湯煙の向こう側
小松ちゃんが共用の流し台で
ごぼうを洗っているが
血塗られの壁の染みに
「ぎゃっ」とか「うわっ」っと怯え
ごぼうを放り出しては
頭を抱えて縮こまっている。
凛は砂だらけの玉を
風呂場へ案内する。
「ん。」
玉は小さな手を出して
凛に連れられてトテトテ歩いていく。
後ろからマダムとアキラも付いてくる。
「相変わらずのいわく付き物件
だね。中身が広すぎておかしな造りだよ。」
マダムが呟く。
長い廊下にぼうっと灯る
鈍いオレンジ色のホラーな明かり。
「外があんなだから安心するけど
あんたの見立てではこの家は
一体何なんだい?」
マダムがアキラに尋ねる。
「さぁ俺にも何とも・・
此れだけの規模で怪奇現象とは
皆目見当も付きません。」
アキラが頭を振ると
マダムもやれやれと両手を上げた。
「着いたよ。」
凛がカラカラと引戸を開けると
かぽーんと銭湯クラスの風呂場がある。
誰も居ないのにかぽーんと
音がする所が普通の人間なら
胃がキュッとなることだろう。
風呂場は広く暗くじめじめしていて
何故か濁り湯で湯船の底が見えず
ぼんやりした風呂場の灯りが
湯煙の向こうにありもしない
人の気配を感じさせる。
洗い場が並ぶ一角には
凛が使っている
シャンプーや石鹸が置いてある。
「凛あんた1人で毎日風呂に
入っているのかい?」
マダムが怪訝そうに尋ねる。
「入ってるよ?
気持ちいいよ~広くて。」
ニコニコしながら
湯加減を見る凛。
「何だかもうこの家は
あんたの為にあるんじゃないかと
思えてきたよ。」
マダムとアキラは一先ず
風呂場から出て行き
凛はバンザイする玉の
上着を取って入浴の準備を始めた。




