芦毛の重賞挑戦
「よしスーいい感じだよ、そのままで行こう」
リアンと調教始めて2週間。スーを遂に重賞出走までこぎつけることが出来た。
ジャパンカップの2週前だがあまり乗れていない。まあ任せてるのが根津さんだし、話す分にはかなりいい感じらしい。
「あれ絆カップって今週だよな確か」
馬上から根津さんが話しかけてくる。
「そうです、だから明日はビシッとやります」
「確認だけど今日は俺が外でスフォルツァートが内でいいんだよな」
「そうです。それでお願いします。先行するので併入ですね」
「了解。じゃあキャンターからゆったり行くから」
「わかりました」
うん、今日のキャンターもいい感じだし歩様もいいな。
スーは調子落ちないから今回もいい感じで走れそうだ。強いて言うなら隣にリアンが来た時に、リアンを見ながら走るところくらいだ。
向正面でリアンの前を5馬身先行してからペースを上げてコーナーを曲がる。
そして直線に入るとリアンは1馬身差まで詰めていた。ほどなくしてどちらも持ったままの併せ馬になった。
最後反応を見るためにスーに気合いをつけてやると、スーが半馬身先着してゴールした。
スーは1200~1600くらいまでの馬だが、それに涼しい顔で追い付くリアンがやっぱり化け物だと感じる。
馬場の出口に加賀先生が居る。
「どうだ?裕貴」
「追ってからの反応もかなりいいですね。前走以上くらいは走れます。中1週ですけど疲れもないですね。まあ今日は相手がリアンだからそんなに派手じゃないですけど…」
「了解わかったよ。ありがとう。やっぱり村上先生のリアンはすげえな。スーもこれを超えなきゃだぞ」
ニコニコして額を撫でる加賀先生にぶひん!と鼻息で返事をするスーが愛おしい。
「じゃあ裕貴、6時にユラノマジェスティの調教あるからなるべく早めに頼むな。」
そう根津さんが言い残して帰っていく。
「わかりました。すぐに準備していきます」
「うん、かなり反応もいいし、これは楽しみだな」
レースまでの組み立てなどを考えて過ごすとすぐにレース当日になった。
日曜日に開催されているのでJRAを買いに来たお客さんなどで普段より多くのお客さんに来てもらっている。
今日はここまでに2勝とかなりいい感じだ。
スーと俺は1枠1番の最内枠だ。
スプリント戦での最内枠は個人的には微妙だ。向正面長いし包まれないようにポジション取らないとな。
人気は順にあやめ賞からヴィーナススプリントまで6連勝の3歳牝馬チャームアライブ、前年覇者のストリートドライヴ、早池峰スーパースプリントを勝った盛岡最速の馬オリオンザファスト位で他は対戦済みなので特に気にしてはいない。
俺らは4番人気だった。
「裕貴、今回の注意点はゲートと包まれないこと。それ以外は好きに乗ってくれ」
「ゲートはこの子は問題ないですけど、外にオリオンザファストとか居るのであれより前は無理なので、前譲って番手で行きます」
絆カップは割と差しが決まるので前行く必要は正直ない。
そうしてパドックで待っているスーに乗りに行く。
「どうよ、ようやく重賞だな。ここは勝つしかないよ」
声をかけるが目は俺じゃなく前を向いている。
いつもはのほほんとしてるスーだが今日は緊張感が伝わるのかやる気に満ちている。
跨ってみると少しチャカついてきた。まあスプリントだし元気くらいがちょうどいい。
返し馬はしっかりと俺が出したいタイミングでキャンターを出す素晴らしい返し馬ができたと思う。
向正面のゲート裏へ着くと先出しで来ていた栗毛のオリオンザファストが居た。
この馬がどれだけ前行くかによってプランがだいぶ変わるから1番の鍵になっている馬だ。
そしてチャームアライブとストリートドライヴなどの有力馬も到着していよいよ発走時間になった。
ファンファーレが鳴りお客さんが拍手と声援を送る。
ゲートに真っ先に入る。気合いは乗っているが落ち着いてゲートで待てている。やっぱりそういうところが大切だよ。
首筋を撫でながら全馬のゲート入りを待つ。
最後にオリオンザファストが入ってスタートが切られた。それと同時にスタンドからは声が上がる。
やっぱりオリオンザファストは超速い。多分200mなら中央でも負けないんじゃないか?一気に3馬身差をつけて逃げていく。
しかしスタンドから上がった声はオリオンザファストのスタートにではなく、チャームアライブのスタートに対してだった。立ち上がって5馬身出遅れたスタートを見て悲鳴が上がっていたのだ。
ストリートドライヴと他馬は色気付いたのか、前は競りかけずに自分のペースを刻んで、上がるタイミングを見てる。
俺とスーはそのおかげですんなりと単独の2番手を取れた。その後ろは2馬身空いている。
ここまでは順調。後は前をどうするかだな。
3コーナーでオリオンザファストはペースを落としているようで俺は1馬身差までその差を詰めていた。
ストリートドライヴは昨年の再現かのように捲り気味に上がって来ている。
4コーナーから舌鼓をして肩ムチを入れて追い出す。
ストリートドライヴは昨年程の力は無いのか手応えが悪そうだ。
オリオンザファストと並ぶように直線へ向く。
入口では並んでいたが、しぶとくもう一度離される。
しかし追い続けるとまた差が縮まってきた。ラスト200mで交わして先頭に立つ。落ちてきたのは距離なんだろうな。
後ろは8馬身は離れている。ここから独走に入るかと思われたが外から1頭凄い勢いで追い込んで来ている。チャームアライブだ。
直線入る時には見えなかったから勝負から除外していた。しかしまだ10馬身近いリードがある。
ラスト100mで5馬身差だが逃げ切れるか。スーも息遣いが荒くなり、も少し手応えが少し悪くなった。
一気に伸びて来るチャームアライブ。それを見てもう一度ハミを取って伸びようとするスーの意地を感じる。
一気に伸びて差し切られたかと言うところがゴールだった。
「お疲れ様、頑張ったよ。相手が悪いなこれは。」
首筋を叩いてここまで頑張った相棒を労う。
並ばれて勢いは向こうだし仕方ないか。
「いやーやられたわ。まんまと逃げ切られた」
引き上げる時にチャームアライブに乗っている同期の天才、松田哲夫からの一言が意外だった。
「え?俺差されてない?」
「いや俺勢いで差せたとは思ったけど多分上げ下げでスフォルツァート下げててこっち上げてたから多分俺ら負けてんで」
「マジか、とりま写真次第だな。てかチャームアライブめっちゃ睨んできてんだけど。超怖いわ」
「ほんとだ、負けんの久々だから結構怒ってるわ。ごめんな、この子お嬢様なのよ」
「そりゃ大変なパートナーをお持ちで…」
検量室まで引き上げる。結果は、松田の言う通り8cmの差でスフォルツァートが先着していた。
やっぱり松田は感覚の天才だ。
重賞を勝ったので写真撮影をする。
スタンドからは「おめでとう!」「次も期待してるぞ」と暖かい言葉が投げかけられる。
どこか誇らしげに写真を撮られるスーを見てどことなくリアンを思い浮かべる。
「リアンもそうだけどお前もドヤ顔するんだな。やっぱり育ったとこ同じだから似てるな」
その言葉を聞いてまた嬉しそうに目を輝かせるスー。こいつともだんだん強くなってるからどこまで行けるかな。
最近とても忙しく、なかなか更新する時間がありませんでした。
またペースを上げて行けるように仕事頑張ります…




