ハミってムズムズするんだけど
毎日俺はぼっち生活を満喫していた俺と違い、つぶあんは群れのリーダーとなり率いている。俺とは真逆だよな。
ただそんな俺にも一人、いや一頭だけ仲のいい馬がいる。白い体にポツポツと黒い点があるフォルテと呼ばれている馬だ。
仲がいいと言うよりかは向こうが一方的に後ろを付いてくる。それもリーダーのつぶあんに付いていくことが無いのだ。
不思議な馬だなと思いつつ寝てシカトしていると、俺と同じように寝始める。こんな怠惰の塊の生活のどこがいいんだろうか実に不思議である。
最近は少しづつ雪が増えてきた。ただあまり積もらずに、いるおかげでまだ食べる草などは生えている。
そして寝ているとまた前のようにつぶあんがやってきて走ろうと誘ってきた。仕方ないので重い腰を上げて走ってやると嬉しそうに飛び跳ねた。
昔っからこいつは変わらないなそう思いながら雪が降り、50cmほど積もった辺りから新しい飼い主のおじさんが口の中に何かを突っ込み始めた。
ものすごく違和感があるのでもぐもぐとしていると「ハミに早く慣れろよー、セリ馴致早めにしたいんだから」と言ってきた。
これハミっていうのか…てかセリに俺かけられるのかよ何するんだ。
そんな不安を抱いて一ヶ月ほど経つとハミにも慣れてきて曳き馬でもハミを付けたまま速度のコントロールなどをし始めた。
確かにこれ口に直接押さえられる感覚あるからわかりやすいな。
でもムズムズする。早く取って欲しいので大人しく従うと他よりも早く取ってくれた。
馬ってこんなのを口の中に入れてるのかよすげえな。
春先になって雪が解けだすと本格的に曳き馬を長時間スピードコントロールや人間の横に立つと言うことを教えられる。
最初は従うのがめんどくさかったのだがやる気になった原因がある。
「こいつってほんとに扱い楽で最高ですよ、セリ私曳いていいですよね!?」
このポニーテールが似合う茶髪のかわいい女の子、あかねちゃんが俺の担当でやってくれているからだ。
他の男と違って曳く時のプレッシャーが少なくて楽だ。
そしていつもこっそりおやつをくれる社長のはるきさんもいい人だ。
他は2人くらいたまに馬蹴ったりするし俺としては苦手である。
そうしていよいよ雪はほとんど無くなり春になった。
この時期になると放牧時間は6~9時以外はずっと放牧になっている。
そのせいか放牧から帰ってくるとみんなヘトヘトなので誰も暴れようとしない。
俺としてはゴタゴタに巻き込まれたくないから楽なんだけどな。
最近は暖かくなって気持ちがいいのでフォルテと適当に走っている。
なんやかんや風を切る感覚が気持ちいいので自由にゆっくりとしたペースで走るのは大好きだ。おかげで少し走るくらいじゃ息も切れなくなってきた。
収牧の時間になりいつも通り近場の人に引っ張って貰いに行く。もちろん女の子がいいがもう埋まっていたので仕方なくはるきさんの方に行く。
「最近こいつずっと寝てたのによく走りますよね。私この子一口に出されたら買います」
あかねちゃんが言うとあんまり怖くない高校生のインターンシップ生が「僕もこいつ大人しくて好きなんすよね」と同意してくる。
しかしはるきさんは「いやこいつは走らんべ」と言う。
なんだこいつ真面目に走ったら、他の馬より俺の方が速いわボケ!と思いながらも怒りは抑えておく。
そして4月になるといよいよ放牧も少なくなり、本格的に曳馬の馴致期間になった。
なかなか外に出られないので暇だ。ずっと馬房で寝るか窓から外を眺めている。
唯一の娯楽は俺の馬房から見える夜の当直が見ているテレビだ。今日はお笑いやってたしかなりブルブルと笑っていた。
他のやつもストレスが溜まっているようで段々とうるさくなって来ている。
俺も人の頃はずっと引きこもっても平気だったのだがずっと放牧をしていると狭い世界で生きるのは飽き飽きしてくる。
少しづつだけど変わってきたのかな俺も。