特訓と岩手最強馬の帰還
前走を快勝して2連勝をした俺は調子に乗っていた。それも分かりやすく。
「お前調教で会う馬みんなにドヤ顔するのやめろよ」
仕方ないだろ。岩手でこんな強い勝ち方見せまくってんだからドヤるわ。
「はー。まあお前の天下も明日までだぞ」
どういうことだ?俺より強いやついるのか?
「アップリフト帰ってくるからな。明後日一緒に調教だぞ」
あーあの岩手年度代表馬の馬ね。確かに楽しみだな。
「そんな事はどうでもいいから馬の間突く練習するぞ」
トラウマになっている馬の間で走ることを克服するべく日々調教を積んでいるが、なかなか克服も簡単では無い。
今日も前を行く馬の間に入ろうとするが、やっぱり怖いから脚がバラバラになって減速してしまう。
「常歩は行けんだけど走るとまだ無理なんだよなぁ」
まあ前は常歩でも入るの躊躇していたからだいぶ成長を実感している。
「困ったなぁ」
村上のじいちゃんも顔が曇っている。
俺だって好きで迷惑かけてるわけじゃないんだよ。ごめんな。
「まあ最悪セントライト記念でもテンの速さで前行って逃げるしか無いですね」
「うーん、馬込みの調教がここまで難しいのは初めてだよ」
「まあ明後日アップリフトと併せるんでそこで上手い具合に馬込み入れたいですよね」
すまんが俺の前で話されてると作戦筒抜けなんだ。
そうして翌々日になりアップリフトとの調教が始まった。
アップリフトはどんな馬なんだろうと想像を膨らませていたが実際出てきたのは想像以上だった。
デカい。少なく見積っても550kgはあるだろう。栗毛の皮膚の薄い筋骨隆々のビカビカに光った雄大な馬体に、青のチークピーシーズを付けた馬だ。
いや、これはちょっと勝てるかな。目が凄いもん。
俺もそんなに小さい方では無いが隣を歩くと父と子の様だ。
「やっぱアップリフトデカいですね。正直ここまでデカいとは思わなかったです。何キロなんですか?」
「こいつまだ緩いから579キロだったよ」
なんじゃそりゃ。俺より100kgも重いのかよ。
「ひえー、それかかったら腕もげますよね」
「いやこいつ目は怖いけど実際大人しくて乗りやすいぞ」
目つき悪いけど大人しい馬なんているんだな。
「よしダグ踏んでキャンター行こうか」
「はい、お願いします」
走り出すと1歩1歩がデカいかと思いきやそこまででもない。
どちらかと言えばピッチ走法だ。まあそれでも体が大きいからストライドも大きいんだけどな。
直線に向いて追い切ると向こうが軽く仕掛けていい勝負だった。
最後の方に前にいた馬との間に挟まれる形になったがやっぱりまだ怖いし緊張するので竦んでしまう。
「うーんまだ動きやっぱ重いな。来月までかかるなぁこれは」
まあ確かにレース続けて出ていて調子のいい俺と復帰したてのアップリフトじゃ調子の差は出ちゃうよな。
早く全力で走って見てほしいな。
「どうだ?アップリフトは」
「いや飛びでかいのに速いですね。でも水沢はやっぱ向いてないんだろうなって感じしました」
「まあ盛岡の方が大きいしそれはそうだろう。でも水沢で勝ち切れるんだからこいつは凄いんだよ」
水沢なんてのがあるのか。俺は岩手競馬は盛岡しかないと思ってたよ。
「で、まだ馬込みは無理か」
「これはどうやって直すんだろうってレベルですけどやってることは間違ってないと思ってます」
「まあこれしか残ってないからな。リアン、頑張ろうな」
なんかごめんな。緊張しなければいいんだけど意識しちゃうと緊張して入れないんだよ。考えすぎなのかな。
「とりあえずセントライト記念は逃げか外外回しての差しで行こうか。まあゲート次第だな」
「そうですね。僕も概ね同意です」
レースまで1ヶ月もないのにどうしよう…




