南関東への移籍
「よーし今日でオフシーズンだね。リアン今年1年ありがとうね」
ジャパンカップから一夜明けてみなちゃんが言う。
あの後朝までほとんど起きることは無くずっと寝ていた。
「じゃあなリアン。次会う時は5歳になってるはずだからしばらくこのコンビは解散だな。まあお前が活躍してアメリカ来た時俺に騎乗依頼来ないかな」
そうかゆっきーとはここで一旦コンビ解散だったな。向こうでも頑張れよ。
「村上先生に日本の情報入れないで集中しろって言われたし、どうなるのか楽しみだな」
まあぼちぼちやってくよ。バイバイ。
この後は疲れを見るために盛岡競馬場に戻ることなく、千葉の牧場に放牧に行くことになった。
「じゃあまた盛岡で会おうね」
そう言って馬運車の扉が閉められる。
ふー疲れたなぁ今年はもうゆっくり休めるみたいだしのんびりしよう。
外の空気を吸いながらそんなことを考えていると2時間も経たずに着いた。
インド人だろうか外国人に連れられて外に出ると田舎という言葉が似合う北海道の牧場にそっくりの場所だ。千葉にもこんなところがあるのか。
「これがリアンエテルネルね、1ヶ月も居ないだろうけどよろしくね」
場長と思われる偉そうなじいちゃんがそう言う。
馬房へは向かわずに、早速サンシャインパドックに出されて外を満喫する。
やっぱり田舎の空気は美味いな。
横になり日向ぼっこをしていると少しずつ眠くなってきた。11月も終わりなのにも関わらず天気がいいからか体感は20度くらいのちょうどいい気温だ。
放牧地でのんびりしているとさっきのインド人がやってきた。どうやら馬房に俺を返すみたいだ。
馬房に帰るとやることが無い。飼葉を食べている間に窓も閉められたし何もすることがない。
3日後には運動が始まった。
いつもとは違うインド人が担当みたいだ。
乗られると手綱をかなり強く使うタイプみたいでゆっきーとの差に少しガッカリする。
今日は軽いキャンターだけのようで息も全く上がらない。だいぶ体力着いたよな俺。
インド人が降りると少しだけ汗をかいていたので軽く洗われてウォーキングマシンに入れられる。
マシンはゆっくり歩きすぎると後ろから電気で刺激されるのでしっかり歩かないといけないのが面倒くさい。
20分ほど歩くとマシンが止まる。迎えに来たインド人に曳かれてサンシャインパドックへと放牧され、のんびりと横になりながら草を食む。
うん、怠惰ってほどまで行かないけどしっかり休んでるな俺。
今年半年間はかなり頑張ったからこのくらいののんびりも許されるだろう。それにGI2着と3着馬だからな俺。ある程度これから手を抜いてものんびりと過ごせるだろ。
そうして調教のペースも早くても15-15というペースのまま1ヶ月が経過した1月。遂に輸送の日が来た。
かなりのんびりしていたので俺自身のコンディションは整ったし、ストレスもないから調子はいいと思う。
馬運車へ乗るのはもう慣れているのですんなりと乗り、大井競馬場まで向かう。
外の景色が変わることが新鮮で外をずっと眺めながら向かう。
高速に乗り、畑ばかりの田舎道から海の真上を通り、飛行機の音がかなり気になり始めた。
外を見ると飛行機が見える。そう羽田空港だ。羽田空港を過ぎると遠くにビル群も見えてきている。
どうやら高速を降りるようだ。高速を下りると5分もしないうちに停車した。
どうやら着いたようだ。
馬運車の扉が開けられて厩舎スタッフがやってくる。
俺を降ろすために来たのは40代くらいの無精髭を生やしたおじさんだ。
「うし、降ろすぞ」
大井競馬場に降りると少し潮の匂いがした。空気はやっぱり千葉の方が良かったな。
連れられて厩舎まで歩く間に空から轟音が聞こえてくる。空を見上げるとかなり近い距離を飛行機が飛んでいる。
なんだここ、寝れるわけねえし、落ち着けるわけねえじゃん。イライラしてきた。
こんなところで俺は調教を積まなきゃ行けないのか?嫌だ!早く帰りてぇ!という抗議の嘶きは空から鳴り響く飛行機のエンジン音でかき消された。




