連闘とトラウマ
前走から2日経った火曜日。今回は放牧に出ずに続戦みたいだ。
角馬場で運動したあと今日は坂路では無くダートへと行き軽く走った。
少し足を取られるところがあったがそこまで気にする必要は無いな。
そのままペースは変わらず、軽く流す程度で今日の調教は終わった。
「どうですか?」
「まあそんなに気にならないけど本質的には芝かなぁ。もちろん競馬行ったら変わるかもしれないけどね」
次ダートなのか?まあいつになるのか分からないけど脚慣らししておかないとな。
「でも仕上がり的には今週も問題無いね。脚元ケアしてあげようか明後日の追い切りはすごく軽くしよう」
ん?今週も走るのか?疲れるし嫌だなぁ。それにちょっと走る時モヤってするんだよな。
「分かりました、ありがとうございます」
そうして翌々日の追い切りは併せずに7割程度の力でウッドチップのコースで行った。タイムはまあ出てないだろうけど調子は悪くないな。
そうして早くも前走から1週間。いよいよ今日出走となった。
朝になって空がまだ暗い中輸送準備をされる。
「うん、脚元の腫れも無くなったね」
そうだな。モヤってしてたやつも気がついたら無くなっていた。
馬運車へ向けて準備が終わると同じ厩舎の馬たちと歩き出す。
こっち来てまだ仲良い馬そういえば出来てないな。まあ邪魔だし要らないんだけどね。
歩いてみて今回も調子がいいのがわかる。なんなら前走以上だ。
うん、今日はダートで上手く走れれば力は出せそう。
馬運車へと乗り込むと朝早かったのですぐに眠気がやってきた。他の馬乗るの待ってたら寝る時間減っちゃうし早く寝よう。
そう思うとすぐに眠りに落ちていくのだった。
馬運車が止まる音で目が覚めるとちょうど着いたところだったようだ。
ゆっくりと馬運車のスロープから降りて1週間ぶりに阪神競馬場に帰ってきた。まだまだ夏の暑さは残っており先週と全く変わらない。
そうして少し馬房でゆっくりしていると装鞍所へと直ぐに連れ出された。
もうちょっとぼーっとしてたかったなと思いとぼとぼ歩く。
その姿を見たれんが「やる気無さすぎだろ」と苦笑をする。
保科いないだけでこんなに幸せなのかと内心思った。
装鞍所に着くと今日は1番のゼッケンをつけるみたいで俺の名前が印刷された1のゼッケンを手際よく装着していく。
脚にバンテージを今日は巻いて準備もできた。
れんの手際がいいから他の馬よりも早く終わって暇な時間できるからいいんだよなぁ。
「よし!行きますか!」
そうしてパドックへと連れ出される。
前に誰もいないの何気に初めてなんだよなと思いながらパドックへ着くと今日はたくさんの人が見に来ていた。
こんなたくさんの人に注目されるとちょっと緊張するな。
ふと電光掲示板を見てみると1番リアンエテルネルの文字があり、1番の単勝オッズを見てみると1.4倍だった。
いや待て1.4倍!?100円賭けて40円しか帰ってこないじゃないか。
プレッシャーが一気にかかる。心臓がバクバクしている音が聞こえる。
なんかソワソワして小走りになる。
「珍しいなイレ込むなんて。初めてじゃないかな」
れんにちょっとびっくりされたみたいだ。
「こっち見ろよ」
そう言われてれんの方向を見る。
変顔をしていたので思わず笑ってしまった。
うん、落ち着いた。裏を返せば真面目に走れば絶対勝てるってことだ。
まあパッと見強そうな馬居ないし今までのメンツと比べたら見劣りする。よし、やったりますか。
そうして騎手がやってきた。
お、何時ぞやのやまね君じゃないか!
「よろしくお願いします!」
「こいつめっちゃ仕上げといたから返し馬期待しといて」
ニコニコとれんが言う。
任せとけ今回やる気出してやるから。
そうして返し馬になると自分でも調子がいいので軽く走るだけでもストライドがでかくなっていると思う。
「うっわぁ!すっげえなこいつ!」
少年のような笑い声と共に感想を言う。
ゆっくりと速歩に落として他馬と合流して待機する。
「お、また山根乗せて貰えたのか」
「いやぁ、山根の乗ってるやつ速いわ」
「それな返し馬ストライドデカすぎてビビったもん」
そんな会話をすれ違う騎手からされるやまね君は新馬戦の時から成長しているんだろうなと分かる。
「よし、リアン行こうか」
ゲートの裏で待機しているとファンファーレがレースの始まりを告げる。
スタンド前なので声も大きく聞こえてくる。
俺は1番最初にゲートへと収まる。
少しゴネているやつも居るがまあ問題は無い。
そうして直ぐに最後の1頭が入る。
ゲードが開くと綺麗なスタートを切る事が出来た。
ただ外の馬の方が速く俺の前に入られる。
うわっ目に砂が飛んできて見にくい。
少し怯んでしまい気がつくと最後方にいた。
「キックバック嫌がってるのか、外行くよ」
そうして見にくいながらも手綱を頼りに左前へと少しずつ進む。
そうして外に持ち出されると砂は飛んでこないので気持ちよく走れる。
前は15馬身くらい離れている。うーん届くか?
そうしてコーナーをカーブし終わると軽く肩に鞭を入れられて合図が出される。
差を詰めるためにストライドを大きくするとコーナーまでに3馬身以内の場所まで来た。
コーナーでは外を回るが多少は仕方ないな。
そうしてコーナーの途中まで差し掛かったあたりで俺の外から1頭併せてきた。
外の馬が交わしていくが顔を見ると全力そうだ。俺はまだ直線までは全力では無いので余裕を持って進められるな。
ただ前に付けられたくないから少しだけついて行く。
直線へ向くと内側の馬が少しリードをしているが、ほぼ6頭横一線だ。その中の俺は外から5番目にいる。
内から3頭目の馬が1馬身、外の馬が半馬身ほどリードをしているが合図が出されてスピードを上げる。
しかし外の馬が一杯になったのかこっち側に少しヨレてきた。
うわ、また新馬戦の時みたいに挟まれる。そう思って一気にブレーキをかける。
しかしそこまでヨレて来なかった。もう1回同じところをやまね君は通そうとするが行けない。間が怖い。
少し砂が当たるものの外へと進路を切りかえて再度ピッチを上げる。
一瞬ビキッとした痛みを前脚に感じるもここで抜かせなかったらやまね君がまた怒られちまう。そう思い一気に伸びる。
しかし外の馬に追いつきそうだったが、前の2頭には及ばず3着争いでゴールした。
ダメだ。あの間に行けない…新馬戦がフラッシュバックする。
「…ごめん、俺の進路が悪かった」
やまね君の落ち込んだ声が聞こえる。
そうして少しして速歩に落とす。
「…待てお前脚どうした!?」
アドレナリンが切れたのか前脚に痛みが出てきた。やばい超痛い。
急いで止めてやまね君が降りて泣きそうな顔で俺を見つめる。
「こんな頑張ってくれたのに本当にごめん」
痛いけどいいんだ。突っ込めず勝ちきれない俺が悪いんだ。
ちょっと長くなりました。
世話してた馬2頭今まで予後不良になりましたが、その度に馬の仕事辞めたいと思ってました。




