6:私が君の手を取ろう
(8/25 全面改稿させていただきました)
* * *
それからやっぱり気まずくて、何も話さないどころか、目も合わせないまま食事を取って、そのまま寝床に引っ込んでしまった。
今のところ客間なんていう立派なものはないので、私は自分の部屋をユーミに使ってもらい、研究用の書斎に毛布を持ち込んで寝起きしているのだけど。
ユーミは時折何かを言いたげに私の方を見ていたけれど、結局何も言わないまま、黙ったきりだ。
私も何を言うべきか出てこなくて、どうしようもないまま、時間だけが過ぎて行って。
彼女がどんな気持ちで、どんな考えで今の道を歩んでいるのか、私は知りようもない。
彼女が話しているのを聞いただけの私が勝手に決めつけたと言われたら、反論の余地など欠片もない。
「嫌われちゃったかな……考えるまでもないか」
ただ、ユーミが良い子で、とてもまっすぐにやるべきことをやろうとしていて。
それが、ただ使い潰されるのが嫌だった。
自分のエゴイズムだと言われれば返す言葉がない。
そもそも私は、彼女に協力を求めただけの、そういう関係でしかないんだから。
彼女の道を変えようというのなら――
そこまで考えたところで、小さなノックの音と、同じぐらい小さな声が聞こえた。
「……あの、起きてますか?」
「もちろん起きているよ、どうぞ」
寝巻代わりの単衣をまとっただけの姿で、遠慮がちにユーミが部屋に入ってくる。
そういえば初日に案内したくらいで、ほとんどこの部屋には入ったことがなかったかもしれない。
遠慮がちに、でも興味深々というように本棚に並ぶ本の群れを見まわしているから。
寝たまま迎えるのは思い切り非礼だから、私が体を起こしてどうぞと促すと、ユーミはぺたんとそのそばに座り込む。
そのまましばらく、お互いに何を言ったらいいのか、という沈黙。
ああもう、私が悪いのにこういうのは良くない! 年上が話してあげないと。
「あー、その、昼間はほんとごめんね。余計なことを言い過ぎたよ」
「い、いえっ! ボクも心配されるような戦い方をしてたのは、本当ですし……」
「それでも、勝手なことを言って言い逃げまでしたのは私だからさ」
「そ、そうかもしれませんけど……」
そんな風にお互いに謝りあって……どちらからともなく、吹き出して笑いだしてしまった。
ひとしきり笑いあって、ようやく落ち着いたユーミが、改めて私に向き直る。
「……アーミリアさんは、なんでそんなにボクを気にかけてくれるんです? 魔法の事とか、色々教えてくれますし……戦い方の事だって……」
確かに、この死の荒れ地の開拓の事だけ考えるなら、ユーミがどうであれ、私には関係ないと思う。
極論を言うなら、ユーミでなくたっていいんだ。
神殿やその他の大きな組織とのパイプになってくれれば良いんだから。
それが何で、と言われれば……。
「うーん……うまく言えないし、改めて考えると自分でもよくわからないんだけど……」
……強いて言えば。
本当に強いて言えば、なんだけれど……。
「……もったいないな、って思ったんだよ」
「もったいない、ですか?」
「うん、多分口に出しちゃえばただ、それだけの話なんだと思う。ユーミは凄くかわいいし、いい子だ、って思っているからさ」
「う、うぅー……」
言われ慣れてないのかな? もっと言ってあげたら悶えてしまいそうだし、そういう彼女を見たい、といういじめっ子的な気持ちが湧き出るんだけど、それはまあ後回しにさせてもらって。
「素直で才能もある。勉強だってこれまで偏って教え込まれてきただけで、頭が悪いわけではないと思うんだよね。ちょっと素直すぎて、誰かに騙されたりしないかって不安になるけど、それはいっぱい勉強して物事を知っていけば自然と何とかなっていくと思う」
「勉強苦手なのは本当なんですけど……」
「見たところ、興味がなかっただけだと思うけどね。私の話には普通についてきてるし。多分だけど、ユーミはなんにでもなれる子だと思うんだ」
「なんにでも、なれる……?」
……そうだ。
言葉にするために、心の中を整理していくと自然と見えてくる。
私はただ、この子が勿体ないと思っちゃったんだ。
「何にでもなれるのに、命を無理に燃やしてしまうようなことをさせているのが、我慢出来なかっただけなんだ。もちろん、ユーミが聖騎士として誰かを守りたい、魔物と戦う道を選ぶっていうなら、それは当然、それでいいと思う」
「駄目、っていうことでは、ないんですか?」
「もちろん、そうしたいって決めてその道に進むなら、それはとってもいいことだよ。応援する」
けれど、と言葉をつないで、想いを言葉にしていく。
「……魔物を倒すためだけの戦い方を、こんな歪なやり方を教え込んだっていうのが、どうしても許せないんだよ。ユーミはもっともっと、多くの道を、可能性を選べる子なのに」
「ボクに、そんな可能性が……あるんでしょうか」
「あるさ、ユーミはまだ成人したばかりだろう?」
この国の成人っていうと15歳。私だってその年齢になったときは魔術の学園に入ることが決まった年齢で、色々考えて、それでもあの街に帰ることを選んで今の道に進んだんだから。
私が選ばなかっただけで、きっと他にも、いろんな道があったはずなんだ。
「ボク、13ですけど」
は?
聞こえてきた言葉に、額に青筋が立ったのが自分でもわかる。
……じゅうさん? 成人の二年前? そんな年端のいかない子を? 他の選択肢とか全部潰して? 才能があるからって? ……はい?
「……本当に?」
「本当ですよぅ……この前誕生日を迎えたばっかりですし。実は大人になったらアーミリアさんみたいな背が高くておっぱい大きくて女の人らしい綺麗な人になりたいなって――」
なんかユーミがもじもじ照れててめっちゃ可愛いんだけどそれは今んとこ脇に置く!
――ふ。
ふふふふふふふふふふふふ……よくわかった。よくわかったよ大地の神殿。お前らは今から私の敵だ。
いや全部が全部敵とは言わないけど少なくともこの子を育てた関係者は私の敵だ!
色々言い分はあるんだろうけどたった今からそう決めた!
そんな内心がにじみ出ていたんだろう、ちょっと引き気味だったユーミを手招きする。
何だろうと思っていたっぽいユーミも、なんどか繰り返すとおとなしく私のそばに近づいてくる。
怒ってないよー大丈夫だよー少なくとも君に怒ってるんじゃないから。
「よし、決めた」
「ふわぁああああああああ!?」
ユーミを引き寄せて抱きしめながら、宣言する。
なんか小動物か何かのような悲鳴が上がっているけど拒否されていないから良しとする。
「……もし君が良かったら、私がユーミの先生になるよ」
「……せん……せい……?」
「うん、嫌だったら良いんだけど、せっかく手伝ってくれるって言うのに恩の一つも返せないのは不義理にも程があるってものだからね」
真っ赤になって、ほわんとした顔で見上げてくるユーミに、頷きを返す。
「私が教えられることは全部、君に教える。君が何になりたいと思っても叶えられるように」
「…………」
「これが、私が君に渡せる代価だ」
「私が君の手を取ろう。いつか君が望んだ時、何処にでも行けるように。……私と一緒に、来てくれないか?」
答えは返ってこなかった。
ただ……ぎゅっと抱き返してきながら、こくり、と伝わって――。
第一エピソード終了。
次からは別のお話となります。




