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死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――出会う二人――
4/28

3:わたしが、やりたいんだよ。

(8/25 全面改稿させていただきました)

「――私と一緒に、ここを拓いてみないか?」


 その誘いが、何故だか心に刺さった気がした。

 理由は、よく解らないのだけれども……ただ、まっすぐ伸ばされた掌が、ボクのことを強く惹きつけていて。

 ボクを見つめる紅い目も、迷いなんて欠片もなく、真剣な光を宿していた。

 その目に吸い込まれそうで、なんだか目が離せなくなった。

 どうしたら良いかわからないままに、でもその目をずっと見ていたくなって――慌てて目をそらす。

 何だか、顔が熱い。何でかわからないけれど恥ずかしくて。


「……少し……考えさせて貰って良いですか」

「そりゃ構わない。何だったらもうちょっとで私の家だし、そこも見ていくかい? 考える材料程度にはなるだろうし」


 当然のように頷いてくれる。

 何も考えないで殴りかかってしまったボク相手に、それでも隠すようなことは無いよと、開けっぴろげにボクを招き入れて。


「良いんですか?」

「見られて困るものは何もないからね。……あ、冒険者時代に手に入れた品を仕舞っている納戸はあんまり近づかないで欲しいけどね」


 見ても構わないけど危なくないわけじゃないから。

 古代の遺物は使い方が解らないと、思わぬ事故を引き起こす物も多い。

 それが何かは聞かれれば逐一説明するから、そこは勘弁してほしい――。


 そう言われて、確かにそれは仕方ないと思うので、頷いてわかりました、と伝える。


「じゃあ、馬車に乗ってくれ。ここまでくれば歩いても行ける距離だけど、見た感じちょっと疲れてるっぽいからね」


 色々衝撃的な出来事や話があって忘れかけていたけれど、亜竜と戦った時の疲れが体の芯に重く残っていたのを思い出す。

 亜竜は無事倒せたから良いけれど、ボクの戦い方は身体に負担をかけるもの。

 さっきのように気を抜いてしまえばその隙を突かれないとも限らないから、まだまだ修行が足りないんだ、と自分に言い聞かせながら、馬車の荷台で休ませてもらうことにした。


 馬車の荷台で勧められるままに横になり、目を閉じる。

 瞼の裏に、まっすぐボクを求めたアーミリアさんの瞳と笑顔が、強く焼き付いていた。

 それを思い出すだけで、何だか胸が高鳴って。


 ……何でこんなことを思ってしまうんだろう。

 この人は、つい何日か前に知り合っただけの……何も知らない人なのに。


 何も知らないのに、何でボクをあんな目で見て、あんなことを言ったんだろう。

 自分の目的に必要だから、ボクを求めた……多分、それは事実。

 ボクがまだ子供だから、利用しやすいと思ったから?

 それだけなのに、あんなまっすぐな目をしてくれた。


 ……よく、わからない。


 解らない。こんな気持ちは、感じたことが無くって……。


    * * *


「さて、ここが今の私の住まいだよ。辛うじて残っていた家を手直ししただけだから、狭いのは許してくれ」


 そうして案内されたのは、元は廃屋だった、という感じの家。

 死の荒れ地の中心となっている廃墟の街からは離れた場所に建てられていて、使えそうな家があったのが一番大きな理由だけれど、これ以上近寄ると死の荒れ野の者たちが寄り集まって来て襲われる、という事情もあるとのこと。


「さっきの亜竜たちみたいなのが出てくるんですね?」

「流石にあれは一月に一度くらいの大物だね」

「一月に一度は出るんですか……」


 聞きしに勝るというか、物凄い場所だと思う。

 半分感心、半分脅威を感じながら、アーミリアさんに続いてドアをくぐる。

 そこでボクたちを迎えたのは……


「あぁ、おかえりなさぁい! 買い出しありがとうございますねぇ」


 と、何だかのんびりした口調で挨拶をしてくれる、女中服……メイド服って言うんだっけな、とにかくそういう服を来た、柔らかい印象の女の人だった。

 ……半透明だったけれど。


「ご、幽霊(ゴースト)、ですか!?」

「はいぃ、ゴーストのノエルと申します。お客様ですねぇ!」


 わぁい、とでも内心の声がしそうなくらいの嬉しそうな笑顔。

 怨念の類なんて全然感じない、ただただボクが来たことが嬉しいという笑顔が暖かかった。

 ノエルさんはもともとこの辺りの家で働いていたメイドさんで、アーミリアさんの身の回りの世話や、不在の時の家の管理なんかをやっているとのことだった。


「……本当に死霊術師なんですね」

「“旦那”を使役してるのを見ておいて、まだ疑ってたの?」

「そういうわけじゃないですけど、何だかその、実感がようやく……」


 目の前で半透明でふわふわ移動するノエルさんが、お茶の用意をしているのを見ていると……本当に死霊術師の家にお邪魔しているんだな、という気にもなってくる。

 流れる穏やかな空気は、とてもそうには思えないんだけど。

 よく見たら外で何か骸骨が鍬を持って歩いている……農作業、してるんだ……。


 神殿では邪悪そのもののように言われていたから、こんなおもてなしは予想外というか、何というか。

 死霊術師と言えば魂の尊厳を犯す存在だから、それ自体は当然だと思うのだけど……。


「それで」


 ノエルさんがお茶に続き、お茶菓子まで用意してくれながら、アーミリアさんに何だか凄く良い笑顔を向ける。柔らかいんだけど、圧があるというかそういう笑顔。


「どこからこんな女の子を攫っていらしたんですかぁ?」

「……!!!???」


 アーミリアさんの口元から凄い音がした。

 わぁ、お茶で霧って作れるんだなぁ。


「ひひひひ人聞きが悪いこと言わないでくれるかなぁ!? この子はユーミちゃんっていう大地の神殿の聖騎士さん! 断じて攫うとかそういうことはしてないっ!」

「アーミリアさん、どもってますけど」

「そりゃ私だっていきなりで驚く時だってあるよ!?」


 うふふ、とノエルさんが笑っている。


「そうですかぁ? アーミリアさんって日ごろ、身近に置くなら女の子の方が良いとか言ってませんでしたぁ?」

「そういう誤解を招くようなこと言わないの! 確かに可愛くないより可愛いほうがいいけどさ! それ言ったら“旦那”は男だし、外で働いてるスケルトンの人たちだってほとんどは男の人だよ!?」


 ぶんぶんと振り回す指の先には、外で作業していた骸骨さんが、物凄くショックを受けましたー、という仕草でこっちを見ていた。……明らかにわざとらしかったんだけど。


「ほらそこもショックを受けたふりしない! ……安心してねユーミ、私は可愛いものが好きなだけだから。誰も彼もをそういう目で見ているわけじゃないからね?」

「えぇ……じゃあボクは可愛くないってことですか……?」

「そういう話でもないから!? ユーミは可愛いと思うよ!?」


 慌てるアーミリアさんがおかしくて、ノエルさんと一緒にからかい半分で言っていると、アーミリアさんが椅子の上で膝を抱えていじけてしまう。

 それはちょっと悪いことをしちゃったな、と謝ったんだけど。


 ……ずっとここにいても良いかも……。


 そんな気持ちになってしまったボクがいるのも、否定は出来なかった。

 こんな暖かい場所は、久しぶりだったから。


    * * *


「さて、改めて説明をさせてもらえればと思うんだけど」


 そんな切り出しから、改めてこの場所について聞かせてもらうことになった。

 アーミリアさんの言葉によると、やはりこの土地の開拓に必要になるのは、浄化の方法なのだという。


「結局のところ、陣取りみたいなものなんだよね。こっちは土地を少しずつ浄化して、人が住める土地を広げていくことを考えている。怨念の側は生者が近づいたりすると、仲間にしようとして襲い掛かってくる」


 そう言いながらアーミリアさんがテーブルに広げたのは、この辺り一帯の地図。

 最近の王国の地図では死の荒れ地は空白になっているから、それが詳しく書き込んであるということはお手製の地図か、戦役以前の地図ってことになる。


「邪竜の怨念の中心と思われるのは、この、もともとは街の中央広場だった場所」


 地図の中心の開けた場所、そこに描かれた竜を示すシンボル。

 ボクが聞いているお話の通りなら、この場所で太陽神の勇者と邪竜が戦い、最後には邪竜の眷属もろとも焼き払うことで戦いを終わらせた、ということになっている。


「ここを中心にして湧いてくるアンデッドや魔物は結局、死の荒れ野が怨念に汚染されているから出てくると言っていいから、それを人が住めるようにするには――」

「街なんかには魔物除けの神殿が置かれて、魔物が出ないように祈祷で保っていますから、それと同じように、清浄な土地を広げていって……っていうことですか?」

「うん、流石聖騎士さんは理解が早くて助かる。もう一つの方法もあると言えばあるんだけど、そっちはちょっと望み薄でね」


 溜息。それが出来れば苦労しないんだけど、という言葉に、ボクはそんな方法があるんだろうか、と聞き返してみる。


「もう一つ、というと?」

「汚染の核である邪竜の怨念を浄化する。それが出来れば自然と今よりはマシになっていくはずなんだけど……」

「確かに、それが出来れば苦労しない、ですね……」

「入り込むこと自体は不可能じゃないんだけどね、ほんの数分くらいのものさ。それを過ぎると周囲の連中が集まって来て物量に押し潰される」


 それを何度も繰り返して、今の場所なら何とか住むことが出来て、拠点にすることが出来ることを割り出したと聞いて、素直に感心してしまった。


 でも、命を懸けてそこまでする必要があるんだろうか、と思いもする。

 確かに、この土地はいつか浄化しないといけないと、ボクも思う。


 けれどそれは、アーミリアさんでなくても良いはずだ。

 今でなくてもいいはずだ。


「……それでも、私がやりたいんだよ」


 ボクの疑問は、顔に出てしまっていたんだろう。

 アーミリアさんが、窓の向こう……地図から考えると、街のあった場所、その中心を遠く見つめて呟く。


「誰かがやればいいなら、それが私だって良いはずさ。いつかやれば良いっていうなら、今からだって良いはずなんだ」


 ただ、他の人は他の人のやるべきことがあって、その「いつか」は先に延ばされてしまう。

 「いつか」が来るのが、自分の寿命が尽きた後になってしまうかも知れない。


 それは、嫌なのだと。

 ただ、たった、それだけ。


 そう呟くアーミリアさんの横顔は、とても綺麗だった。

 それは、ボクに手を伸ばして、一緒にやろうと言った時の、その顔と、瞳だった。


 息が止まりそうだった。

 とてもとても綺麗で、手を伸ばして掴まえたいと思ってしまうような、夢を見る人の瞳。

 夢を夢で終わらせない為に、走っている心の輝き。

 それは、ボクの胸を捕らえて、離そうとしなかった。



 ……の、だけど。


「よく考えなくても、無理無茶無謀の三拍子ですよねぇ?」

「いまちょっといいシーンだったのに、何でノエルはそういうこと言うかなぁ」

「だってですよ、それで私たちまで巻き込んでいるんですから」


 こほんという咳払いと共に、ノエルさんが言う。

 言っていることは厳しいのに、凄く柔らかい顔で

 

「だから、凄く我が儘なんですよ、っお話だと思うんですけど……ユーミさん、よろしいですかぁ? この方についていくととっても苦労すると思いますから、それはちゃんと言っておかないと」


 流石にひどくない? とノエルさんに抗議するアーミリアさん。ひどくないですよ、と窓の外の骸骨さんたちがアピールしていたのは見ないふりをしてあげた方が良いかも知れない。

 その抗議を右から左に受け流しながら、ノエルさんはボクに向き直る。


「……わたし達は、あの街に帰りたい、っていう目的があるから、お手伝いをしているんです」


 ノエルさんは戦えるわけではないから、出来ることをやるだけだけれども。

 他の骸骨さんたちも、それぞれ目的……未練があるからだと。


「そうだね。……私たちはあの場所に帰りたいから、無理でも無茶でもやると決めた。けれど、ユーミはそれに巻き込まれる人ってことになる」


 アーミリアさんもボクの方を向いて、頷く。


「もしこれが成功すれば、ユーミには功績になるとは思う。けれどそれはあくまで成功すればの話。手伝ってくれる報酬なんてこれっぽっちも出せるわけじゃない」


 私の我儘に突き合わせるだけだから――それは嘘でも何でもないと。

 けれど、それでも良いと思ってくれるなら。

 そう問われた時、ボクの心は、自分でも驚くくらい自然に一つの答えを出していた。


 理由はよく解らない。きっと理由は一つじゃない。

 聖騎士としての使命。誰かのためになりたいという気持ち。

 挙げていけば沢山出るし、きっとそのどれもそれだけでは理由にならなくて、やらなくていい理由もきっと、同じくらいあって。


 それでも、ボクは……頷いていた。


「やります……ボクは、ここにいたい、って思いましたから」


 その答えが間違いなく、ボクの中にあったから。

 この人たちと、一緒にいて、この続きを見てみたいという気持ち。

 他にも言葉にできない、アーミリアさんを見ているだけで感じる、胸が高鳴る気持ち。

 きっと何もかもが大変で、苦労とか沢山あるんだろうけれど――



 ボクが、伸ばされた手を握り返すには、十分な理由だと思ったんだ。



    * * *



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