故障と長期休養
「…はっきり写ったね。ここ見てもらったら分かるんだけど右前肢中間手根骨の剥離骨折ですね。とりあえず馬主さんに連絡してもらって手術します。」
また俺の馬が故障してしまった。
リアンはちょっとモヤっとしてたのは俺も感じてた。でもこの調子なら行けると思った俺が悪いんだ。
「全治は…どのくらいになるんですか?」
「うーん、全治9ヶ月って所かな。範囲は思ったより広いけど予後はいいよ」
「そうですか。直ぐに連絡します」
不幸中の幸いというところだろうか、予後はいいと言う所で一安心することが出来た。
とりあえず馬主のユニバーサルクラブ代表の篠宮遥輝さんに連絡を入れよう。
「お疲れ様です。篠宮さん、蓮です。」
『蓮君リアンの様子どう?』
「右前肢の中間手根骨の剥離骨折で全治9ヶ月という診断でした。予後は問題ないです。手術が必要なようでどうなさいますか」
『もちろんするよ、ファンドは解散させないから会員さんの負担になっちゃうけど』
「承知しました。この度はすみませんでした」
『君がいちばん辛いんだから元気だして手術終わったら一旦うちの牧場で休ませるから』
「承知しました。失礼します」
ふー何とか許可貰えた。いつもの事だけど、いい人で安心する。
次は保科さんだ。
「お疲れ様です。リアンの件なのですが…」
『リアン大丈夫か?予後は?』
「予後は大丈夫です、右前肢の中間手根骨の剥離骨折で全治9ヶ月の診断でこの後手術になります。」
『そうか、無事ならそれでいいんだ。あの馬は驚かされてばっかなんだ。ここで終わってもらったら困るからね。でも9ヶ月か。転厩も視野に入れないとだな』
「こう言ってはなんですけどリアンに期待してたんですね」
『最初はしてなかったけどな。まあ面倒見てやってくれ』
「承知しました」
急いで先生の元へ行き内容を伝える。
「手術の許可貰えました。よろしくお願いします」
「分かりましたすぐに取り掛かります」
そうしてしばらくすると準備が整ったようで手術が始まる。
しばらく何も考えられずに、時計の針が進む音だけが響く待合室で待っていると、無事に手術が終わったと教えられた。
麻酔覚醒も順調でバタバタする馬が多いのだがいつも通りゆっくりと起きて立ち上がった。
とりあえずしばらくトレセンの入院馬房に入ることになった。
入院馬房に入ると少し広めの馬房で気持ち良さそうに寝るが左前脚が痛々しい。
「本当にごめんな」そう呟く。
すると言葉が聞こえてるかのように夢の中でブルルンと鼻を鳴らすリアンを見て、命が助かったことを実感する。
そして入院馬房から出ることになった2週間後。
退屈そうに外を見たり寝たりを繰り返しているリアン。
とりあえず一旦北海道のリアンが育成された牧場のユニバーサルファームへと帰る日になった。
馬房から出されると久々の外に気分が上がっているようだが、脚が痛いからか歩様が乱れている。特に暴れたりしない馬でよかった。
「じゃあまた会えたらな」
正直もうわかっている。こいつがトレセンに帰ってこない事を。9ヶ月も休んで体力を取り戻した後にはもう未勝利戦は終わっている可能性が高い。
「じゃあリアンよろしくお願いします」
「安心してくれ、しっかり届けてくるから」
遠くなる馬運車の姿を見ながら少し涙が出てくる。
トレセンには別れは日常茶飯事なんだ。仕方ない。そう自分に言い聞かせて作業に戻った。
明日も同じ時間に投稿します。




