オパールカップ
「リアン…寝すぎだよぉ〜」
おしりを叩いてみなちゃんに起こされる。
あ、今日はレースの日か。
「飼葉桶付けておいたのに30分経っても寝てるのリアンだけだよ?」
どうやら起きる前にご飯が置いてあったようだ。
でも眠いから二度寝をする。
「おいー寝んな起きろ〜」
仕方なく起きてご飯を食べる。
「もー、せっかくリアンだけ普通にあげても食べないから乳酸菌入れてる特別仕様なのに〜」
まあ甘くないと食べるのが嫌なので、甘くしてもらってるのは助かる。
「まあレース始まるのまだ先だし寝てていいよ〜」
言われなくてもそうするけどな。
そうして寝ていると昼の勝負飼いを食べて、レース前のコンディションを整える。
暑いので涼んでいるとレース2時間前になり、ブラッシングが始まった。
「リアンって沢山寝るのにボロの上には寝ないの偉いよね、ブラッシングが楽で最高だよ〜」
まあトイレはご飯から1番遠い端っこって決めてるからな。
だってご飯食べてる時に見たくないしさ。
「よーし、もう黒い体がツヤツヤで光沢あるよ凄いね〜」
どうやらブラッシングが終わったみたいで、体重を測りに外へ出る。
んーっと伸びをしてから体重を測る。
490kgか前とそんな変わんないな。
装鞍所へ行くと前回戦ったメンツは2頭だけで、他は調教でも全く見た事ない馬ばかりだ。
「お、結構見てるね。オパールカップは地方全国交流だから全国から馬が集まるんだよ〜」
なるほどな。全国から馬が集まってきてるのか。結構大きいレースなんだな。すんなりは行かなそうだ。
5番とか9番は筋肉も多くてかなり強そうだ。
「まあ勝ってもらうよ〜」
そうして鞍付けを済ませて曳き運動をする。
「あの5番のサザンテンペストは元々盛岡にいたんだよ〜」
元々って言うと今は違うのか。
「盛岡で相手いなくなって冬シーズンに大井に移籍したんだよ。だからめちゃくちゃ強いよ。9番のパリスビーチと10番のスペシャルセブンは門別だから速いしいい勝負になりそうだね〜」
なるほどね。とりあえず今日1番の最内枠だからすんなり前に行けるといいんだけどな。
「あ、パドック行くよぉ〜」
もうすぐ日が落ちそうな時間にパドックに行く。
今日は平日だからか前に比べると人が少ない。
設備が綺麗でもやっぱり地方と中央の差は感じるよな。
オッズを見てみると俺は2.3倍、サザンテンペストは2.8倍で拮抗している。
その他はパリスビーチ9.6倍、スペシャルセブンは13.9倍。前戦ったクロスオーバーランは27.9倍と離されている。
先頭を歩きながらゆっきーが来るのを待つ。
初めてくる競馬場なのかチャカチャカしている馬も何頭かいる。
特に俺には何も無くぼーっと歩いているとゆっきーが来た。
他の騎手の顔全く知らない人ばかりだ。
「よーし今日は全国に俺らの名が広まる日だから楽しみだったんだよ」
何言ってんだと思いながら返し馬に向かう。
相変わらず調子がいいので少し地面を蹴るだけで大きく進める。
「いやぁ、これは勝ちもらったわ」
フラグ建ててくなよ…負けはしないけどさ。
ゲート裏に着くと周回を始める。今回のゲートはスタンド前の深いところだ。
中央ほどでは無いが歓声やファンファーレも聞こえる。
まあなんかテンション上がっている馬もいるから枠入り待たされそうだな、と思いながら最初にゲートに入る。
案の定予想は当たってゲートの中で待つ時間が結構ある。
サザンテンペストはよ入ってくれ。飽きてきたんだけど。イライラするわー。
「そんなイラつくなよ。ゲート出たら気持ちよくなるんだから」
首筋をポンポンと叩くゆっきーに、それはそうだなと思い冷静になる。
ようやく最後の1頭が入り少しの静寂の後、スタートを切る。
イライラしてた分もあってゲートには集中出来ていたから好スタート好ダッシュを決めることが出来た。
すんなりと先頭を取れたが外から門別の馬が競りかけてくる。
サザンテンペストはそれをピッタリマークしていて不気味だ。
1コーナーへ入ると単騎逃げを打つことが出来て門別勢は2番手。その外にサザンテンペストという形。
2コーナー出口ではリード3馬身になっていた。
「よーしそのまま。いいよ息入れていこう」
向正面中ほどでクロスオーバーランが追いながら何とか2番手の外まで捲ってきた。
「あれは垂れるから気にしなくていい。サザンテンペストだけ見てればいいよ」
言葉通り持ったままでサザンテンペストが、単独の2番手に浮上して3コーナーカーブ。
やっぱりサザンテンペスト力あるなぁ。ここで離せないのは、同世代の盛岡の馬との違いかもしれない。
しかし4コーナーで追い出されたサザンテンペストだが差が3馬身から詰まらない。
「よし、今日は追うよ」
肩に鞭を入れられ軽く気合いを入れられ追われる。
一気に突き放す。ゲート待たせやがってと思いながらそのイライラも全て直線の走りでぶつける。
「後50mだし流すよ」
そう言われて流す。差は今回も大差みたいだ。
「よし、ナイス。その走りを待ってた。でも笑っちゃうくらい強いなお前」
首筋をポンポンと叩いてゆっきーが笑いながら言った。
向正面から帰ると色々な騎手から「おめでとう」と声がかかる。
サザンテンペストに乗っていた騎手からは「そりゃ無理だって、笑うしかねえよ」と大笑いされていた。
「でも矢野島さんのそれもやっぱ自力ありますよ」
「よく言うよ。その馬俺は大井で待ってる」
大井か。東京住んでた時に駅で聞いたことあるくらいだな。
「さて、これで中央行けるな。セントライト記念行くぞ!」
ゆっきーがウィナーズサークルに向かう途中に、スタンドに指をさしながらそう声を出した。
いつも誤字報告ありがとうございます。助かります。
今日は久々に競馬場の話をしようかなと思います。
装鞍所には1時間前集合が基本で、遅れると調教師に制裁があるみたいです。なったことは無いですが。
それまでに馬体重とブラッシングを済ませるので、2時間前くらいから準備は始まります。装鞍終わったら曳き馬をするのでヘトヘトです。




