失恋に沈む
フェキリオの怨嗟の呻きのような
断末魔が低く長く響き渡り
主なき三日月城は瘴気を吹き出して
闇色の巨大な沼に沈みゆく。
その様子を足を挫いて
いち早く戦線離脱していた
この「二つの月」世界の
恐らく何人目かの自称勇者ゼムは
ワナワナと震えながら移動する家の
窓から眺めていた。
「畏怖その者の存在だった
悪魔軍を束ねる長、フェキリオが
失恋に沈むとはっ・・」
そこへヒョイと顔を出すアキラが
誰に言うでなく独りごちる。
「おまけに自称勇者は
足を挫いただけで何の
活躍も見せないとは。」
ふふんと蔑みの目線を送る。
「何だとっ!
お前は見た目こそ老けているが
私より年下ではないかっ。
せめて敬えっ目上の者をっ。」
じたばたと歯噛みする勇者ゼム。
窓の外ではカエル頭の兵士がスイ~ッと
闇沼を背泳ぎしている。
猪顔の兵士はフゴフゴと
四肢を動かしその横へ続く。
闇沼に浮かぶ馬車には
リザーノとフリディア姫が乗っていた。
「いや~宜しゅうございました。
ワタクシが通りかからねば
フリディア様は闇沼に飲まれて
いる所でしたっ。
いえね、キラキラした宝飾の靴が
見えたものですからせめて形見にと
引っ張りましたら、
まさか本体がいらっしゃるとはっ・・」
リザーノの顔に扇子がぶち当たり
ひっくり返る。
ドロドロに汚れた髪を
忌々しそうに拭うフリディア姫は
起き上がろうとしたリザーノ目掛けて
靴を投げ付けるのだった。




