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一話


「やっばい学校! 遅刻する!」


僕は慌てて体を起き上がらせる。急いで布団を取り払おうとするが、布団がない。

あたりを見渡して、呆然とする。そこは海辺の砂浜だった。


「ぐう」

隣から聞こえてきたイビキにハッとして横を見ると、そこには僕に顔を向けて寝ている少女がいた。金髪の髪を腰の辺りまで伸ばし、カチューシャで前髪をまとめている。


頭の整理が追いつかない。

少女はぐるりと反対側に寝返りを打つ。

「っぺっぺ」


口に砂が入ったのか、寝ながら吐き出そうとしている。

「んん」


少女は起き上がると、ぼけーっと周りを見渡す。そして僕の顔を見ると、大声で言い放った。

「ああ! やっと見つけた、白うさぎ!」


「はあ?」




少女はアリスと名乗った。

「だからアリスは、アリスですよ! 間違ってこの世界に迷い込んじゃったんです! これも白うさぎくんのせいですからね! 私の気を引くみたいに走っていっては、ここまで連れてきちゃったんですから!」


「何回も言ってるけど、僕は白うさぎでもなければ黒うさぎでもないってば」

「じゃあ何うさぎなんですか!」

「人間だよ」

「人間うさぎなんて聞いたことないです!」

「いかれてんのか?」


はっきり言ってその子はちょっと頭が変だった。言ってることはさっきからめちゃくちゃで僕のことをうさぎだと言い張る。どこからきたのかと聞いてもアリスの家、としか言わない。

しかし、僕にも問題はあった。

僕自身、自分の名前、住所、なぜここにいるのか、何も思い出せないのだ。


「アリスはお腹が空きました! 何か食べに行きましょう!」

自由人め。でも僕もお腹が空いていた。かといってポケットには財布もなければ携帯もない。ポケットには飴玉が一個あるだけだった。

「あ! キャンディーですね! ください!」

僕は飴玉の封を開けて口に含むと、状況を整理することにした。整理するほど内容はないけれど。


僕も彼女も、世の中を生きていく最低限の知識や今着る衣服こそあるものの、他には何も持っていない。記憶も、お金も。

現状は壊滅的だけど、とにかく前に進まねばならない。


僕は飴玉をくれなかったことを怒ってキイキイ喚いている少女の手を引っ張り、人を探すことにした。



海浜を離れてしばらく歩いても、家屋の一つも見当たらなかった。あるのは寂れた建物が数軒。しかしどれも現在使われている様子はなかった。


「あ! バス停です!」

「君、別の世界から来たんじゃなかったの」

「アリスの国にもバス停くらいあります! バカにしないでください!」

「そういうことじゃなくて、世界観の話なんだけどなあ……」

「白うさぎくんは小うるさいですね」


バス停の時刻表を見ると、思ったよりバスの立ち寄る頻度は高かった。

「とにかく待ってみるとするか」

「あの、一人言みたいにつぶやくのやめてください。アリスもいるんですけど」


一時間ほど経っただろうか。バスは一向に現れなかった。

「アリス……喉がかわいて死にそうです……」

「うるさいな、それくらいわかってるよ……」

「あたり強くないですか?!」

おそらく今は夏。バス停は一本ポールが立っているだけの安っぽいもので、ベンチも屋根もない。風のない中日差しは強く、本当に熱中症で倒れてもおかしくない。

「あー飲み物……飲み物が欲しいです……」

「そこの木から蝉の鳴き声が聞こえるからとってくれば」

「蝉の体液を吸えと?!」

「うん」

「それならすぐ横にもっと大きい生き物がいるので、そっちをまずはしめ殺してから……」

「やめろ、ばか!」


少女が僕の首に手を回したとき、エンジン音が道の奥から聞こえてきた。


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