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目覚め
微睡みの中でふと目を開けた。
あぁまただ、またあの夢だ。
薄暗い部屋の輪郭が月明かりに朧気に浮かぶ。
古いカーテンが風もないのに
ゆらりと動く。
凛は埋もれる様に座っていた
ソファーから気だるげに
立ち上がるとカーテンを摘まんだ。
「動いてるんだよねぇやっぱり」
オレンジに染まる夕陽の草原を
ゆっくりと窓の外の景色が移動している。
その先に見える赤く染まる岩肌を
凛は見るでなく眺めていた。
凛は18歳になるが
子供の頃から夢の中で
「これは夢だ」と認識出来ていた。
夢じゃなかったらどうしようと
思いながら並べてあるパンを
頬張ったり、崖からダイブしてみたりした。
大丈夫夢だった。
パンは味がしないし
崖から落ちた時は
内蔵がスーッっとなって
頬に地面の砂利が当たるのを
感じたが何ともなかった。
夢なので。