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Face Bullet  作者: kazu
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死角に気をつけろ!

 その日の夕方には、その公園の近辺を聞き込みする相沢の姿があった。

 そして、幸子ちゃんが攫われたショッピングモールにも、相沢はやってきた。

「あの…… 」

「は、また警察の方ですか?」

 昼間に刑事が居た事務所の入り口で、不機嫌そうな顔をする事務員だった。

 その問いかけに、

「いいえ。

 この前の幼女失踪事件を調べている記者です。

 よろしければ、その当時の防犯カメラのデータをお見せできないかと思いまして」

 そう言って名刺を渡す相沢だった。

「昼間も刑事さんが来ましたよ。

 でもねえ、何も無かったようでしたよ」

 そう言いながら、事務員は相沢を事務室に入れた。

 そして、そのまま刑事と同じように奥の机まで行くと、刑事に渡したデータを相沢にも渡した。

 相沢は机の上にカバンをおくと、早速パソコンでそのデータを開いていた。

 そして、何度も動画を観ていた。

 すると、ある部分で再生を止めた。

 更に逆再生すると、今度は同じ部分を何度も見ていた。

 そして、

「このデータ、お預かりしてもいいでしょうか」

 と事務員に尋ねた。

 暫く考えていた事務員だったが、

「このデータで、失踪中の女の子が見つかるかもしれないので、お願いします」

 相沢は再び事務員に頼んでいた。

 すると、

「わ、わかりました。

 いいですよ」

 と、相沢の願いを承諾した。

 相沢は急いでデータをインポートすると、軽く会釈をして事務所を出て行った。

 そのまま出版社に戻った相沢は、自分の机で再びパソコンの中のデータを観ていた。

 そして、

「この男、どうも怪しいわね」

 と言った。

 そこへ、編集長が部屋に入ってきた。

「おお、相沢か。

 やってるな。

 何か解かったのか」

 と言いながら、自分の席に向かっていた。

「編集長、ちょっといいですか」

 相沢がそう言って編集長を止めると、

「ふむ、どうした?」

 と相沢の方へ歩み寄って、パソコンの画面をマジマジと観ていた。

 表情が険しく変っていった編集長は、

「でかしたぞ。

 こりゃ、スクープじゃないか。

 大手柄だぞ、相沢っ!

 これを記事にしろ。

 わかったな」

 と言って、手を叩いて喜んでいた。

 相沢は、

「はい」

 と大きな声で返事をすると、そのままパソコンで記事を書き始めたのである。

 その時、隣に水野が来ると、

「へえ、指の動きが良いじゃない。

 何か見つけたの」

 と相沢に言い寄ってきた。

 それを見た編集長が、

「おい水野、邪魔しちゃいかん。

 スクープ記事を書いているんだぞ」

 と、笑顔で言った。

 それを聞いて、

「なるほど、それじゃ邪魔しちゃ悪いわね。

 私は帰りますか。

 優香、がんばってね」

 と言って、そのまま部屋を出て行った。

 そして編集長も、

「俺も邪魔だろうから、先に帰るよ」

 と言って、そのまま部屋を出て行った。

 二人の言葉は、相沢には聞こえていなかった。

 ただ、ひたすらパソコンのキーボードを打つことに専念していたのだ。

 

 数日後、神奈川県警の刑事課では、

「馬鹿野郎!!

 お前っ、それでも刑事か!

 何でこの部分を見逃すんだよ」

 相沢の記事を読んだ大島刑事が、後輩の刑事に怒鳴っていた。

 確かに後輩の刑事が見逃したものは、重大な証拠となっていたものだった。

 それがこうして記事になってしまえば、犯人に対して警戒心を持たせてしまうのだ。

 もしも先に刑事がその証拠を発見していれば、捜査上の機密として警察の方でデータを没収することができたのである。

 もちろん、相沢の書いた記事が載っている週刊誌は、売れ行きが殺到していた。

 

 その数日後。

 別のホームセンターでは、駐車場で沢山の人だかりができていた。

「ここ…… 。

 この車の中に、子供を寝かせて買い物をしていたんだ。

 少しの間だよ。

 ほんの少し…… 」

 一人の男性が、警備員に必死になって訴えていた。

 内容は、父親がホームセンターに日曜大工に使う部品を買いに行った祭に、車の中で寝ていた子供がいなくなったのだという。

 買い物をしていた時間は、十数分間にすぎない。

 その短い間に、子供が車から外に出て行ったのか、それとも誰かが連れ出したのか。

 とにかく、寝ていたはずの子供がいなくなったのである。

 またも、幼児失踪事件が起こってしまったのだ。

 これで三人目の犠牲者が出たことになる。

 尚且つ、その二日後には、二回目に起きた大手のデパートでの幼児失踪事件の被害者だった女の子の遺体が、近くの河原で発見されたのである。

 河川敷の草むらの中で横たわっていた幼児の遺体を、その付近を毎日犬の散歩で通りかかる女性が発見したのだ。

 いきなり吼えはじめて綱を引っ張りはじめた犬が、その勢いのまま主人である女性を遺体の傍まで連れてきたという。

 見つけられた死体は、鋭利な刃物で心臓を一突きだった。

 ただ、一つ解からないことがあった。

 それは、着せられた洋服が失踪した時に着ていたものではなく、今流行のミュージックゲームのキャラクターが着ている洋服と同じものに着せ替えられていたのだ。


「これまでの捜査の中では、最初の防犯カメラに映っていた容疑者と思しき人物像だけで、他にはこれといって証拠らしきものが発見されていません。

 今までの送られてきたぬいぐるみや、着せられていた洋服からは、購入した店舗なども識別されませんでしたし、状況は未だ厳しくなっています」

 捜査本部が設けられた神奈川県警の中では、所轄の刑事たちが頭を抱えていた。

 ただ、幼児失踪事件が起きている場所が、全て三十キロ圏内にあるデパートやホームセンターだと言うことだけが解かっていた。

「この地図で察すると、犯人はおそらくこの近辺に滞在していると思われます。

 とにかく、徹底的にこの近辺の捜査をやっていきたいと思います」

 そう言った大島だった。

 しかし、その裏付けさえも打ち消される事が起こるのである。


 三件目の失踪事件から、更に一週間後。

「な、何ぃっ!

 千葉の浦安だって。

 全く予想とは別の場所じゃないか。

 ここは、神奈川県だぞ」

 四人目の犠牲者がでたのだ。

 それも、犯行現場は千葉県にあるディズニーランドだったのだ。

 家族で遊びに来ていた時に、両親が少しの間目を話した隙に、土産売り場で玩具を見ていたはずの子供がいなくなったのだ。

 驚くのは、そればかりではなかった。

 その家族の自宅は成田のあたりだったのだ。

 犯人の犯行現場が広くなっていることで、事件は難航していった。

 そんな時、その情報を入手した相沢は、

「編集長っ!

 私の推測では、最後の犯行現場が犯人の住んでいる場所に近いのではないかと思います」

 編集長の机に力強く両手で付いて、今まで以上に興奮気味の相沢が、編集長に詰め寄っていた。

「そ、そうか。

 だがな、これ以上は…… 。

 お前の身が危険になるぞ」

 あまりの勢いに身をのけぞる編集長だった。

 編集長は、相沢のことを心配していたのだ。

 しかし、ここでその件から身を引くことになれば、犯人の目星は付けられなくなってしまうという危機感に押し潰されそうになっている相沢だった。

「大丈夫ですよ。

 警察も動いていますし、それに場所が千葉ですから千葉県警も来ているはずです。

 二つの県警が相手なら、犯人も手出しできないでしょうから。

 お願いします。

 一週間、一週間で戻ってきますから」

 必死に訴える相沢の猛攻に、等々編集長の方が負けていた。

 今、ノリに乗っている相沢の気合い勝ちだったのである。

 編集長の了解を得た相沢は、直ぐに千葉の浦安に向かった。


 数時間後。

 ディズニーランドの中で、攫われた子供の足取りを聞き込みしたことを、飲食店の机の上でパソコンで記事にする相沢の姿があった。

 到着するや否や、土産売り場の店員やコンパニオンたちに話を聞くと、やはり当日の出来事に気付いた者は一人もいなかった。

 出入り口の従業員や、イベントの人たちにも尋ねたが、返ってくる言葉は同じだった。

 上空を見上げると、綿菓子のような白い雲が所々に浮かんでいる。

 まさに行楽日和といった感じだった。

 周りを見渡せば、様々なアトラクションを楽しむ観客たち。

 家族連れやカップル、ツアーの団体客に海外からの観光客。

 平日だと言うのに、大勢の人の波がうごめくディズニーランド内だった。

「こんな事していていいのかな。

 私も仕事じゃなくて、友達と一緒に来たかったな」

 そんなことを呟きながら、トイレの方に歩いていく相沢だった。

 年頃の女性には、目に毒な光景に違いない。

 だが、ここは大事な仕事だと、自分の心を押し殺しながら納得していた。

 そして、トイレから出て聞き込みに向かおうとした時だった。

 突然後ろから口を塞がれたのである。

 白い布が当てられた口からは、叫んでも声が出せない。

 必死に抵抗した相沢だったが、数秒後に気を失ってしまった。

 口に当てられた布には、薬品が染み込まされていたのだ。

 人の少ないトイレの木陰だった。

 その出来事は、やはり客や店員たちに見られることはなかったのである。


 そして丁度そのころ…… 一家惨殺が起きた住宅街では。

 新築の住宅が並ぶ中、一人の若い女性がジョギングしていた。

 そこは、その女性が毎日走るコースだ。

 その日も、いつものように音楽を聞きながら走っていたのである。

 そして、ブロックに囲まれたゴミステーションで、なぜか立ち止まった。

 普段はそのまま走り去るのだが、その日はごみ収集の日でもないのに黒いものがブロックの角に置かれていたのである。

 ゴミの袋でもなく、真っ黒い何かが置かれていた。

 女性は、それが何かを確かめるために近づいていった。

 目を凝らして見ると、スウェット生地に包まれて、くの字に折れ曲がった男性の死体だったのである。

 女性は、その場で叫び声を発していた。

 数分後に、通報を受けた警察官の姿があった。

 再び、警視庁を騒がす事件が起きたのである。

 警視庁の大会議室では、捜査本部が設けられた。

 入り口の垂れ幕には『一家惨殺、犯人殺人事件捜査本部』と書かれていた。

「これから、一家惨殺事件で犯行を行ったと見られる犯人が殺害された件で、捜査会議を始める」

 正面では、前回と同じ警部たちが並んでいた。


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