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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハイファンタジー(ライト)

お師匠様、スキルはこう使うのですよ〜未来から来たデレデレの美人弟子によって【神の眼】を覚醒した付与術師、過去も未来も見えるので全魔法を覚えて最強を超えました〜

作者: 筆塚スバル

「付与術師は不要術師」


 野営テントに勇者の軽口が響く。


「ちょっとやめなさいよ」


 聖女が笑いながらたしなめた。


「あはは。

 お前たちには負けるかもしれないけどさ、そんなこと言わないでくれよ。

 オレだってできることを頑張ってるんだから」


 勇者たちのいじりに対し、オレは努めて明るく言い返した。


 ――イリアド王国、王立魔導学院を首席卒業した勇者エレン。

 同じく2位の聖女ミリア、3位の炎魔術師リーンに加え、オレこと付与術師アスベル。

  

 この4名が、今世間を騒がせている勇者パーティーだ。

 何たって、魔王軍の幹部のうち、一人を倒して見せたのだから。


 王立魔導学院の生徒たちは、パーティーを組んで卒業していくことがほとんどだ。


 首席のエレンがオレをパーティーに招待したことは、魔導学院中の話題になった。


「オレなんかでいいのか?」


 エレンは力強くうなずいた。


「俺が斬り、リーンが魔法を放ち、ミリアが回復する。

 その上でオレらがもう一つ上へ行くためにはよ。

 アスベル。

 おめえの力が必要なんだよ」


 エレンからパーティーに招待された時、オレはエレンに感動していた。


 卒業間際になってもオレにはだれからも声がかからず、冒険者になる道が閉ざされると思い、不安な毎日を送っていたからだ。


 それに、オレが持っている特性スキルはおよそ戦闘向きじゃない。

 付与術師という珍しい適性を持つが、筋力も魔力も人並み以下でおよそ戦闘には向かないことから、オレは落ちこぼれだと噂されていた。

 

 そんなオレを評価してくれたエレンや仲間のために、ありとあらゆる魔道具を作りまくった。

 

 溶岩洞窟攻略のための火炎無効のローブ。

 筋力、防御を高めてくれる精霊銀の剣。

 魔力を高めてくれる輝星石のロッド……などなど。

 

 初めはみんなとても喜んでくれていたんだ。

 ところが……


「おい、アスベル。

 お前、戦闘中暇そうだな。

 罠とか宝箱の解除もこれからお前の仕事でいいよな?」

「……うん。

 オレは直接戦ってないから、ちょっと余裕があるから」

「頼んだぜ、アスベル」

「……うん、頑張るよ」


 仲間に認められたくて、苦手な剣や攻撃魔法以外のことは、なるべく自ら進んでやってきた。

 罠や宝箱の解除、ステータス支援魔法、移動呪文や寝るときの結界呪文。

 はたまたテントの設営や水汲み、料理、洗濯に至るまで、オレはとことん頑張ってきたつもりだ。


 ――はあ、今日も疲れたな。

 テントの設営や夕食の準備でへとへとに疲れて横になっているとき、みんなはまだ酒盛りをしていた。

 明日も朝ご飯を作らなきゃならないからオレは早めに寝るけど。

 まどろみの中、エレンたちの話し声が聞こえてきた。


「エレン。

 そろそろ装備も整って来たわよね」

「そうだな、ミリア。

 オレ達も最強に近づいて来たってわけか」

「ねえ、アスベルが隠してるスキルって何なんでしょう?」

「さあね、でもきっと、とんでもない弱いスキルなんじゃない?」


その後もくすくす笑いながら何やら話していたようだが、オレは疲れにのみ込まれ眠ってしまった。


 zzzzz


「おい、起きろ。

 王の御前だぞ」


 オレが目を覚ました時には、エレンに押さえつけられていた。


「おい、何をするんだよ。

 え?

 王様の前じゃないか」


 大広間に大臣や、騎士たちがずらり。

 どうやらオレは眠ったまま、王様の城まで連れてこられたらしい。


「エレンよ。

 この度の魔王軍幹部『魔人マキャベリ』の討伐、ご苦労であった。

 今宵は皆を祝うべく、そなたらの家族も呼んで盛大に宴を行う。

 良いな?」

「ははー、ありがたきお言葉」


 王の言葉にエレンたちはひざまずき深々と礼をした。


「ところで、王様。

 アスベルが隠してきたスキルが分かりました。

 な、アスベル」


 エレンはにやにやしており、ミリアとリーンはゴブリンでも見るような表情でオレをにらんでいた。


「ほう、役に立つ特性スキルなのだろうな。

 勇者エレンの(魔法剣)をはじめ、そなたたちは特性スキルも優秀だからな」

「いや、それは……」


 オレはとある理由から特性スキルを人に明かしていない。

 オレのステータスや特性スキルを記した青い石板はカバンの奥深くにしまってあるんだ。

 

 それにも関わらず、エレンは青い石板を持ってニヤニヤしていた。

 俺のカバンをあさったのか!


「オレの石板を返せ!」

「嫌だね」


 口の端を歪め、とても楽しそうにエレンは石板を読み上げた。


「アスベル・アシュフォード。

 職業:付与術師

 特性:透視

 ものごとを透かして見ることが出来る。

 くはははは、お前エロイな、弱いし」


 エレンは大笑いしていた。


「戦うためのスキルじゃなくて、エロイためのスキルかよ、だっせえ」

「ち、違う!

 宝箱の中身見たりできるんだよ、【透視】はそんな悪いスキルじゃないってば」


 オレは慌てて弁解をした。

 このままじゃ変態ヤローだと思われてしまう。


「アスベル。

 じゃあ、アナタに聞くんだけど……私のおっぱい見たことないのね」


 ゆっさゆっさと、ミリアはその体を揺らした。

 ミリアはその体に二つとんでもない武器を持っているのだ。


「……あ……」


 オレはついうっかりミリアを透視してしまい、鼻血を出した。

 ミリアが体を震わすたびに白い肌がポヨンポヨンと……

 見、見ちゃだめだ……

 【透視】は集中して見てしまうと、発動してしまう。

 だから……動かすなってば!


「サイテー!」


 リーンが甲高い声を上げ、オレを非難する。


「違う、違う。

 見たくて見たんじゃない、意識がいくとそうなっちゃうときがあるだけだ、わざとじゃない!」


 ミリアが冷たい目でオレを見下してきた。

 袖で鼻血をぬぐっていると、リーンがにらみながら胸を隠した。


「私の胸も見るんですね!」

「お前のはただのまな板じゃねえか!」


 思わず突っ込んでしまうほど、リーンはすとんとした子ども体型だ。


「キィイイイ!

 やっぱり見たんですね!」

「お前がまな板なのは見なくてもわかるってば!」

「……オレのパーティーにさ」


 エレンが苦々しくつぶやいた。


「エロイ奴なんていらないんだよ」

「そ、そんな……」


 みんなの視線がオレに突き刺さった。

 

「追放だよ、このエロ変態ヤロー」


 エレンはそう吐き捨てた。


「うむむ、変態ならば追放もやむを得ないな」


 王様も追放に同意しているようだ。

 

「オレは変態じゃないですってば!」

「やれ、ミリア」

「あはん」


 ミリアがオレの目の前に来て縄跳びをすると、たぷんたぷんした。

 どっから縄跳びの縄を出してきたんだ!

 当然、透視が発動してしまい、オレは鼻血を出す。


「アスベル。

 お主……やはり変態ではないか!」


 王様は叫んだ。

 その場にいる皆の眼が冷たかった。


「ちょ、ちょっと待てよ。

 オレがいないと魔導具手に入らないんだぞ!

 メンテナンスだって必要だし……」

「もう装備は十分作ってくれましたからね。

 アスベル、あなたの役目は終わりです」


 リーンは冷たく言い放った。


「そもそもお前は、おまけだったんだよ。

 罠解除担当に連れて来たんだ。

 オレやミリア、リーンが罠なんかで死んだら、この国の損失だろ?

 だから、お前に罠担当をさせてたんだよ。

 いつ死んでもいいお前をな」

「そ、そんな……オレは仲間だと思ってお前たちのために必死に武器や防具を……」


 オレだけが仲間だと思ってたのか。

 膝から崩れ落ちてしまった。


「アスベル。

 私は鬼ではない。

 お前はこれから追放されるが、今日だけは妹と美味しいものを食べておけ、思い出にな」


 王様はうなずいていた。

 寛大な自分とでも思い、酔っているのだろう。


「妹だと……まさかカノンが来てるのか?」


 衛兵に押し出され、カノンが王の前に連れてこられた。


「……お兄ちゃん?

 どうして、お兄ちゃんが押さえつけられてるの?」


 カノンは状況におびえていた。


「聞きたい?」


 ミリアが体をくねらせながらカノンに近づいてくる。


「やめろ、やめるんだ!」

「フフ。

 可愛らしい子ね。

 いまから、お兄ちゃんが何をしてきたか教えてあげる」

「やめろー!」


 くすくす笑いながら、ミリアはカノンに耳打ちをした。


「やめろ、やめてくれ!

 妹にだけは嫌われたくないんだ!」


 暴れ出すオレをエレンが床に叩きつけた。


「ぐは……うう……カノン。

 カノン……やめてくれ」

「うるせえ、変態が」


 カノンはミリアに耳打ちをされ、顔が赤くなり、青くなった後、体をぷるぷると震わせていた。


「お兄ちゃん、変態だったの?

 ミリアさんのを見て、夜な夜な……」


 カノンは顔を赤らめていた。


「てめえ!ミリア!

 お前、オレの可愛いカノンに何を言ったんだッ!」


 オレは涙目で絶叫した。


「ミリアさんのおっぱい、見たの?

 お兄ちゃん、正直に言って」

「うう……」


 もしかしたら言い逃れだってできたのかもしれない。

 でも、カノンは正直な子に育ってほしい。

 オレはカノンの前で嘘はつきたくなかった。


「……見た。

 わざとじゃないんだ」

「そう……お兄ちゃんは大きいのが好きなの?」

「……好きだ」


 嘘はつきたくないから。


「そう……私、頑張るね」


 カノンは涙を流しながら、天使のように笑った。


「何を言ってるんだカノン!

 何を頑張るんだ!」


 そう言い終わると、カノンは口からカニのように泡を吹いて倒れた。


「カノン!」

「お兄ちゃんが変態なのがショックすぎたようね」


 ミリアが手をかざすと、カノンの痙攣(けいれん)が収まった。

 回復魔法を使ったのだろう。


「お前ら、いたいけな妹の心を踏みにじりやがって!

 許さない!

 許さないぞ、絶対復讐してやるからなあ!」


 力の限り叫びまくり、あばれようとしたが……


「アスベル、おやすみなさい。

 目が覚めた時にはあなたは仲間なんかじゃないですけれど」

「リーン、お前、何を……し……た……」


 睡眠魔法をかけられたようで、強烈な眠気がオレを襲った。

 まどろみの中、エレンは冷たい目をしてオレを見下していた。


 ★☆


 馬車で王城から離れた森へ連れられ、そこで乱暴に放り投げられて、目を覚ました。

 

 怒りでどうにかなりそうだったが、夜の森をうろつくのは危険だ。

 岩陰に隠れて暖をとることにする。


 くそ、エレンたちめ。

 全員ぶちのめしてやりたいが、ひとりで立ち向かってみても付与術師のオレに手に負えるものでもない。

 

 だが、このまま泣き寝入りするなどできるものか。


 怒りを煮えたぎらせながら焚火を眺めていると、急に目の前の地面が光りだした。


「何だ?」


 光る地面に魔法陣が瞬く間に展開されてゆく。


「見たことない魔法陣だ、だが綺麗だ。

 無駄のない緻密(ちみつ)な模様……」


 自動筆記される魔法陣の鮮やかな手際に見とれていると、光の中から真銀の甲冑をまとった騎士が現れた。


「て、転送魔法陣!」


 まさか、お目にかかれるとは。

 秘匿呪文中の秘匿呪文で、文献の中でしか見たことがない。

 この世に使える人物がいたとは……


「お師匠様!」


 騎士が兜を取る。

 金色の髪を腰まで伸ばした(あお)い目の美人が、満面の笑みを浮かべていた。


「イリアド王国から追放されたところですね」

「なぜ知ってる?

 ていうか誰?

 それにお師匠様って何?」


 オレの知り合いではないが、この美人はどうやらオレのことを知っているらしい。


「ふふふ、混乱しておられるのですね。

 お師匠様の混乱するところなんてめったにお目にかかれませんけど」

「だから、さっきから何のことだか……」


 美人騎士はオレの手を取って両手で握りしめた。


「え……ちょっと……」


 いや、こんな美人が手を握って見つめてきたらドギマギしてもしょうがないよね?


「百聞は一見に()かずと申します」


 敵意はないと示すかのように、美人騎士はオレに笑いかけた。

 

「お師匠様、私を【見て】ください」

「【見て】って……【透視】を使えってことか?」


 美人騎士はうなずいた。


「でも……」


 この美人騎士の身体を見てどうするって言うんだ!

 ……いや、めちゃくちゃ嬉しいけどさ。


「身体ではなく、全てを【見て】ください。

 【透視】スキルはお師匠様を助けてくれます。

 さあ、(だま)されたと思って、全力で私を【見て】ください」

「わかったよ、透視されて後悔するなよ!」

「お願いします!

 頑張って、お師匠様!」


 応援されると、力って出るもんだな。

 全身の魔力を眼に集中、視界を美人騎士のみに限定する。


「なあ、名前は?」

「失礼しました。

 名乗ってませんでしたね。

 私は、ミアと申します」

「名前を呼ばないと、気分が出ないからな」


 深呼吸をして、スキルを発動させる。


「行くぞ、ミア。

 お前のすべてを見せろ!」


 全魔力が放出され、オレはミアの身体ではなく、その存在をとらえた。

 ミアが見てきたものすべてが、オレの中に流し込まれていく。

 情報が滝のように押し寄せ、オレの脳内がそれを整理してゆく。

 

 いわば、ミアの歴史とでもいう映像をオレは見ていた。

 その歴史の一コマにオレもいた。

 

 小さかったミアに手取り足取り、魔法や剣技を教え込んでいく。

 なるほど、ミアはオレの弟子だってことか。


 とすれば、ミアは未来から来たことになる。

 空間移動どころじゃないぞ、時間移動……超レア魔術だ。

 そして、今まさに進行しているオレとの出会いも映像で見ることができた、そしてその先の未来には……なんだこれは魔物の集団?

 近いうちに魔物大行進スタンピードが起こるって言うのか?


 どうやらこの先の未来も見れそうだ。

 ってことはミアが死ぬところまで見てしまうってことだな。


「やめだ、ミア」

「はい」


 オレが目を閉じると、ミアは握った両手を離した。


「早かったですね、人の人生をすべて見るにはもう少し時間がかかるはずですが」

「途中でやめた。

 ミアは未来から来たオレの弟子らしいな」

「はい!」

「弟子が死ぬところを見たい師匠なんていないだろ」

「……ふふ、お師匠様らしいですね」


 ミアは喜んでいるのか、涙を袖で拭った。


「オレは未来も過去も、すべて見ることができるんだな」

「はい、ここにいない人も見ることができますよ」

「そうか」


 カノンは元気にしてるだろうか。

 意識がぽーんと上空へ飛んだ。

 ……カノンは王宮の医務室で寝ているようだ。


「すごいな、この場にいながら妹の様子も見れたぞ」

「ふふ、お師匠様はカノンちゃんが大好きですからね」

「まあな」

「誰でも見れるってことは、例えば秘匿魔法を使える人の過去や未来を見てその魔法を覚えることも……」

「もちろん、可能です」

「じゃあ、誰のを見るか。

 でもな、オレの知り合いで秘匿魔法を使える奴なんて……そうか、分かったぞ」


 ミアはこくりとうなずいた。


「未来のオレを見ればいいのか」


 魔力を眼に集中、意識をオレ自身に向ける。

 ただ、ミアの場合と違って呪文以外は見たくない。

 自分のすべてを知ってしまった人生なんて、つまらないに決まってるからな。


 魔力を眼に集中させ、スキルを発動。 

 未来のオレに意識を向ける。

 すると……

 とてつもない情報の洪水がオレに押し寄せてきた。

 

 あまりにも脳に負荷が掛かりすぎたのか、立ちくらみを起こした。

 こうなることがわかっていたのか、ミアが体を支えてくれた。


「すまない」

「いいんです、私はこのために未来から来たんですから。

 おやすみなさい、お師匠様」


 ミアの笑顔を見て安心したのか、すぐに意識を失った。


 ★☆


「お目覚めですか」


 まだ重たいまぶたをこすると、目の前には金髪の美女……ミアだ。


「ここはどこだ?」

「近くの街です。

 二日ほど眠ったままだと聞いておりましたのでぐっすり眠れる宿屋にご案内しました」


 よく日に当ててあるフワフワのベッド。

 部屋には紅茶のかぐわしい香りが満ちていた。


「良いところだな、ありがとう」

「ふふ、気に入ってくれたのなら嬉しいです。

 紅茶飲まれますよね、お砂糖二つ」

「ああ」


 ミアはオレの好みをよく知っているようだ。

 いつも未来のオレにそうしてるのだろう、手際よく紅茶を用意してくれた。


「温かいな、美味しいよ」

「ふふ、ありがとうございます」


 何だか変な感じだ。

 ミアとは会ったばかりだが、記憶を通じてどんなときに笑うのか、泣くのか知ってしまっている。

 そして、彼女が未来のオレに少なからず好意を持っていることも……


「二日ほどずっと寝ていらっしゃいました」

「膨大な記憶の処理に手間取ってな。

 何しろ、この世にある魔法のすべてを一日で習得したようなものだからな」


 理論的には魔法の行使の手段はすべて把握した。

 また、新しい魔法を覚えたことでより強力な魔導具のアイデアが溢れて止まらない。


「次は、実践あるのみだな」

「はい」


 オレよりもミアの方が嬉しそうなのは何なんだ。


「ミアの未来を見た時にさ、魔物大行進スタンピードが起こる未来を見た」

「ええ、王都が明日、魔物大行進スタンピードに襲われます」

「明日か……妹を、カノンを助けに行かないとな」

 

 カノンが怖い思いをしなければいいけど。

 ふと顔を上げると、ミアがオレの顔を覗き込んでいた。


「何だよ」

「いえ。

 話し方やまなざしが、昨日より大人びて見えましたので」

「そうか、自分ではわからないが……」


 人間の人格は、記憶によって形づくられていくという。

 もしかしたら、オレは記憶によって少し大人になっているのかもしれない。

 ミアを見つめると出てくるこの感情すら、オレは知らなかったのだから。


「とりあえず、魔物大行進スタンピードに巻き込まれるカノンを救出するとするか」

「お師匠様、これを」


 ミアは亜空間から、特大の赤い魔石を取り出した。


「大きいな」

「はい、火炎竜の魔石です。

 お師匠様はすべての魔法を覚えておりますが、まだ魔力量が成長しきっておりません。

 この魔石の魔力をお師匠様の魔力の代わりに使うことで、どんな魔法でも使用できるはずです」

「わかった。

 他の素材で用意してほしいものがあるんだが……」

「……お師匠様。

 なんなりとお申し付けください。

 明日への準備のお手伝い、私も全力を尽くします」

「えっと、ミアは未来のオレの弟子だからお師匠様って呼びたい気分はわかる。

 だけどさ、ちょっとまだ師匠って年じゃないからアスベルって呼んでくれないか?

 たぶんさ、オレと同じ年くらいだよね?」

「わかりました。

 これからはアスベル様ってお呼びしますね!」


 ミアはアスベル様と呼ぶのも嬉しいらしい。

 それから、ミアと一緒に魔物大行進スタンピードへ向けた魔導具などの準備をした。


 ★☆


 王城の上を怪鳥が飛び回り、魔獣の大群が城門を打ち破ろうと責め立てていた。

 衛兵たちは大盾と長槍で隊列を崩さず立ち向かっているが、魔獣たちのあまりにも強力な爪と牙の攻撃の前には一刻の猶予もないだろう。


 上空を飛びながらでも王都の状況は細かいところまでチェックできる。


「王都の状況はこんなところか。

 しかし、【透視】スキルはすごいな。

 こんなの敵の戦術が丸わかりだぞ」

「ふふふ、未来のお師匠様は【神の眼】ってよんでいました」

「【神の眼】か。

 そうだな、今後はオレもそう呼ぼう。

 さて、カノンは……王の間か。

 急ぐぞ」

「はい!」


 オレとミアは上空を飛び王の間へ。


 ミアは風魔法を使って飛翔しているが、オレは飛行可能なブーツを着用している。

 新しい風魔法を覚えたので、その技術を利用して昨日付与術で作ったものだ。


 空にもモンスターがいるし、飛びながら魔法を撃ちたいからな


「王様、城門が突破されました!」


 王の間に伝令の兵士が大慌てで駆け付けた。


「何だと、エレンたちは何をやっているのか!」

「それが……」


 ドオオオン!


「あいたたた」


 風魔法のコントロールに失敗し、王の間にエレンたちは折り重なって落下した。


「エレン、どうした?

 まさか逃げ出してきたのか?」


 王の問いにいら立ちを隠さずエレンは答えた。


「一応戦ってたけどよ、キリがねえって。

 あれだけの数、休憩もなしに戦えって言うのかよ。

 それに、オレたちが死んだら誰がアンタを城から逃がすんだよ」

「うむむ、それはそうだが……」


 ちらりと王は後ろを見た。

 カノンの他、老人や子どもなど王都の民のうち非戦闘員が王の間に避難している。

 彼らの眼があるので、自分だけ逃げだすとは言いづらいのだろう。


「ワシは逃げんよ。

 老人や女子どもを置いてワシ一人のうのうと逃げられはせんよ。

 この城は100年前の魔物大行進スタンピードも耐えて見せた。

 それに、戦えぬ者たちを夜の草原に放り出すわけにもいかん。

 魔物大行進スタンピードのモンスター以外にも、ゴブリンや狼どもも彼らを狙っておるからの」

「「王様」」


 王の心意気はその場の皆に響いた。


「そうですよ、王様!

 オレたちはまだやれます!」


 王直属の親衛隊兵士たちの槍を持つ手にも力が入った。


「なあ、エレン。

 言い伝えによると、魔物大行進スタンピードには救世主が現れると言う。

 お主の力はこんなものではないはず。

 今こそ、我らを勇気ある戦いに導いてくれ!」


 皆の眼がエレンに集まった。


「はは、何だそれ。

 オレは勝ち目のない戦いはしねえよ」

「「え?」」


 王の間は静まり返った。


「ミリア、リーン。

 とっとと風魔法で脱出するぞ」

「あ、うん」


 エレンはミリアとリーンに指示し、退却のための魔法陣を描かせた。


「エレン、この城がなくなれば戦えないものどもがモンスターどもの餌食になるのじゃぞ!」

「へえ、そうか。

 でもよ、オレたちは別に城がなくても平気なんでね。

 そこらの下級モンスターなんかにゃ負けねえよ。

 それこそ、魔物大行進スタンピードとでも戦わなけりゃよ」


 エレンはゲラゲラと笑い出した。


「この人でなし!」


 王の言葉が広間に響き渡った。


「何とでも言え。

 あ、いいこと考えた」


 エレンはつかつかと歩み寄り、王に手を差し伸べた。


「王様、オレは金が好きだからよ。

 アンタだけは逃がしてやってもいいぜ?

 風魔法で4人ぐらいは運べるからよ」

「何を言っとる!」

「強がるなって……」

「ぐぬぬぬぬ」

「良いのか、オレ達もう逃げちゃうぜ?

 4・3・2・1……」

「わ、分かった!

 エレン、ワシも逃がしてくれ!」


 王様は慌ててエレンの手を取った。


「「王様!!!」」


 裏切られたショックで衛兵や王都の民は呆然としていた。


「へへ、決まりだな」

「ねえ、何だか寒くありません?」

「たしかに」


 ミリアとリーンが体を震わせた。


「知らねえよ、ほら。

 さっさと窓でもぶっ壊して空から逃げようぜ!」


 エレンたちが窓越しに空を見上げると、巨大な龍が王の間をのぞいていた。


 グオオオオオオオオ!


「やべえ!

 氷龍だ!」


 ガシャアアアアアアン!


「「きゃあああああああ」」


 氷龍がただ叫ぶだけで窓ガラスが割れ、氷龍の身体がむき出しになった。

 王の間を悲鳴が埋め尽くす。

 身体を覆う分厚い氷に光が乱反射し、飛翔する姿は優美ですらあった。


「「あ……あ……」」


 ミリアとリーンはあまりの恐怖にへたり込んだ。

 

「おい、何やってるんだ。

 逃げるぞ。

 魔法陣書けよ」


 エレンは小声でミリアたちに話しかけた。


「今ですか?

 そう思うなら動いてみてくださいよ、ジロジロと私たちを見てますよ。

 動いた人から先に殺されますって……」 

「クソが!」


 蛇に睨まれたカエルのように、誰もが動けないでいた。

 氷龍はカノンたち王都の民をにらみつけ、大きく口を開けた。


「お兄ちゃん、助けて!」


 カノンが助けを呼んでいる。

 氷龍が氷のブレスを吐こうとした瞬間、氷龍の目の前に転移し、口の中に爆裂魔法を叩きこむ。


「これでも食らえ!」

 

 ギアアアアアアアア!


 ははは、なんとか間に合った。

 爆裂魔法で氷のブレスをはね返し、氷龍の体内に送り込んでやった。

 いくら氷龍とはいえ、生物である限り内臓を冷やされて平気なはずがない。


「カノン、助けに来たぞ」


 オレとミアは王の間に着地した。


「お兄ちゃん!」

「「ア、アスベル!」」


 王やエレンたちがオレの名を呼んだ。

 

「氷龍に今何やったんだよ!

 お前、攻撃呪文なんか使えたのか?」


 エレンがオレに駆け寄ってきた。


「ただの爆発呪文を強化して口の中にぶっ放しただけだよ。

 オレは攻撃魔法が得意じゃないけど、魔法を使えないわけじゃない。

 強化魔法を重ね掛けしてるから、十分な威力が出せたんだ。

 それにしてもさ」

「何だよ」 

「エレン。

 ずっと見てたぞ、勇者のくせにお前らダサいな」

「なッ……」


 エレンは顔を真っ赤にしているが、図星なのか言い返せないようだ。

 エレン、オレはお前に構ってる暇はないんだ。


「ちょっと集まってくれ」


 王都の民を集めて防御結界を張る。


「「これは……」」

「防御結界だ。

 氷龍のブレス程度は防いでくれる」

「「ああ……神よ」」


 王都の民は感動して涙を流していた。

 ミリアとリーンが防御結界に駆け寄ってくる。


「凄いですよ……この結界、ほとんどの魔法や武器をはね返しますよ」


 リーンは防御結界に触れ、魔力構造を解析していた。


「ねえ、エレン。

 いつ覚えたの、こんな魔法……」

「昨日だ」

「「昨日⁉」」


 ミリアたちは呆然としていた。


「カノン、しばらくいい子にしててくれ。

 お兄ちゃんが助けてやるからな」

「うん!」

「ふふ、信頼されてますね」

「まあな」


 オレとカノンの話がミアには微笑ましく映ったようだ。

 ミアはニコニコとずっと笑っていた。


 おっと、氷龍が痛がってる間しか時間の猶予はないんだからな。

 急がないと。


 空間魔法で、防御無効の刃、≪無元刀ディメンションソード≫を作り上げ、ミアに声をかける。


「オレが斬るから、適当に氷龍を剣で殴ってばらばらにしてくれ。

 ≪無元刀ディメンションソード≫で斬ると切断面が綺麗だから、そのままにしておくと再生しやすいからさ」

「了解です」


 オレが飛ぶのに合わせてミアがついて来た。

 

「しかし、悠長に痛がってやがるな氷龍の奴」

「自分が狩られる側だなんてちっとも思っていないんでしょうね」

「ははは、オレの背中の魔石でも見れば、悠長に回復を待ってられないってわかるはずだけどな」


 オレは背中に火炎竜の魔石を背負い、魔石と手足を接続している。

 魔法を使うときは、オレの魔力の代わりに、火炎竜の魔力を使用するためだ。


 さっきから強力な魔法を連発しているが、火炎竜の魔石の魔力はまだまだ尽きそうにない。

 本来、龍というのはそれほどまでに強大な存在なのだ。


 フワフワと漂うオレとミアを氷龍はちっとも気にしていなかった。

 氷龍は、身体の痛みでそれどころではないようだ。


「じゃあな、氷龍。

 恨みはないけど、死んでくれ」


 漂うように氷龍に近づき≪無元刀ディメンションソード≫を振り回すと、氷龍は呆気なく切断され、ミアによって大剣で叩かればらばらにされた。


 叫ぶこともなく氷龍の身体のかけらたちは地面に落ちた。


 ズズズズウウン。


 絶命した氷龍から巨大な魔石をくり抜くと、空間収納魔法で亜空間に放り込む。


「お見事です」


 ミアが拍手をしてくれた。


 空間収納魔法も昨日覚えたとっておきの魔法だ。

 取り扱いが難しかったが、ミアは得意らしく、昨日丁寧に教えてくれたおかげでオレも使えるようになった。

 ミアは未来のオレに教えてもらったらしいけど。

 

 なんか、変な感じだな。

 教えてもらった相手に、今度は教えることになるなんて。


「さてと、氷龍デカブツはかたづいたぞ」


 王の間に戻り、氷龍討伐の完了を報告した。


「アスベル……お前、ま、まさか氷龍を倒したのか?」

「そこから下を見ればわかるだろ」


 エレンたちと王は破壊された窓から下を覗き込み、ばらばらになった氷龍を見つけた。


「う、嘘だろ……」

「「う……あ……」」


 エレンたちは驚愕し過ぎて、腰を抜かし全身をピクピクと震わせていた。


「「アスベル様!

 ありがとうございます!」」


 王都の民と衛兵たちはオレに祈りをささげた。


「ははは、大丈夫だった?」


 注目がむず痒くて、オレは頭をかいた。

 

 でも、まだ戦闘は終わっていない。

 オレは王様に近づいた。


「なあ、王様。

 オレは王都を救いたい。

 アンタにできることは、全権をオレに預けることだけだ。

 どうする?

 アンタが条件飲めなきゃ、ここにいる非戦闘民だけ連れて帰るけど」

「……わかった。

 できれば誰も死なぬ方がいい」


 王はオレに土下座した。


「頼む、アスベル。

 この国を救ってくれ」


 すべてを捨てて自分だけ逃げようとした王だが、今の言葉には誠意がこもっていた気がする。


「わかった。

 ミア、剣を出してくれ」

「はい、アスベル様」


 ミアは大量の剣を取り出して見せた。


「これは……」


 王の親衛隊が食い入るように見ていた。


「エレンが持っているのと同じ精霊銀の剣だ。

 筋力、防御力を高めてくれる付与術がかけてある。

 城内の騎士にすべて行きわたるほど作ってきているから、配って回ってくれ。

 その時に、親衛隊から氷龍を倒したことを伝えれば、城内の士気も高まるだろ」

「わかりました!

 おい、お前ら行くぞ!」


 親衛隊が城中に剣を届けるため走り出した。


「さてと」

 

 人手が足りないから、あんな奴らでも役に立ってもらおうか。


「エレン」

「何だよ」

「ポーション配ってくれよ、魔獣と戦って疲れてるだろうけどさ。

 前線で戦ってる兵士たちは、もっと疲れてるんだよ。

 ポーションいっぱいあるからさ、それ持って前線の兵士に配って回ってくれよ」

「へ、何でオレがお前なんかのいうこと聞かなきゃならねえんだよ」


 エレンは地面に唾を吐いた。


「お前、立場をわかってるのか?」

「何が言いてえんだよ」


 ≪土くれの抱擁アースホールド


 土魔法でエレンの手足を土の塊で固定、逃げられないように縛り上げた。


「くっ……アスベル、何をしやがる!」

「勇者のお前が王都の危機に敵前逃亡だぞ!

 首をはねられても仕方がないんだ。

 ごちゃごちゃ言ってる暇があったら、少しは役に立てよ。

 このゴミクズ野郎が!」

「ち……ちくしょう……」


 さて、前線の様子を【神の眼】で見てみるか。

 危なくなってなければいいけど……


「オラア!」

「せいやッ!」


 前線には剣が行きわたったらしく、騎士たちは魔獣たちをスパスパと切り裂いていた。


「何だこれ、剣が軽い?」

「いや違う、オレたちの筋力が強くなってるんだ!

 だって、オークやオーガたちを簡単にスパスパ斬り倒してるんだぜ?」

「なあ」

「何だ?」


 兵士たちが戦いながら話をしていた。

 

「この剣、精霊銀の剣だっけ……すごいよな」

「そうだな、負ける気がしない」

「これさ、アスベルって付与術師が作ったってさ」

「それでさ、この剣、勇者エレンが持ってる剣と全く同じなんだってよ」

「え?」

「エレンって強いって思ってたけどさ、こんな剣持ってりゃそりゃだれでも強いって話だよ」

「じゃあさ、エレンが強いんじゃなくてさ。

 本当にすごいのって、もしかしてアスベルってヤツなんじゃない?」

「聞いた話なんだけどさ、氷龍もアスベルってやつが倒したってよ」

「じゃあ、救世主じゃん」

「それでさ、聞いた話なんだけどよ、エレン前線放棄して逃げようとしたってさ」

「エレンってマジでゴミクズじゃん」


 そんな噂をしながら、兵士たちは持ち場を放棄せず魔獣との戦いへ明け暮れた。


 ……夜が明けた。

 氷龍はじめ、魔物大行進スタンピードで王都を襲った魔物たちはすべて片付いた。

 城門近くの広場へ衛兵や王都の民たちが集められた。


「皆のもの聞いてくれ!」


 思い立ったように王は皆に語り掛けた。


「この街を魔物大行進スタンピードから守ってくれた。

 皆の働きに感謝する」


 皆は拍手を送った。


「そして、皆も気づいているだろう。

 氷龍を倒し、皆に強力な武器を渡してくれたこの国の救世主とはだれなのか」


 皆がうなずき、オレに注目が集まった。


「付与術師、アスベル・アッシュフォード。

 イリアド王国に現れた英雄に大きな拍手を!」

 

 王都中に響き渡りそうな拍手と歓声が鳴りやまない。


 オレとミアは顔を見合わせて笑った。

 ほんの数日前にオレはこの国から追放されたって言うのにな。


「ワシは、氷龍が怖くて逃げ出そうとした。

 勇者エレンもそうじゃ。

 ワシはこの国の防衛体制の見直しが必要だと思っとる」


 王は真剣なまなざしをしていた。


「なあ、アスベル。

 この国の最高軍事顧問になってくれんか?」


 身分制の強く残るこの国で、オレが認められるって言うのか。

 ……オレは目をつぶり、王都で軍事顧問になった自分の未来をのぞき見た。

 ああ、こりゃダメだ。

 この国の上層部は腐りきってやがる。

 ここで了承して国のために頑張ったとしても、未来では生意気だと言われ、暗殺されかけて結局オレは追放されるらしい。


「断るよ」

「なぜだ、アスベル。

 追放したことは謝るから、この通りだ」


 王は土下座をした。


「この国で平民のオレの提案がすんなり通るとは思えない。

 今は英雄だとはやし立てられたとしても、平民の癖に生意気だと、そうやって叩かれるに決まってる。

 そこを我慢してまで、オレはこの国に尽くす義理はない、腐った政治ゲームに付き合わされるなんてまっぴらごめんだ」


 皆、意気消沈しているようだ。


「一年後、満月の日にまた魔物大行進スタンピードがやってくる。

 次の魔物大行進スタンピードは今回の10倍の規模らしい」

「「なんだって!!」」


 あまりのことに皆が騒ぎ出した。


「今の王宮の設備じゃ、次の魔物大行進スタンピードには耐えられないだろう。

 その時までにお偉いさんに配慮しながら、この王都を防衛都市に変えるなんてオレには無理だ」

「じゃあ、どうすればいいんですか!」


 兵士の一人が立ち上がり言った。


「王都から歩いて数日の距離に、シェルトという村がある。

 オレと妹が育った街だ。

 老人と女子どもしかいないから、オレの好きにさせてくれるだろう。

 オレはそこに防衛都市を築いて魔物大行進スタンピードを迎え撃つ。

 もし、王都に住んでる人も来る気になったら来てくれ。

 歓迎するよ、村の奴らはみんないい奴らだからさ」


 お辞儀をした後、皆に背を向け歩き出した。


「「ありがとうございました!」」


 王都の民はオレに頭を下げ、感謝の言葉を伝えてくれた。

 不思議と息がそろっていた。


「アスベル、エレンたちの処分はどうすればいいと思う?

 貴族の身分を奪い、平民として国から追放したら……」

「立派な盗賊になって悪事を繰り返すだろうね。

 奴ら普通の冒険者よりも強いし、性格が悪いから」


 落ちていた精霊銀の剣を掴んだ。


「殺していいなら、そうするけど」


 エレンの目の前に剣を突きつける。


「や、やめ……やめろ!」

「なあ、エレン。

 お前はオレがやめろって言ったとき、やめてくれたんだっけ?」

「ひ……ひい……わ、悪かった。

 謝るから!

 命だけは助けてくれ……お願いだ」

「「助けて……」」


 エレンたちは泣きながら命乞いをしていた。


「アスベル、エレンたちはしばらく牢で暮らしてもらう。

 心を入れ替えない限りな。

 それでいいか?」

「……お好きにどうぞ。

 ただ、エレン。

 次にお前がオレの目の前に立つことがあったら……わかってるよな?」

「……ひ……ひぃい!

 わ、わかった!

 もうお前には関わらない、だから、殺さないでくれ……」


 エレンは泣きじゃくっていた。

 これが、オレが一時期あこがれていた男の姿なのか。

 

 斬る気にもならなくなって、オレは剣を置いた。


「おい、連れてけ」

「はっ!」


 王の命で、エレンたちは牢に連れられて行った。


「終わったな」

「お疲れ様でした」

「お兄ちゃん!」


 ミアとカノンがオレのもとに集まってきた。


「カノン、ケガはないか?」


 昔そうしてたように、カノンをぐいっと抱き上げる。

 う……重くなってるな、成長してるのは嬉しいけど、ちょっとキツい。


「うん、私は大丈夫!

 お兄ちゃん、氷龍倒すなんてすごい!

 カッコ良かったよ!」

「そうか、オレもカノンに褒められて嬉しいぞ。

 カノンも怖かっただろうけど、頑張ったな」

「うん!」


 カノンの頭をなでてやった。


「えへへ」


 カノンは嬉しそうに飛び跳ねていた。

 ほんと、助けが間に合ってよかったよ。


「……えっと」

「なんだ?」


 ミアも恥ずかしそうに頭を差し出してきた。


「ミアもなでてほしいのか?」

「……はい」

「しょうがないな」


 顔を真っ赤にしてるミアだけど、頭をなでてあげるとほんとに嬉しそうだった。


「さて、そろそろお迎えがきます。

 未来に帰らないと」

「何だよ、せっかくだから夕食くらい一緒に食べないか?」


 今回の魔物大行進スタンピードを防げたのはミアがいたからだ。

 だから、ミアと一緒に打ち上げくらいしたかったのだが。


「『未来からきた私が過去に長居をすると良くない』と未来のお師匠様に言われておりますから、そろそろお迎えが来る時間です。

 アスベル様、頭を撫でてくれてありがとうございます。

 昔、お師匠様によくなでてもらいました。

 だから、カノンちゃんを見てると羨ましくなって……」

「うん。

 喜んでくれたなら良かった。

 でも、もう帰るのか。

 名残惜しいな」

「きっと、アスベル様と私は、また会えますから」


 ミアがほほ笑むと足元に魔法陣が出現し、光がミアを包んでいく。


「さよなら、ミア」

「はい、アスベル様」

「オレが一番苦しかった時に手を差し伸べてくれたのは、ミアだった。

 ありがとう」

「私は……お師匠様に絶対返せないほどの恩を与えてもらいましたから……少しでも、アスベル様に恩返しできたなら嬉しいです」


 そうミアが言い終わると、魔法陣の光とともにミアはいなくなっていた。


 ミアの言葉の端々に、未来のオレに対する信頼と愛情を感じることが出来た。


 いつかミアとまた会った時には、その時オレが出来るだけのことをしてあげたい……そう思った。


「お兄ちゃん、今の人はだれ?

 恋人なの?」


 そうか、カノンにはミアのこと説明してなかったな


「違うよ、一番弟子だ」

「さすがお兄ちゃん、もう弟子がいるなんてすごいね!」

「確かにすごいな」


 そうだ、いつミアを弟子にしたのかを聞きそびれてしまったな。

 でも、まあいいか。

 またいつか、ミアに会うことが出来るんだ。


 その思いを胸に、オレはカノンと故郷へ向かう馬車に乗り込んだ。

【☆読者の皆様へ☆】




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