表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――あたらしい住人と、流れる日常。――
23/28

21:大地の神殿からの来訪者と、新しい依頼。

親バカ襲来。

「みいいいいいいいいいとぉおおおおおおおおおおめんぞおおおおおおおおお!!」


 …………何?


「貴様かっ! きぃぃぃさぁぁぁむぅぅぅぅあぁぁぁぁかぁぁぁぁぁ!!」


 だから何!?

 いきなりやってきたご老人に襟首捕まれて、がっくんがっくん揺らされてるんだけど!?

 ていうか力つっよい!? 振りほどきも抵抗も無理!?


「ちょっとちょっとちょっと!? 全然意味わかんない! どういうこと!? というかあなた誰!?」


 私が叫んで抗議するのは、悪くないと思うんだよ?

 いや向こうがこっちを害する気なら、最初に間合いを詰められた時点で詰みで、今更どうあがいても仕方ないだろうと言われればそれまでなんだけどさ。

 でもほんと、何で?

 こういうことされる覚えなんてないんだけど??


「この期に及んでとぼけるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ああああああああ、お怒りがどんどん強くなる……!

 ヤバい、揺らされ過ぎてちょっと、いやかなり気持ち悪いんですがああああ……!


「お、お待ちください高位司教(ハイ・ビショップ)様!? それでは話し合いにも事情調査にもなりませぬ……!」

「ええい止めるな! 私の目が黒いうちは断じて、断じて認めんぞぉぉぉぉ!!」


 あ、誰かが止めに入った。

 そろそろ止めてくれないと色々まずいもの出しそうだから助かる。具体的にはさっき食べた朝食とか――!

 あ、やば、これだめ、ちょっとやめ……



「何やってるんですか司教様のばかああああああああああ!!」



 最終的に、阻止限界点ギリギリのところで割って入ったユーミの怒声が、決着をつけてくれた。

 よかった、間に合って……。



    * * *



「ええと、その……まず、申し訳ございませんでした……。ほら、司教様も」

「私は悪いことをしたとは思っておらん」

「ですからそうやって頑なだと話がこじれるってここに来る前に申し上げましたよね!? 解っているいるってお答えになりましたけど全然解ってないじゃないですか!?」


 すったもんだあった挙句に、とにもかくにも話を聞こうと場所を移したのは、新築したばかりの居間。

 皆で食事をしたり、お客さんを迎えることもあるだろうからと大きめに作ったんだけど、早速にして役に立っているようで何より。

 前の家だとこの人数は入らなかっただろうからなぁ……。


 この場にいるのは私とユーミ、それと先ほど私の襟首掴んでぶん回してくれたご老人と、そのご老人を止めに入ってくれた女の人。

 二人ともユーミの知り合いというか、大地の神殿の人だということなんだけど、すっかりユーミは警戒態勢に入っていて、私の腕にしがみついて二人を威嚇している。

 正確にはご老人を、だけど。


「え、えーと……改めて自己紹介をさせて頂ければと思うのですが」


 なんだかすごく申し訳なさそうに、女の人……改めて見てみると、大地の神殿の法衣を着ている若い人で、焦げ茶色の髪を頭の後ろで束ねる、いわゆる馬の尾(ポニーテール)にした真面目そうな感じの、好感の持てそうな人なんだけど、ユーミとご老人の様子に苦笑いしながら、折り目正しく頭を下げて挨拶をしてくる。


「私はクリスティン・ヒューバートと申しまして、大地の神殿の神官戦士を務めております。そしてこちらが……」


 神官戦士というのは確か、聖騎士と同じく神殿内の位階の一つで、神殿の諸々の武方面を担当する人たちであり、加護の力と戦闘技術を両立させていて、対外的に何かあると出てくるのはこの人たち。

 ここから自分の力を高めて、魔物を狩るなどの任務を単独で果たせるようになると、ユーミのような聖騎士に位階が上がるとの事。


 単独で任務には就かない人たちなので、今も数人の神官と兵士が帯同していて、彼女はそのまとめ役というか、隊長的な立場なのだそうだ。

 今ここにいない人たちは外で待機しているのだけど、旅の疲れもあるだろうしということで、ノエルにおもてなしをお願いしている。ゴーストが出てきたことには驚いていたけれど、まあ死霊術師の住処にわざわざ来たんだから、そのくらいは我慢してもらおう。

 ナハトもついてもらっているし、何かあっても対応は可能だろう。


「こちらが、大地の神殿で高位司教を務めておられ、先代の聖騎士長でもあられる……」

「ガル・グレオウンだ」


 クリスティンの隣のご老人が、不機嫌そうに名乗る。

 私よりも背が高い人なんだけど横幅もしっかりあって、多分今でも鍛錬を欠かしていないんだろうな、という印象が間違いなく正しいのが判る、巌のような、という表現がしっくりくる御仁。

 短く刈り込んだ白髪、への字に結んだ口元にも厳しさがある人なんだけど、それよりも頼もしさが先に立つのはやっぱり、積み重ねた経験というやつなんだろう。


 それに、神殿で高位司教の位階にあるってのはそれなりに人格も要求されるだろうし、問答無用で他人の襟首掴んで振り回す人には思えないんだけどなぁ……。


「え……ええとですね。大地の神殿の方ということはユーミのお知り合いの方だと思うんですが、本日はどのようなご用件で……?」


 少なくとも、最初に危惧していたような討伐対象になった、ってことではないと思うんだけど。

 討伐対象になっていたらあんなもんじゃすまないだろうし。


「…………」

「…………」


 ガルさんは口をへの字にしたまま、私を睨んでいて。

 そんなガルさんをユーミが睨んで、お互い無言。

 私の腕を必死につかんでいるユーミが子猫みたいでめっちゃ可愛いと思うんですが。

 そうクリスティンさんに目で訴えたら頷いてくれた。うん、多分この人は味方だ。


「その、このままですと話が進まないと思いますので、私が説明させていただきますが」


 ほんとありがたいですクリスティンさん。

 後で聞いたところによると、この人はガルさんの秘書みたいなこともやっているんだそうで、今回も一人で殴りこみに行く、と大騒ぎしたガルさんを必死になだめて、各方面に頭を下げてブレーキ役として来てくれたとの事。

 ……大変だなぁ。


「先日、こちらの開拓の援助をする、という報告書が聖騎士ユーミから届きまして。それ自体は問題が無いのですけれども、死霊術師の方であるということと、この土地の問題もあるということで、神殿の方としてもそれをそのまま受け入れるわけにもいかない事情もございまして……」

「うん、そこは理解してる。あんまり大手を振って歩ける生業でもないからね。ユーミに報告書を出すように頼んだのも私だし」


 世間様に迷惑をかける気も無いけれど、だからと言ってそれを他人が信じてくれるかどうかは別の話だし、その辺りの緩和のためにユーミを引き込んだのも事実。

 いずれはこうして、神殿なりから調査とかは来ると思ってたんだけどね。


「ご理解いただけて幸いです。そして私どもが確認と、いくつかのお願いのために参上させていただいたのですが……」


 そしてクリスティンさんの視線が、めっちゃ苦笑いしながら隣の高位司教へ向く。


 まあそうだよね。普通その程度の任務に、こんな偉い人が出張るわけはない。

 かと言って私の討伐って話でもなさそう。じゃあ何で、という視線が集まったのを感じて、重々しく口が開かれる。


「……認めんからな」


 だから、何を……?

 私が内心で疑問符を飛ばしまくっているので、業を煮やしたんだろうか、大きな音を立てて平手がテーブルにたたきつけられる。


「私は! 同棲など! 認められんと言っているんだ!!」


 ……はい?


「そもそもユーミ嬢を聖騎士として単独の任務に就かせることすら私は反対なのだ! それどころかまだ成人にも達していない身で、同棲だと!? 許さん!」


 ……………………。


「ユーミ嬢のような若く有望な者を聖騎士として、しかもあのような禁じ手まがいの戦い方を身に付けさせ! それで聖騎士であると叙勲するなど言語道断! 彼女は王都の神殿でもっと華々しい扱い方をするべきなのだ!」


 あ、うん、そこはわかる。


「であるというのに……価値がないとは断じて言わないが、このような僻地で同棲だと!? まだ早いわ! 年齢を考えなさい! 絶対に許さんからな!!」


 一気にまくしたてられた。

 あー……うん。……性別は良いの?

 どうしようかな、と考えてながら答える前に、ユーミが怒りだした。


「ボクは絶対にここにいるって決めました! 司教様が何と言ってもです! アーミリアさんは凄く優しいし、ボクにもとっても良くしてくれます! だからボクが自分でそう決めたんです!」


 ふしゃー、と猫が威嚇するようでやっぱりかわいい。うん。

 いや、そうじゃなくって……えーと……?


「解ってくれないんだったら良いです! 司教様のバカ! だいっきらいです!!」

「……ぐはっ!?」


 あっ……と止める間もなく、ユーミは外に駆け出して行ってしまった。

 残されたのは私とクリスティンさん、そして大嫌いと叩き込まれて椅子から崩れ落ちた約一名。



    * * *



「……起こさなくて良いの?」

「大丈夫です、そのうち復帰しますから」


 クリスティンさん……そう呼ぼうとしたらクリスで良いというので、ありがたくそう呼ばせてもらうけれども……その前に出したカップにお茶のお代わりを注ぎながら、かなりのダメージを受けた様子で、床に寝転がるガルさんをどうしたものかと聞くと……返ってきたのはそのような回答。

 地味にクリスも怒っているらしい。


「それで、その……問題の片方のことなんですが」

「ああ、こっちの素行調査の件でしょ。それは全然気にしないし、見せて困るものも無いから好きにしてくれて大丈夫。邪魔されるのは困るけどさ」


 そっちの方は良い。

 元から予想していたことだし。

 ユーミの時と同じように、危険物倉庫に関してだけはこちらの立ち合いで、ということにさせてもらうというのも、問題なく受け入れてもらった。

 で、あとは……。


「それだけではなくてですね。神殿の方でも、やはり聖騎士ユーミの報告書だけでは足りないという意見があるのも……事実ではありまして」

「だから調査に来てもらったのは良いとして、だとすると……」

「……実績、という部分だな。神殿にとって敵対姿勢を取らぬのか、あるいはこの死の荒れ地を下手に刺激して、魔物の氾濫(スタンピード)を引き起こさぬかどうか」


 いつの間にか復帰したガル上級司教が、重々しい口調で説明してくれる。


 魔物の氾濫、スタンピード。

 これは普通の動物や魔物でも発生する事態なのだけど、群れや生態系に下手に手を出したり、強大な存在が発生したりすると、そこから逃亡したり反撃を行うために、群れそのものが暴走状態となってしまう場合がある。

 これは単体でも脅威だけど、周辺の別の群れがそれに追われ、連鎖的に恐慌状態に陥り、それが更に……ということもあったりする。


 死の荒れ地の魔物や不死者の場合は反撃型と言えば良いか。

 あまり大規模な勢力で干渉したりすると、それに反応して大規模な魔物と不死者の発生と暴走が発生してしまうんだよね。

 これが私が少しずつの開拓を手段として選んだ、最大の理由だったりする。


 無論、暴走を受け止めながら、その原因となる邪竜の怨念まで消滅させられれば、理論的には浄化も可能。

 けれど、死の荒れ地中心部は完全に怨念の領域になっているうえ、根本からの浄化を可能とするほどの戦力も無いことが、現状の放棄と隔離の理由。

 それほど上手くはいかないんだよね。


「具体的には、どうすれば良いのかな?」

「神殿が抱えている案件がある。それに対し協力を依頼したいのだ。その結果を以て、貴女の証明に代える、という話だ。やってもらえるだろうか」


 腕を組みながら話すガルさんは重厚という言葉そのもので、神殿内部の信頼とかもあるんだろうな、と自然に思える人だ。

 その言葉に嘘は感じられないし、依頼の内容もおかしいところはない。

 むしろその依頼だけで良しとしてくれる辺りは、彼自身の信用にも拠って立つところもあるんだろう。

 彼が認めたなら良し、という。


 ……さっきの取り乱しようは何かの幻だったんだろうか、と考えてしまうのも仕方ないと思うんだよなぁ……それくらいの変わりっぷり。


「私一人で行けと?」

「そうは言わん。見届けの為にも、支援のためにも、神殿から聖騎士ユーミも含めて何名か同行させて頂く。手近なところでは、こちらのクリスティンだな」

「そういうことでして、よろしくお願いできればと」


 こちらとしては否やは無い。

 依頼遂行のためここを離れている間は、ガルさんを初めとした大地の神殿の戦力が、ここの守備に当たるとのこと。

 家の方にはナハトとリリウム、あとノエルとスケルトン達を残しておくよ、という点も問題なく承諾してもらったし、そこまで込みで承諾の返事をさせてもらった。


「そこまでは良いんだけど……あー……」


 すぐに出ろ、という話でもないそうなので、一日二日は余裕を作ってもらうとして。


「ちょっとお話させてもらえないかな」


 ここからは、ごくごく個人的な話をさせてもらおう。

 具体的に言うと、首根っこ掴まれて振り回された件。こっちにも思うところがあるんだからさ。



「彼女の親代わりを自任しているっぽい、あなたとさ」



 こっちの言いたいことも、言わせてもらおう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ