まだまだマダム
玄関から中へ入ると
昼間なのに薄暗い。
長い廊下があり部屋のドアが
幾つか見える。
下宿か何かしていたような作りで
昔は賑わっていたんじゃないか。
小松がそんな事を考えていると
ピチョーンと響く水滴の音がした。
幾つか蛇口の付いた
共同の流しが見える。
その先は真っ暗で
壁に染み付いた黒い染みが
人の形に見えなくもない。
黒い染みと言うよりは
乾いた血のドス黒さのような
その影。
「ギャーッ!!」
次の瞬間小松が悲鳴をあげて
転がるように玄関から
飛び出して逃げて行った。
「昼間見ても不気味だなぁ。」
凛はちょっと距離感を取って
部屋に入ろうとする。
「あ、そうだ。」
振り向くとポケットから
ゴソゴソと何か取り出して
流しの端へ置いた。
「はいチョコチップメロンパン」
そう言って供えると
落ちていたチョコチップメロンパンの
袋を拾って部屋へ入った。
転がるようにして
マダムの店に戻った小松。
「まだっまだっマダム!
動いたっ血の影が人の形で黒くてっ・・」
「そりゃ動くだろうね。
速すぎて九十九針で捕えるのが
精一杯だったよ。ありゃ強力過ぎて
祓えないね。」
自身の戦いを思い出したのか
タバコを取り出すと火を付けてふかし
しみじみと思いに耽るマダム。
「まぁ何であんな風になったか何て
想像もしたくないね。
あんなのとやりあえる何て
アタシもまだまだ
捨てたもんじゃないね。」
ふーっと煙を吐くマダム。
小松は頭を抱えてカタカタ震えている。
「あんたも良い機会だから
全うに働きな。いつまでも
油売ってないで。」
涙目でコクコク頷く小松。