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五話

「できません! アリスはそんなことしたくないです!」

金髪の少女は、もう中身がとっくになくなっているであろうジュースのストローをくわえて、抵抗する。

「すぐ終わるから! ちょっと衣装を着て踊るだけよ!」

「いやですううう! アリスがみゅーじっくびびびをやってる間に白うさぎがまたどっかに行っちゃいます!」

「大丈夫よ。彼もずっといるから! ね!」

僕は山下に作り笑いで念押しされ、思わず縮こまって首を縦に振る。

「ほんとですか〜?」

少女は腰に手首を当てて、僕の顔少ししたから覗きこむ。彼女のほうが少しだけ背は小さいのだ。

「あ、ああ」

「今度逃げたら、本当にウサギパイですからね!」

「はいはい」

僕は雑に了承する。

「遠くから見張ってますからね!」

「わかったっての」

「約束です!」

少女は僕に小指を差し出す。そんな照れ臭い約束できるかと思い、僕はそっぽを向く。

「やだよ、そんなの」

「あ〜! やっぱり逃げる気じゃないですか!」

少女は目をきつねのようにして怒る。

「ちょっと、それくらいしてあげてよ」

山下が僕に肩をぶつけて催促する。

「う……」

とりあえず警察に連れて行くのはやめてほしいとの約束のもと、少女がもとに戻るまでしばらく同行すると山下と約束していた。怪しまれたものの、山下は深追いしなかった。それはひとまず安心ではあったのだが、一方で山下が現れたことで問題も発生していた。

少女が機嫌を損ねて僕がどこにいってもいい、うさぎを追うのはやめだと言われれば、すぐにでも通報されかねない。そういう意味で、僕は少女の気を悪くさせるわけにはいかなかった。さっきまでは追い払おうとしていたのに。まあ、僕も記憶を取り戻す必要はあるから、仕方ないことではあるのだけれど。

「はやく小指を出してください!」

少女がさらにぐいと指を突き出してくる。

「わかったよ」

僕は彼女の小指を、自分の小指で突く。すると、少女は指をからめて、へへへと笑った。


「これが今日の衣装よ!」

そこにはまさに不思議の国のアリスが着ていそうな服があった。

「ほあ〜!」

少女は嬉しそうに顔を輝かせる。

「これを着ていいんですか?!」

「そうよ! それを着てニコニコしてればこの仕事は大成功! ね、わかりやすいでしょう?!」

「わかりやすいです!」


少女がカーテンの奥でスタッフに着替えさせられるのを山下と待つ。

「じゃ〜ん! どうですか!」

「いいわね! 似合ってるわ! それじゃ、スタジオへ……!」

「待ってください!」

「どうしたの?」

「白うさぎの衣装はどこですか?」



「そんなものないわよ!」

「そんなもの着ねえよ」

山下はまた少女の気が変わりそうなのに焦って、僕は当然といった様子でそう言った。

「これを着るなら白うさぎも何か着なきゃダメです! 白うさぎはタキシードとかそういうのを着ているものです! さっきからみすぼらしいTシャツしか着てないです!」

僕の脳の血管がこわばるのを感じる。しかし、砂浜で寝そべっていた僕の服は確かに薄汚れていた。こんなちんちくりんに反論できないのが悔しい。

そのとき、さっき少女を着替えさせていたスタッフが山下に声をかける。

「ありますよ。タキシード」

「あるの?!」

「ええ、モブ用に何着か集めてあったんで」

少女がごねるのをみて、山下とスタッフが僕の方を見る。

「すぐよ! タキシードをきれば気が済むんだから、撮影が終わるまで着てるだけ! 頼むわよ!」

山下の発言に、スタッフもうんうんとうなずく。

僕は靴のつま先を眺めながらため息をつく。そして顔を上げた。


「誰の服がみすぼらしいって?」

僕はタキシードを受け取った。


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