二歳未勝利
二戦目の未勝利戦の日となった。体は軽いし疲れもないからいいかもな。
ただ今回はレースが早いので輸送の時間も早い。起こされてから今までそこそこ眠たい。
近いからそんなに寝れなそうだしなぁ。
そんなことを考えていながら脚に輸送用のバンテージを巻く。
「よっしゃ、行こか」その合図で馬房の扉が開けられて馬運車へと向かう。
レンも今日は気合入ってるな。ずっと鼻息が荒いぞ。
そうして最後に俺が積み込まれたようで発車を今か今かと待っている先輩馬をうるさいなと思いながら発車をする。
いつの間にか寝ていた。
目が覚めるともう目の前にレンが居た。
うーん、毎回のことだけど輸送はワープしてる気分だよ。
「お前レースの日なのに緊張感無さすぎだろ…まあそのくらいがいいのかもなぁ」
「はあ、今日もまだまだ暑いなぁ」
確かにもう10月も近いのにこんなに暑いのか。
そうして俺のレースは2レース目なので少しの間休憩をとって装鞍所へ行く。
今日は1番最後だったようだ。
そうしていつも通りゼッケンを付けて、鞍を乗せる。腹帯を締めるのももうだいぶ慣れちゃったなぁ。最初あんなに嫌だったのに。
今日のゼッケンは14番で1番外のようだ。
馬装は俺が大人しいからすぐに終わり他のうるさい馬を見ながらまったりする時間が沢山あった。
「今日は前より相手関係も楽になるしチャンスあると思うんだよね。前走タイムオーバーでお前が5番人気の15倍ってのがその裏付けだよな」
なら簡単に勝てそうだしやまね君も怒られることは無さそうだな。
時間になりパドックへと向かうと前よりもたくさんの人が居た。てか競馬場がでけえなここ。
普通にいつも通り歩いていると前の馬が凄い元気で後ろ蹴りが飛んできそうになる。
正直イラッとしたが「まあまあ」とレンに窘められる。
よくこいつ俺がイライラしてるの分かるよな。そんなに態度で出してるつもりないんだけど。
「耳と目が前の馬を殺す勢いだよ。良くないぞ」
あーなるほどね。耳とか目を見て判断してるんだな。
その後は特にアクシデントも無く無事に周回を終えて程よく気合いが乗ってきた。
騎手は今回もやまね君かと思いきや全く知らないおっさんがこっちに向かってきた。
誰だこいつ顔見た事もないんだけど…
「蓮くん、よろしく。いい馬そうだし山根の代わりに頑張るよ」
「高崎さんよろしくお願いしますね。気合い乗っていい感じなので」
たかさき…全く聞いたこともない。
そしてたかさきが乗ると早々と馬場へと返し馬へ向かう。
地下馬道は馬が暴れるので早めに馬場へと向かう。
返し馬をすると体の軽さに驚く。自分でわかるくらい調子いいみたいだ。
そうして返し馬を抜群の動きで終えた俺は暑いので日陰で休むことにした。
「ほえーなるほどね。こりゃ頭いいわけだわ」
そりゃ俺は言葉わかるし他の馬よりは頭いいだろうよ。
そうしてゲート入りの時間が近づいてきてゲート裏へと他馬と一緒に移動する。
「高崎さんのそいつ噂の3F32.4ですよね」
笑いながら話しかけてきたのは、4番のカタルシスエールに乗るいかにもノリノリな感じの若手だ。
「ん?松島か。いい感じだわこいつ。お前の1番人気のやつ負かしちゃうわ」
まつしまってやつが乗るこいつ1番人気なのか。インペリアルロードよりもちっこくて覇気が無いな。
「そうはいかないですよ、こいつも来春には俺と皐月賞走るはずなんで!」
「まあ後相手になりそうなのは8番のノンサブタイトルくらいだからマッチレースになるかな」
「いやもう僕の馬3馬身で勝つの見えてるんで!」
「お、言うな。見とけよ」
こいつら仲良いな。
そうしてゲート裏に付くと一気に真面目になる。職人の顔になるのは流石だわ。
すぐにファンファーレが鳴りゲート入りが始まる。俺は大外枠なので1番最後にゲートへと入る。
一瞬の静寂の後ゲートが開く。
今回は特に邪魔もされずいいスタートが切れた。
出遅れた馬は居ないようで横一線の綺麗なスタートになった。
「ほー」
声をかけられてゆっくりと馬群の中団に付くくらいにスピードを抑える。
前に行ったのは俺の横の13番だ。俺から15馬身くらいだろうか。かなり大きなリードをとって1頭逃げていく。
ただ、たかさきが気にしていないのは恐らく右斜め前にいるカタルシスエールを見ながら進めたいと言う気持ちがあるからだろう。
そうしていよいよ3コーナーに入るとうちにいる各馬続々とポジションを上げていく。
俺はまだゴーサインが出ないので溜めている。
13番のリードが詰まってきて4コーナーに差しかかるところでゴーサインが出た。
大外からコーナーでじわじわと捲っていく。
あれだけあった13番との差もコーナー出口では3馬身ほどになっていた。一気に交わして先頭に立って残り300mを切る。
たかさきは勝ちを確信したのか追うのを辞めて馬なりになった。
そのまま俺も全力の1歩手前のペースを維持して走る。
うん。内に居たカタルシスエールも伸びがないからこれは間違いなく勝ったな。
そうして残り100mカタルシスエールばかり見ていたからだろうか。外から1頭来ていることに気が付かなかった。
外からノンサブタイトルがいつの間にか馬体を併せる所までやってきていた。
急いでたかさきも追い直す。
しかし1回切ったエンジンをもう一度かけるのは少し時間がかかった。
半馬身抜け出されて残り50mエンジンがかかりもう一度伸びる。
最後は全く並んでゴールを切った。
「あかん、やってもうた。横宮に気が付かんかったわ」
「高崎さんー、俺の馬ももっとマークしてくれないと」
このノンサブタイトルに乗ってるやつインペリアルロードの新馬戦の後話しかけてきたイケメンじゃねえかよ。
そうして写真判定の結果を帰りながらビジョンを見て待つ。
見事にハナ差で負けていた。そして5馬身離れた3着がカタルシスエールだった。
私の乗っていた馬が怠慢騎乗で負けた時はめちゃくちゃイライラしたのを思い出しながら書きました。




