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騒音を消す方法

作者: 相川 健之亮

とにかくうるさい。


やかましいんだ。



ブォンブォンブォンブォン



今日も聞こえてくる。

毎日夜の12時頃になると、家のすぐそばを暴走族が走り出す。


ただ、通り過ぎるだけならまだいい。


やつらは執拗にこの周辺を走り回る。


そして、俺のアパートの目の前にある公園で屯し、大声で話したり、エンジン音を立てたりする。


何度も警察が来て注意をしてくれたが、全く効果がない。

近隣住民も半ば諦めムードだ。



今日は、特にうるさい。


いつもより人数が多い。

タバコをふかして、酒を飲んで、耳障りな笑い声を響かせている。


ベッドに寝転んでいた俺は、一つの決意をした。


静かにさせよう。




数日後、俺は通販でピアノ線を買った。


届いたピアノ線は、想像していたよりも重く、そしてナイフのように鋭く感じた。



そして、俺は機を伺った。


やつらは、毎日ここら周辺をぐるぐると何周か走っていて、コースはほぼ決まっている。


そして、毎日夜の12時過ぎにあの耳障りなエンジン音が聞こえてくる。



俺は夜の11時50分ごろに、やつらのコースに足を踏み入れた。


あらかじめ目星をつけていた、道路を挟んで立っている二本の電柱を見つけると、俺はメジャーとピアノ線をとりだした。

このあたりには住宅が少なく、監視カメラも無いことは確認済みだ。


そして、地面から140センチの高さの位置に印をつけると、ピアノ線を電柱にくくりつけた。

そして、もう一本の電柱まで引っ張り、同じようにくくりつけた。


ピアノ線が外れないか確認すると、俺は近くにあった公園のトイレの影に身を潜めた。


時計を見ると、12時3分。


そろそろ来る頃だ。



そして聞こえてきた。


ブォンブォンブォンブォン


やかましい、圧迫感のある音。



そして、俺のいる公園の横の道路を、やつらは走っていった。

いつものように、仲間内で笑い声を立てながら。


やつらの向かう先には、あれがある。


俺は、刃渡りの長いギロチンに向かって突っ込んでいくやつらの姿を想像して、目を背けた。



ビン



という低い音が、何度か聞こえた。


そして、バイクが地面に転んだり、壁にぶつかる音が聞こえた。


いい音だと思った。


そして、それっきり静かになった。



俺は満足すると、嬉しさと興奮で身を震わせながら、やつらの惨状を視界に収めることなく家に帰った。


その日は久しぶりに熟睡することができた。



翌朝、救急車とパトカーの音で目を覚ました。

少しうるさかったが、朝だからいいかと思った。




そして俺は、騒音を消す方法を手に入れたと思った。




条件は、ピアノ線の張れる、二箇所の堅固な棒か柱。


それさえあれば静かにできる。



夜の騒音以外にも、気になる音はあった。



例えば、朝の通勤ラッシュ。


ザワザワ、コツコツと、どいつもこいつもやかましくて、頭が痛くなる。


俺は、電車の乗り換え時刻を見計らって、駅のホームへ降りる階段の一番下に、手早くピアノ線をくくりつけた。

ちょうど首の高さになるように。


電車が来る時刻になると、別の路線からの乗り換えで、ホームに駆け込んでくる人の群れが来た。


そして、あの視認しにくい残酷なギロチンにとびこんでいった。


また、


ビン


という無機質な音が何度か響いた後、ホームへの階段下が真っ赤になった。


女の悲鳴がうるさかったが、トータルで見ると人間の音が減っているように思えて満足した。




後は、近くにあるスクランブル交差点。


ここは休日の夕方、騒音がピークに達する。


俺は、歩行者信号が赤になっている間に、どさくさ紛れにバイクで交差点を横断した。


あらかじめ電柱にくくりつけていたピアノ線を片手に、交差点の反対側まで行くと、同じように電柱にくくりつけて、交差点の真ん中にピアノ線を張ることに成功した。


信号が青になった後の少しのざわめきの後、あの


ビン


という音が響いて、スクランブル交差点を真っ二つに切り裂くような赤い線が生まれた。


やはり人々の悲鳴はうるさかったが、自分の行動による戦果のようなものだし、やはり以前よりは静かになっている気がして、満足した。






だが、どうしても鳴り止まない、さっきから聞こえてくる騒音。


ピンポーン


というインターホンの音。


音量をゼロに設定しても、


ドンドンドンドン


と、今度は家の玄関を叩く音が聞こえてくる。



「警察です。開けてください。」



そんな声も聞こえてくる。



もううんざりだ。


ここはうるさすぎる。


俺は少しの間、玄関の前で頭を抱えていると、不意にあることを思いついた。



居間を抜けて、ベランダに出ると、手すりにピアノ線をくくりつけた。

そして、もう片方を自分の首に巻き付けた。


ピアノ線は思ったよりひんやりとしていた。




後ろからはまだ玄関のドアを叩く音が聞こえてくる。


隣の部屋からはかすかにテレビの音声が聞こえる。


近くを走る車の音が聞こえる。


道を歩く学生の笑い声が聞こえる。


電車の走る音、飛行機の飛ぶ音、風の音、床のきしむ音、学校のチャイムの音、心臓がドクンドクンと鳴る音。




ここは、うるさすぎる。



俺は、手すりを乗り越えるようにして、体を前に倒した。


体がふわっと浮く感じがした。



この後に訪れる完全な静寂を予感した。



騒音が終わる少し前に、



ビン



という低い音を聞いた気がした。













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