エレン視点
エレン視点です。
ちなみにスズエ達はエレンが兄だと知りません。
私はエレン。シェフをやっている。
最近はある人が悪い奴らに狙われていると聞いて、護衛をしていたのだが、いつの間にかこんなところに連れてこられてしまった。
(どうしましょう……)
まずは拠点を拡大したいけど……材料がない。それに、食料も確保したい。どうしたら……。
「あ、あの。私、探索してきましょうか?薬草や食べられる植物や木の実とかも分かりますから」
その時、スズエさんが立候補した。確かに彼女に任せたら、かなり有益なものが得られると思う。
「……では、お願いできますか?」
頼むと、「えぇ、それから、育てられそうなら栽培させてもらってもいいですか?」と聞いてきた。
「え、出来るのですか?」
「はい、一応農業関係のことも頭に入っていますから」
ここで出来るかはわかりませんけど……とちょっと困り顔をして告げた。
「いえ、少しでも食料が増える可能性があるのならやってみましょう」
「あ、ありがとうございます」
「なぁ、エレンさん。オレも行っていいっすか?」
シルヤ君がスズエさんの後ろからそう言ってきた。ふむ……この二人は「親友」だった。
「いいでしょう。何かあったら大人に頼ってくださいね」
「!ありがとうっす!」
スズ、行こうぜ!とシルヤ君がスズエさんの手首を掴んで、森の中に入っていった。
「こら!シルヤ、危険だろ⁉」
スズエさんが注意する声が遠くから聞こえてくる。
「仲いいねー、あの二人」
ケイさんが声をかけてきた。「そうですね、微笑ましい限りです」と私は答える。
「あれで本当に恋人じゃないのか?」
ミヒロさんが苦笑いを浮かべる。
彼らは恋人ではない。そもそもなりえない。それは私がよく知っている。
二人が帰ってくるまで、私達は海に漂着したものを回収する。
一時間ぐらい経った後、二人が戻ってきた。
「これだけあったらいいでしょうか?」
二人はまるで大人数で行ったのではないかと思うほどたくさんの資材や食料を持ってきてくれた。それから、野草や薬草も見つけたので育てることにしたらしい。
「これだけあれば、今のところはどうにかなりそうですね」
その言葉に二人は目を輝かせた。
「では、二人は休んでいてください」
「え?いえ、拠点の拡大は……」
「それはボク達がやるから。君達はゆっくりしていて」
ユウヤさんもそう言って、二人は「だったら、釣りでもしておくか……」と少ししょんぼりした様子で頷いた。
私達が拠点を拡大している間、二人の会話が聞こえてくる。
「なぁなぁ、スズー。そっちどうなってる?」
「そんなすぐに釣れるわけないだろ……」
「えー、でも気になんじゃん」
「お前は忍耐を鍛えてくれ……」
シルヤ君がスズエさんに引っ付き、スズエさんは苦笑いを浮かべているけど離すつもりはないようだ。
「本当に仲いいな……」
マミさんがそれを見て、珍しいものを見たと言いたげに呟く。確かに、男女であんな仲良しなのは珍しいだろう。
そうしてじゃれ合っていた二人は飽きたのか、こちらにやってきた。
「あの、本当にやることってないですか?」
「なんでもいいっすよ!机とかベッド作ってほしいとか、もう少し資材集めしてきてほしいとか!」
その提案に私は少し悩み、
「では、机を作ってもらいましょうか。材料はあるんですか?」
「はい、ものづくりに使えそうなものとか、工具になりそうなものは拾ってきましたから! それにカバンがありましたし、そこに医療セットと工具セットが入っていました」
用意周到だ。もしかして最初からそのつもりだったのだろうか……。
二人はさっそく机づくりに取り掛かる。
「フウ君とキナさんはそろそろ休憩されてはいかがでしょう」
「にゃ⁉ぼく、もっとやるニャー!」
「フウ、疲れてケガをしたら大変だ。私達と一緒に机を作ろう」
駄々をこねたフウ君に、スズエさんはそう誘う。すると「分かったニャ……」と頷いた。
「ほら、おいで」
スズエさんはフウ君を抱き、下におろす。「わ、わたしもいいですか……?」とキナさんが聞いてきたので「いいと思いますよ」と私は笑う。
「キナも来るか?」
同じようにキナさんもおろし、一緒に作り始める。
「なぁ、これでいいか?」
「あぁ、そのぐらいの大きさでいいと思うぞ。それからフウが届くようにしようか」
そうして作っていた二人だったが、
「……そういえば、怪物がやってくるって言っていたよな……焼け石に水かもしれないが、フウとキナの盾も作っておこうか」
「そうだな。それから時間があればマミさんとハナさんのものも作るか」
「そこに私が入っていないのはさすがだな……」
スズエさんが苦笑いを浮かべる。
「スズはいざとなれば筋肉で弾き返せるだろ?」
「お前は私をなんだと思っているんだ……」
「脳筋」
「殴るぞ」
それにしても仲の良さがよく分かる。シルヤ君が本気で言っていないことを知っているのか、スズエさんも冗談交じりの口調だ。
そうして、この日は過ぎて行った。スズエさんとシルヤ君が作った机は使いやすかった。
三日経つと、スズエさんが少し疲れていることに気付いた。
「スズエさん、少し休まれてはどうですか?」
私の提案に「いえ、私だけが休むわけには……」と渋った。
「疲れている状態では本来の力も発揮出来ませんよ」
「……では、栽培している植物だけ見てきます」
私の説得に頷いて、スズエさんは休息することになった。
数分後、植物を見てきたスズエさんはたくさんの野草や木の実を持ってきてくれた。
「ここの環境では、野菜とかも作れるみたいですね。もう少しかかるものなのに」
目を輝かせて、彼女はそれを渡してくれた。
「せっかくの材料です、腕を振るってあげますね」
私が笑うと、「えぇ、エレンさんが作る料理はおいしいですからね」と微笑んでくれた。
さて……この材料ならあれが出来る。
ご飯になり、並んだ料理を見てスズエさんはまた目を輝かせた。
「あ、煮物だ……!」
そう、彼女の好物だ。スズエさんは和食が好みで肉類が苦手だと記憶している。
……え?なんで知っているのかって?なんででしょうね。
せっかく採ってきてもらったのだから、好物を作ってあげてもいいでしょう。
おいしそうに食べてくれると、こっちも作ったかいがある。
夜、スズエさんが浜辺で歌っていることに気付く。
「綺麗な歌声ですね」
私が話しかけると、スズエさんは驚いたようにこちらを見た。
「き、聞いていたんですか?エレンさん」
頬を染めて、おろおろし始める。
「美しかったもので、つい」
そう言うと、「ま、マミさんの方が上手ですよ」と言った。
「私はスズエさんの歌声の方が好きですけどね」
「え、エレンさんの感性って分からない……」
感性は人それぞれだと思いますが……。
確かに、マミさんやミヒロさんの歌声の方が上手かもしれない。だけどスズエさんの歌声はどこか……そう、一人の人に向けて歌っている気がする。そしてそれがシルヤ君であることを、私は知っている。
「……誰かのために歌うのはいいことですよ」
不特定多数のために歌うものも確かにいいが、私はそうやって、誰かのために歌う歌声の方が好きだ。
「そ、そうですか……」
「さて、では帰りましょうか」
私が言うと、スズエさんは「あ、えっと……」とモジモジしだした。どうしたのだろう?
「えっと……その……手を、繋いでくれませんか……?」
「はい?」
「あの、その……暗いところが苦手で……いつの間にか暗くなっていたのでどうやって帰ろうと考えていたところだったんです……」
……意外とかわいいところがあった。
「……暗所恐怖症なんですね。いいですよ」
私は笑い、スズエさんの手を優しく握った。
次の日、巨大な怪物が拠点を襲ってきた。
「キナ、フウ、お前達は盾を持って後ろに」
スズエさんの指示に、二人は頷いた。
マミさんとハナさんも、フウ君とキナさんを守るように立つ。なぜかスズエさんは前線で戦う気満々だ。
「……ちょっと待って。なんでスズエさんは前線で戦おうとしているの?」
ユウヤさんが困った顔で聞いてきた。スズエさんは「え?おかしいですか?」と首を傾げている。
「いや、おかしいおかしくないの話ではなくて……いやおかしいね、うん」
「スズ、後ろ下がっとけ」
シルヤ君に言われ、「えー……」と頬を膨らませながら後ろに下がった。
スズエさんとシルヤ君が作ってくれた武器を持って、私達は怪物と戦う。
「うがぁ……!」
怪物を倒し、私達は一息つく。スズエさんが真っ先に来て、ケガの手当てをしてくれた。
「強いねー……これは探索組と戦闘組、それから家事組に分かれた方がいいかもー」
ケイさんの言葉に、私は頷く。そうしないと、いずれ誰かが死んでしまうかもしれない。
そうして話し合った結果、スズエさんとシルヤ君は基本探索をしてもらい、誰かの手があかなくなったら家事などをしてもらう、キナさんとフウ君、ハナさんは家事、私とユウヤさん。カナクニ先生、マミさんは家事をしながら訓練し、あとの人達は訓練を主にしてもらうことになった。
「でも、本当に二人だけで大丈夫なんですか……?」
私は探索組に尋ねる。もちろん信用していないわけではないけど……。
「大丈夫ですよ、何かあったら誰かを呼びますから」
「そうっすよ。スズとオレに任せてくださいっす」
「それに、栽培が成功したら探索しながらそれを採ってきたらいいですから」
二人がそこまで言うのなら、これ以上は何も言わない。二人に任せることにしよう。
「そういや、スズ。前、にわとりみたいな鳥、いたよな?」
「あぁ、そうだな。もしかしたら養鶏場が出来るかもしれない……」
……なんかすごいことを言っている気がするけど、そこはもう任せよう、うん……。
そうして二人に任せていると、数日後……。
「エレンさん、見て見て!」
スズエさんが本当にうれしそうに何かを持ってきた。
「育てていたにわとりが卵を産んでくれていたんです!」
なんと、本当に養鶏場を作っていたらしい。新鮮な卵を持って帰ってきた。
「すごいですね、スズエさん」
「えへへ……何か作ってください」
ねだられては断れない。私は頷き、「では、腕によりをかけますね」と受け取った。
そうして、お昼は久しぶりの卵料理が出来た。
「でも、不思議ですね……本当に環境が変わらないし、植物とかもすぐ成長するし……」
スズエさんが呟く。確かに不思議だ。こんなすぐに育つわけがないのに。
だが、そんなこと考えていても意味がない。とにかく生き残ることに重きを置かなければ。
数日たち、そういえばあまり森の奥に入っていないことに気付く。スズエさんとシルヤ君もいろいろやっているから探索しきれないと言っていたような気がする。
「……ふむ、たまには行ってみますか……」
そう思い、私は森の中に入った。
少し歩いていると、騒がしいことに気付く。野獣……?にしては明らかにおかしい……なんて思っていると、ログハウスが見えてきた。
「おい、どうすんだよ?」
「私が作ったやつはどうだった?」
「んなもん、食えねぇだろ」
……人?
さすがに気になって、私はこっそりと窓を覗き込む。そこには女性が三人、男性が四人いた。
「きゃ⁉誰かいる⁉」
ピンク髪の女の子に気付かれ、私は「あー、すみません。声が聞こえていたもので……」と頬をかいた。
「では、これで」
「あ、うん。また今度……ってなるわけないでしょ?」
大学生ぐらいの男性に捕まってしまった。うーん、なんかスズエさんと同じ雰囲気がする。
「ねぇ、この人の姿……もしかして、シェフ?」
「まぁ、一応そうですけど……」
スーツ姿の男性に聞かれ、私は思わず頷いてしまった。
「なぁ、それならちょっと手伝ってくれ」
白髪の、スズエさんやシルヤ君と同じぐらいの年の男の子に事情を聞く。
どうやら彼らはここで海の家として料理を作ってお客に提供しないと殺されるという。
「ふむ……それなら、仕方ありませんね……」
「いいのー⁉」
「えぇ。助手を連れてきてもいいですか?」
私が尋ねると、「まぁ、料理上手な人なら構わないけど……」とスーツ姿の男性、レントさんが頷いた。
「美人ならいいぜー?」
「かわいい子がいいなー!」
タカシさんとマイカさんも冗談交じりにそう告げる。
「……こいつらのことは気にしないでくださいっす」
ラン君がため息をつきながら、そう言ってくれた。
さて、ではここで助手にしたい人と言えばただ一人。
「……え?私に来てほしい?」
「はい、ちょっといろいろありまして……」
椅子を作っていたスズエさんは少し考え、
「まぁ、いいですけど……」
そう言って、私についてきてくれた。
海の家に着くと、
「こんなところに海の家なんてあったんですね……この近くに菜園とか養鶏場があるんですけど、知らなかったです」
そんな声が聞こえてきた。ほかの人達は「うわぁ……美人が来たぁ……」なんて言っている。
「それで、なんで私は連れてこられたんでしょうか?」
「実は……」
私が事情を説明すると、
「つまり、エレンさんの手伝いをすればいいということですか?」
「はい。頼めませんか?」
「……まぁ、エレンさんにはお世話になっていますし、それぐらいなら構いませんよ」
突然の頼み事なのに、スズエさんは引き受けてくれた。
「それから!今回は人命がかかっているので仕方ありませんけど!あんまり厄介ごとは持って帰ってきちゃいけませんからね!」
……そして、ちょっとだけ怒られてしまった。
「すみません」
「まったく……シルヤも厄介ごと持って帰ってきては私に泣きつくんですから……」
迷惑だと言いたげに見えて、まんざらでもなさそうだ。
「材料は?」
「これとかあるよ」
「……これ、フグですよ?」
「え⁉」
……やはり、彼女を連れてきてよかった。
「では、簡単なものから作りましょうか。それを味見して、よかったら教えるという方向でいいですか?」
聞くと、七人は頷いた。
「料理長、私は何をしたら?」
「では、野菜の下処理を頼めますか?」
「了解」
スズエさんに頼むと、彼女は五分もかからないうちに切り終えた。
「いやはやっ!」
「?教えるのは後でいいんだろ?」
「まぁ、そうだけど……ちょっとは知りたかったっていうか……」
ラン君がスズエさんに言うと、彼女は少し悩んで、
「なら、近くに私が作っている野菜とかあるから持ってこい」
「は……?」
「切り方を知りたいんだろ?早くしろ」
「そ、そうだけど……いいのか?貴重な食料だろ?」
「困っている人を助けるのは当然だろ。やるのか?やらないのか?」
スズエさんに背を押され、ラン君は頷いてレイさんと一緒に採りに行った。
数分後、
「ここをこうしたら、効率よく切ることが出来る」
「なるほどな……」
スズエさんがラン君に教えている姿が見えた。やり方も教え方も上手で分かりやすい。ぜひ自分の店で働いてほしいぐらいだ。
「エレンさん、これでいいですか?」
持ってきたものを見て、「えぇ、大丈夫です」と頷く。
「では、今度はスープを作ってください」
「わかりました」
そうしてメインは私が作り、スープはスズエさんが作ることになった。
そうして実食してもらうと、
「おいしい!」
「うまいな!」
皆さんの評価はまぁまぁだ。まぁ最初のレシピとしてはいいだろう。
私とスズエさんが教え、この日は帰る。
「結構大変ですね……。エレンさんがシェフでよかったです」
「いえ、スズエさんがいなければ私もあそこまで出来なかったですよ」
互いにお礼を言い合っていると、拠点に戻ってきた。
「あ、スズ!遅かったな、エレンさんと何してたんだ?」
シルヤ君が真っ先にスズエさんのもとへ駆け寄ってくる。その姿は犬のようだ。心なしか犬の耳や尻尾も見える気がする。
「ちょっとな。ほら、椅子作りを再開するぞ」
「おう!」
そういえば二人は椅子を作ってくれていたんだった……。
それからしばらくは海の家に通い詰めていた。
「これでいいんでしょうか?」
スズエさんに聞かれ、私は「えぇ、大丈夫だと思いますよ」と頷いた。
彼女はよくラン君やレイさんにスパイスになる野草や木の実を教えていた。それから育て方も実践していた。
私が洗い物をしていると、ナコさんが高いところにおいてあるものを取ろうと必死になっていた。手が離せなかったのでどうしようと悩んでいると、
「これか?」
偶然通りかかったスズエさんがとってあげていた。ナコさんはキョトンとした後、受け取って何かを言った。
「ありがとう。でもあたしに優しくしなくていいから。なれなれしくしないで」
「それは失礼。……お客人は行動を慎むことにするよ」
その時のスズエさんは、どこか寂しそうだった。
その夜、みんなが寝静まったことを確認するとスズエさんがいないことに気付く。どこに行ったのだろうと探していると、拠点の後ろで何かを作っていた。
「うーん……少し動くな……」
見たところ、踏み台だろうか?フウ君達にはもう作っているから、必要はないのに。それに拠点の資材からは使っていないようだった。
声をかけるか悩んだが、集中しているのにそれを止めるのもはばかれてそっとしておくことにした。
次の日、スズエさんはナコさんに昨日の踏み台を渡し、
「これを使ったらいい。料理も楽になるだろう」
そう言った。なるほど、そういうことか。スズエさんは昨日のナコさんの発言を、他人に触れられたくないからだと思ったらしい。
「あ、あの、スズエさん……」
「どうした?」
ナコさんがもじもじしているのを見て、スズエさんはキョトンとしている。
「き、昨日はごめんなさい……」
「昨日?何かあった?」
本当にわかっていないらしい。スズエさんは疑問符を浮かべていた。
「ほら、昨日ひどいこと言っちゃったから……」
「あー……」
それでようやく気付いたらしい。少し考えて、
「……私、何か言われた?疲れてたからよく覚えてないや」
「う、うそでしょ?だってそうじゃないとこんなの作らないよ……」
「別に、ナコが大変そうだなって思って作っただけだ。私は気まぐれで生きているからな」
ネコ気質なんだ、とスズエさんは笑う。
「だから気にするな。子供は甘える生き物なんだから」
「……スズエさんだって、子供じゃん……」
「ナコよりは大人です。甘えられるのは割と好きなんだ」
さすが、お姉さん属性。些細なことでは動じない。
「……ねぇ、だったら教えてほしいことがあるの」
「何?私が教えられることならなんでも聞いていいよ」
ナコさんがスズエさんの腕を引っ張って、どこかに連れていく。
「仲いいね」
「本当に寛大だね……」
「えぇ、自慢の妹です」
思わず出た言葉に、みんなの思考が停止した。
「……え?」
「いもうと……?実妹……?」
「えぇ、そうです。あの子は覚えていないでしょうけど」
もうここまで来たらやけくそだ。スズエさん本人は聞いていないし、別にいい。
私の本名は森岡 恵漣。七守家に引き取られ、今の名字になった。だから、スズエとシルヤの本当の関係も知っている。あの子たちは親友ではなく「双子の姉弟」なのだ。だからこそ、あんなに仲がいいのだ。
「……だから、スズエを助手にしようとしたんだね?」
レイさんの言葉に、私は頷く。すると、彼はため息をついた。
「まぁ、薄々そんな気がしていたけど」
どうやら、彼はスズエを見る目が兄のものだと気づいていたらしい。さすが、頭がいいだけある。
「後で少し話があるんだけど、いい?」
レイさんに言われ、私は頷く。
いつも通り料理を作り、評価してもらい、片づけをスズエに任せてレイさんの部屋でお茶にする。
「たまには休んだほうがいいですからね、エレンさんも」
スズエはそう言って快く引き受けてくれた。
お茶を持ってきて、椅子に座る。
「……それで、話とは」
「君と俺は同じ境遇なんだって思ってね」
同じ?と疑問符を浮かべていると、彼はお茶を飲みながら笑った。
「ラン、いるでしょ?あいつは俺の弟らしいんだ。母親が違うけどね」
「ラン君が?……確かに、言われてみれば似ている気もしますね」
「ふふっ、ありがとう」
そうやって、二人で秘密のきょうだい自慢が始まった。
ふと外を見ると、外が暗くなっていることに気付いた。
「あ。そろそろ帰らないと、スズエが暗所恐怖症らしいので」
「そうなんだ、こんな時間までごめんね」
「いえ、弟妹はかわいいものですからね。また話しましょう」
そうやってスズエと合流すると「エレンさーん!」と涙目で駆け寄ってきた。
「遅いですよー!暗くなったじゃないですかー!」
「こいつ、さっきからずっとこんな感じなんだぜ?」
タカシさんが苦笑いを浮かべている。しっかり者のイメージだから意外なのだろう。
「スズエさん、帰りますよ」
「うー……」
私が手を差し出すと、スズエはギュッと握る。
「では、また来ますね」
そういって、二人で帰った。
数日後、
「シルヤ⁉危ない!」
「うおっ⁉」
スズエがシルヤを危険から守った時、スズエのポケットから何かが落ちた。古いメモ帳みたいだ。それをキナさんが拾い、
「スズエさん、これ落ちましたよ」
そういって渡すと、慌てた様子で「あ、ありがとう」と受け取ろうとした。しかし、ケイさんがヒョイとそれを取る。元警察官がそんなことしていいのだろうか?とは思うが。
「あ!ケイさん、それ返してください!」
スズエが必死に奪おうとするけど、ケイさんは「これに、君達の秘密がある気がしてねー」とニコニコしていた。
「ダメっす!スズに返してくださいっす!」
シルヤも必死だ。私は、それに何が書いてあるのかが分かっている。だって、もともと私が持っていたものだったから。
「どれどれー……え?」
「あぁあああ勝手に見ないでください!」
あそこまで焦るスズエの姿も珍しい。でも、それも当たり前だ。
――だって、そこに書かれているのは家系図なんだから。
森岡家はもともと武家であり研究者の家系で、家系図があるのだ。スズエとシルヤの反応からしておそらく私やもう一人の妹の名前は両親が書き換えたせいでなくなっているだろうが、二人が双子であることは書かれているハズだ。
「……君達って、双子だったの?」
ケイさんに聞かれ、二人は冷や汗を流していたが、
「……はぁ、知られてしまったならしょうがないですね」
「そうっすよ、オレ達は双子っす」
潔く認める。
「え?お二人はごきょうだいだったんですか?」
キナさんが目を見開く。それに続いてほかの人達も聞いてきた。それに、二人は事情を説明する。
赤子の時にシルヤが憶知家に引き取られたこと。
双子であることは隠したほうがいいだろうと二人で話したこと。
このことは一部の人しか知らないこと。
「なので、他言はしないでくださいね」
小さくため息をつきながら、スズエは口止めをした。
双子だと知られた二人のべったりようはすごいものだった。
「シルヤ、無理しなくていいぞ。お姉ちゃんが守ってあげるからな」
「オレだって、スズ姉を守りたいっての」
それを見ていた私とユウヤさん以外の人は苦笑いを浮かべていた。
「あれでも抑えていたんだな……」
ミヒロさんが呟く。私からしたら、あれぐらい仲がいい方がやりやすい。
探索においても、彼らはすごかった。たくさん持って帰ってくるのだ。おかげで拠点も大きくなったし、食料も海の家の人達に分けられるほどになった。
「いつもありがとう」
「いえ、こちらも余ってきていますから」
スズエと一緒に持ってきて、レシピを作る。それをレイさんやラン君が見て、覚える。
「今日は俺達が片付けるよ」
レイさんの言葉に甘え、スズエと一緒にソファに座る。……そもそも、なんでここにソファがあるのか気になるが、気にしてはいけないのだろう。
「スズエさんは、好きな人とかいるんですか?」
隣でお茶を飲んでいるスズエに尋ねると、「まさか」と彼女は笑った。
「そんなのにうつつを抜かしている暇があるなら、別のことをします」
「学生の時にそういう経験をするのはいいことだと思いますよ?」
「バイトとかありますからね……あと純粋にめんどい」
そう言ったことに興味がないらしい。兄としては妹が誰かと結ばれ、子供も見てみたいものだが……。ふむ……これなら。
私はスズエに詰め寄る。
「え、あの、どうしました?」
スズエは背をのけそらせる。それでも近付き、後ろに逃げ場がなくなったところで、
「エレンさん!」
少し怒りを込めて名前を呼ばれた。顔は真っ赤だ。私はニコニコと笑う。
「すみませんね、かわいらしくて」
「かわいくない!」
ちょっとお怒りモードになってしまった。まぁ、これも可愛いだけなのだが。
満足して、私が離れると「仲いいな」とタカシさんにからかわれた。無言の圧力をかけると、「そんな顔すんなよ、エレン……」と苦笑いを浮かべられてしまった。
そうやっているうちに、約束の日が来た。ルイスマがやってきて、
「どうする?ここから脱出するか?」
そう聞いてきた。私は少し考えて――。
一年後、島は観光地となり、私は海の家の人達とともに料理人になっていた。周囲も、開発されていっている。
『エレンさん、本当に残るんですか?』
スズエが私に聞いてきた。私は頷くと、
『……わかりました、たまには遊びに来ますからね。それから、野菜とかは使っていいですから』
そういって、スズエとシルヤは戻っていった。やりたいことがあると言って。
この日、私はとても楽しみにしていた。
「エレンさん、うれしそうだね」
レントさんに言われ、私は「えぇ」と頷く。
「スズエが来るからね、そりゃあ楽しみだよ」
レイさんが笑ってその答えを言ってくれた。
そう、今日はスズエが知り合いと一緒に来ると約束したのだ。そのために貸し切りにした。
その時、扉があいた音が聞こえる。そちらを見ると、私服姿のスズエと緑髪の男性が入ってきた。
「エレンさん、久しぶりです」
「えぇ、お久しぶりですね。スズエさん」
「へぇ、スズエさんがおすすめするだけあるね」
「あぁ、彼はアイト。幼馴染なんです」
スズエが丁寧に紹介してくれる。アイトさんが「初めまして。スズエさんがお世話になったみたいで」と頭を下げる。
席に案内し、注文を取ろうとすると、
「あー……どれもおいしそうだ……」
「好きなの選びなよ。ボクの奢りなんだからさ」
「珍しいな、お前が奢ってくれるなんて。明日は槍でも降ってくるかもな」
アイトさんが微笑ましそうにスズエを見ている。ここまで目を輝かせている彼女が珍しいのだろう。
「では、おすすめを作りましょうか?」
「いいの?」
「えぇ、腕によりをかけますから」
私は笑って、厨房に入った。
数分後、スズエは「おいしい……!」と嬉しそうに頬張っていた。
「珍しいね、スズエさんがそこまで嬉しそうにするなんて」
「うん。だって、懐かしい味がするんだもん。確か……そう、おじいちゃんが作ってくれたのと同じ味だ」
その言葉に、私は胸が温かくなる。
私の料理は、祖父が教えてくれたものだ。両親は放任主義だったから、祖父母が面倒を見てくれていたのだ。祖母は料理が苦手だったので、祖父が主に作っていた。
料理を食べ終わり、少し話をする。
「……あの、さ、エレンさん。これ、憶知家のおばさんに聞いたんだけど……」
不意に、スズエさんがためらいながらも切り出した。
「エレンさんって……私達の実兄、なんですか?」
不安そうなその瞳は、昔の妹の姿を思い出させて。
「え、エレンさん⁉」
思わず、抱きしめていた。
「……会いたかった……」
ずっとずっと。大切な、妹。
スズエは背中に手を回して抱きしめ返してくれた。
「……うん……」
涙を流す私の背中を、優しく撫でてくれた。
少しして、スズエが話を切り出した。
「あのね、私、こっちに移住しようと思ってるんだ。シルヤとか、ユウヤさんと一緒に」
「やだなぁ、ボクもでしょ?」
「はいはい、そうでしたね」
その言葉に、私だけでなくほかの人達も目を見開く。だって、彼女はやりたいことがあるからって……。
「いろいろ準備したかったの。一応、研究者の娘だし、いろいろやろうって思っててね」
それをやっている間に、私が兄だと聞いたらしい。
「もともとこっちに移住しようとは考えていたんだけどね。研究所もこっちに移そうと思ってて、それで一度戻ったんだ」
「研究所?」
「あぁ、そういえば言ってなかったね」
スズエは胸ポケットから名刺を取り出す。
「私、もとは「モロツゥ」、今は「ホープライトラボ」の所長をしているんだ」
それは、ここがまだ観光地として整備されていないとき、たまたま観光客が教えてくれた、最近素晴らしい業績を残しているという研究施設の名前。そのあとにこの島を開発するにあたって真っ先に支援してくれた場所だった。
「だから、あの時真っ先に支援してくれたんだな……」
内情を知っている人なら、すぐにどんなことが出来るか出来ないか、それぐらいは分かるものだ。
「一応、経営者だからね。まぁ、職員は今のところユウヤさんとシルヤとこいつだけなんだけど」
「ほかの人達も遊びには来るよね」
「それでよく資金を割けましたね……」
「もともとおじいちゃん達の遺産とか、自分でもかなり稼いでいたからね。それぐらいは大丈夫だったよ」
フフッとスズエは笑う。まぁ、高校生ながら研究所を経営しているほどだ。この子もそれなりの実力があるのだろう。
「だから、高校を卒業したらこっちに引っ越してくるよ」
「……えぇ、待っていますね」
私は笑って、その日が来るのを待つことにした。
数年後、島はどんどんにぎやかになっていった。
「あーうー」
「んー、ちょっと待ってねー」
スズエは足元に寄って来るわが子を見て、小さく笑っていた。
「スズエ、わりぃ。世話するよ」
「ごめんな、ラン」
ラン君が来て、息子を抱えた。二人は結婚したのだ。シルヤは「オレ、こっちやってるなー」と声をかけていた。
「幸せですね、エレンさん」
ユウヤの言葉に、私は「えぇ」と小さく笑った。
「本当に……幸せです。弟妹と過ごせて、甥っ子まで見ることが出来るなんて」
「ボクもだよー」
アイトも私の肩をたたいて、ニコニコしていた。
「兄さん、今、ランの手伝い出来る?」
「えぇ、ちょうど暇になっていたので大丈夫ですよ」
所長であるスズエはとても忙しい。それでも早めに仕事を終わらせて、時間を作ろうとしているのが分かる。だから、私も甥っ子の面倒を見ることが多い。
甥っ子はスズエによく似ていて、可愛かった。それに思わず微笑む。
きっとこれが、私の望んでいた幸せだった。




