余話:少し後の時間、違う場所でのお話。
少々視点を変えまして、ユーミが出した手紙の行く先へ。
「ユーミ様よりお手紙が届いておりますよ」
朝の勤行を終え、執務室に戻ってくると、侍祭の一人が封書を手に入ってきた。
それを受け取り封を切ると、簡単な挨拶と近況が丁寧に書かれた文章が目に入ってくる。
以前はこの手の文章を書くのを苦手にしていたと思うが、かなりの上達を伺わせるのは素晴らしいことだ。
「聖騎士ユーミは、息災に務めを果たしているようですね」
思わずほっとして、息が漏れてしまう。
あの少女は史上最年少で聖騎士の位を得て、天性と言って良い神の加護を得た者ではあるが、それを単独で辺境の魔物狩りを行わせるには少なからぬ異論もあったし、紛糾もした……させた。
あの時の事を思い出すと、未だに腸が煮えくり返る。
彼女を北の神殿から神の名のもと戦うためのものとして連れてきて、その戦果と実績を以って他神殿に対抗して信仰を集めるべしと主張した者たちの顔が浮かんで、思わず拳を握ってしまうことも少なくはなかった。
いや握るだけならば良いが、当時は神殿の廊下ですれ違うたびに反射的に何撃か撃ち込んでしまいそうになるほどだった。
……今はそうでないのか、と言われると自信が無いのも事実ではあるが。
「……神よ、お許しください」
部屋の窓から外を見つめ、美しい景色で心を癒しつつ、神に懺悔の祈りを捧げる。
窓の外に広がるのは、王国首都の美しい街並み。
穏やかで静かな朝の光景は、いつもささくれた心を癒してくれる。
彼女のような才覚のあるものは、ここ、王都の本殿でその実力を振るうべきなのだし、聖騎士の務めを果たすのであれば相応の支援をつけるべきなのだ。
……本音を言えば今でもあちらに飛んで行って彼女の支援をしたいところではあるが、元聖騎士長であり、今は前線より身を引いた高位司教という自らの立場がそれを許さない。
可能な限り生存術や格闘術などを身に着けさせたが、今でもあれを教えておけば、これを仕込んでおけばと後悔が絶えない。
……今からでもなんとかならないか。無理か。
祈りを終えた後で、深呼吸を何回か。そのうえでユーミ嬢の笑顔を心に浮かべ、一から十まで数を数えて心を落ち着ける。
うむ、落ち着いた……これで良し。
さあ続きを読まねば。
ほう、死の荒れ野に住み着いた死霊術師の討伐……。
しかしその協力を得て荒れ野の鎮撫を?
ふむ、学術として死霊術を修めた者も僅かにいるというが、そういった者であったのだろうか、これは確認が必要であるな。
ユーミ嬢を信じていないわけではないが、この手の問題は人生経験も大きく物を言う。やはり単独というのは問題が大きいな。各地の神殿での支援があると言ってもだ……。
さて……それから……。
…………む?
……これは私の見間違いか? いかんな、目の調子が聊か良くないらしい。
…………。
――死霊術師の人と同棲します……だとぉ……!?
* * *
その日、王都にある大地の神殿の本神殿、その定例会議では、ある司教による議題によって後世の記録に残るほどの大紛糾が発生したという。
何の気なく書かれた一通の手紙が齎した影響と、その結果如何なる事態を発生させたのか――。
それを当人たちが知るのは、もう少し先の話。




