのペースで負荷をかけられて俺自身疲れもないからコンディションはいいと思う。
「森川くん、今日はもう仕上がってるし終い以外軽くでいいよ」
「分かりました。とりあえず折り合いと併せだけ重視して行きます」
ダクを終えてキャンターをする。ゆっくりとペースを上げていき最後の直線へ入る。
3馬身前に併せる目標の馬が居るのでそれに併せにいく。
しかし、併せ馬がムチを入れても直ぐに追いついてしまい併せることが出来ず、最後は2馬身ほどリードしてゴールをした。
調教師の前に帰ると開口一番に「いやーこれスピードやっぱり違いますよ。菊花賞で馬券内来てますけど南関東ならマイルくらいまで走れるスピードしてます」
「とりあえず今週のAJCCへは体調は問題なさそうでよかったよ」
ただ併せ馬の相手が弱すぎてなかなか本調子では俺自身ないと思ってるんだけどな。8割くらいの力は出せるだろうけど。
そしてレース当日。輸送先の中山競馬場は盛岡と違って近い距離にあるため当日の輸送で全然間に合う。
当日ゆっくりとストレッチを馬房の中でしていると、かまだが輸送用バンテージを巻きにきた。
輸送は慣れたもので馬運車での時間潰しは適当に窓の外の変わっていく景色を見たりする。今までは田舎道だったがビルや東京湾が移動中は見えるので退屈を以前よりしないなという印象だ。
午前中は着いてすぐに曳き馬で体をほぐして馬房へと時間まで休む。今日は冬なのに日差しがあるおかげで暖かい。目を瞑ると直ぐに寝れそうだ。
「……起きろ!」
すっかり寝ていたようだ。目が覚めるとお尻をかまだに叩かれて早く起きるように急かされていた。仕方ないから体を起こす。
いつもより丁寧にブラッシングをされた後に馬体検査と蹄鉄検査を終えて体重を測りに行く。
今日の体重は506kgとジャパンカップに引き続き過去最高体重記録更新だ。まあ俺も体に少し余裕はあるし、こんなもんだろうなとは思っていた。
かまだは扱いは荒いが仕事は早いので、馬装をすぐに済ませて歩き始める。
他の装鞍所にいる馬たちより早く馬装を終えて歩けるのはかなり助かる。
今回のレースのメンツは何頭か菊花賞で一緒に走った馬がいるが、印象に残っている馬はセントライト記念と菊花賞で走ったステイブルフェスタくらいだ。
今回は18頭とかなり多頭数のレースでその中で俺は6番とやや内よりの枠順だった。まあ前走で馬群への恐怖心はほぼ無くなったし悪くは無い枠のはずだ。
時間になりパドックへと行くとたくさんの人で溢れている。ただ流石に菊花賞やジャパンカップほどの人だかりでは無いな。
電光掲示板をちらっと見ると俺が2.4倍で1番人気になっていた。中央競馬では初めてでは無いだろうか。
相手はステイブルフェスタかと思いきやステイブルフェスタは4番人気の13倍という中穴だった。2番人気はオーバーザサンで3.7倍、3番人気はタイムトゥワイスで9.9倍で俺とオーバーザサンの2強だった。
まあパッと見た感じそんなに強そうでもないし枠順は大外だからな。そこまで脅威とは思わない。なんならステイブルフェスタの方が目が血走ってて脅威に感じる。
そうしてもりかわがやってきた。「結構落ち着いてますね。やっぱり中央遠征結構してるのが大きいですね」
かまだは緊張しているのか無言で頷く。
「自在性のある馬だしレースプランは任せるからゲート出たなりに考えて」とあさい調教師のオーダーだ。
「分かりました。とりあえず芝の状態的に前残りそうなのでなるべく前に付けて最後粘る感じでレース組み立てます」
本馬場へと行くと思っているより人が沢山入っていた。返し馬はいつも通り軽いキャンターで芝の状態を確認する程度で済ませる。
かなり年上の馬が多いようでセントライト記念の時のようなうるさい馬はほとんど居ない。落ち着いて俺もレースに挑めそうだ。
時間になりゲート裏へと向かうとスタンド前のスタートだからかザワザワとした声が沢山聞える。なんとも言えない雰囲気を感じる。
ファンファーレがなりゲート内へと収められる。そういえばこのレースの名前アメリカジョッキークラブカップって言うのか。
アメリカとジョッキーと言えばゆっきーなにしてんだろな。向こうでも元気だといいけど。そう思って空を見上げる。
俺はなんか最近毎日暇でつまんないからゆっきーみたいな話し相手が……ん?なんか大歓声だぞ。
「……おい!行くぞ!」
視線を目の前に移すと既にゲートは開かれており、20馬身くらいの位置まで先に進まれてしまっている。
あっ、やべーやらかした。さっきまで聞いていたのは大歓声じゃなくて悲鳴と怒号だったみたいだ。本当にやらかした。
急いでゲートを出るがもうこれ走っても無理だな。諦めてゲートを出て3完歩で走るのを辞めて歩くことにした。
騎坐を入れられるがもうこの差はしょうがないじゃん。走るだけ無駄だって諦めようよ。もりかわくんもため息をついて諦めたみたいだ。
そしてその後は馬体検査をされた後に馬装をといてもらって馬運車で厩舎へと帰ることになった。
今考えてる終わり方だと1年間毎週投稿してちょうど終わるくらいなので少し巻かないとと思ってます。




