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死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――あたらしい住人と、流れる日常。――
22/28

20:ある日の光景。

 ナハトがアーミリアの家を建てる合間に、ユーミに稽古をつけるようになってしばらく。

 家の方は問題なく進んでいるんだけど、対集団戦の稽古の方はと言えば――


「今日は少し、死の荒れ地の奥の方まで行こうと思う」

「はいっ!」


 ……割とスパルタだった。

 いや、やってる本人が乗り気なのでちょっと違うのかもしれないけど。


 教えている本人曰く、


「専用の仕掛けを作っても良いんだが、それだと仕掛けの対処だけが体に染み付く場合もあって、善し悪しだからな。それならば丁度いい訓練場がそばにある、利用しない手はないだろう」


 だそうで。

 実際、奥……もとの街の中心に近づいて行けば行くほど、魔物やアンデッドの襲来数が跳ね上がっていくので、無作為に多数を相手にした経験を積むにはちょうどいいのだろう。

 というか仕掛けが作れちゃうのか。本人は余技とは言っていたけど、どこまで作れるのやら。

 今度一度聞いておいた方がいいかもしれない。


 ユーミに話を戻すけれど、最初の方は私との模擬戦の時と同じで、不用意に相手の集団に突っ込んだり、一方に意識を集中しすぎて背後から襲われたりもしていたのだけど、自分の位置取りによって死角を減らすということを身に付けてからは、かなり良くなっているのが見て取れる。


 四方を敵に囲まれたとして、囲まれたまま戦うのはなかなか難しい。

 囲まれたまま周囲を薙ぎ払えれば良いのだろうけど、そんな事が出来るのはごくごく一握りだし、基礎を身に付けるかどうか、という段階で考えることじゃない。


 だからどうするのか、と言えば囲まれた時点、あるいはそうなりそうな前に包囲を突破して、一定の方向から敵と相対することを徹底するわけだ。

 ナハトのように足の速さに自信があると、まず相手から走って距離を取り、追いついてきた者から順に仕留め、また走って距離を離しては追いついてきたものを、という方法を取ることもあるそうだ。


 つまるところ、その要諦は……数の多い相手は分断して、各個撃破するか、少なくとも囲まれないようにすること。

 背後からの不意打ちが無いだけで、かなり戦いはやりやすくなる。


 ただこれはどうしても時間が掛かる戦い方だから、今のユーミの様に消耗前提で大物狩りをする戦法だとどうしても息切れを起こす。

 なので、この考え方が身に着いた時点で、ある程度の力を長く保ち続ける、という方法も必要になるのは当然のこと。

 次の課題はそこだろうということで、ナハトとも考えは一致している。


 気長にというわけではないけれども、ことが自分や他の人の命にかかわること。

 きちんと身に着くようにやってあげられればな、とは思う。



    * * *



「さてと、私は私でやることやっちゃいますかね……」


 で、その間私が何をしているかというと、ナハトの作った設計図を基にスケルトン達に指示を出し、家を組み上げて行っているのだけど。

 大体は大まかな工程を確認すればスケルトン達が頑張ってくれるので、実はあんまりやることは無かったりする。

 じゃあ暇かというとそんなことは無くて、実は結構忙しい。


 何をやっているか?


 端的に言えば、畑づくりなんだよね。

 住む人数が増えたのもあるけれど、いちいち食料を買い込むのはやっぱり面倒くさい。

 貯蓄はまだまだ余裕があるけど、だからと言って無駄遣いばかりするのもどうかと思う。


 これまでも小さな畑はあって、ちょっとした作物は作っていたのだけど、これを機に本格的にやってみよう、野菜や穀物が自給自足出来ればな、ってね。

 もちろん必要な全部を確保できるわけはないので、まあ基本的な小麦とか、そういうものを育てられたら良いな、というところ。

 ただ、それはそれで結構大きな農地がいるんで、その分はどうしたってこっちの生活領域を広げる……つまりは死の荒れ地の開拓が必要になるんだけどさ。


 形としては、新しく建てている家を中心として防壁や柵なんかの線引きをして、荒れ地からの襲撃を防ぎつつ、その線の内側で畑を作っていく、って感じかな。

 幸いなことにこの辺りには川もあるし、井戸が掘れるくらいには地下水もあるんで、作物を育てたりする分の水利には恵まれている。


 ゆくゆくは魔物除けの祈祷所を建てて、土地にしみ込んだ怨念を浄化して、そこを起点にまたこっちの領域を広げる、という流れにしていければな、という感じかな。


 そんなことをやっているときに、リリウムがひょっこり顔を出して、すごく珍しそうな顔をして畑を眺めていた。

 どうしたのかと聞いてみると、


「……おはな……き……ない、ね……?」

「あー……種はあるんだけどねー。まだちょっと育てる余裕が……」


 森の中に住むというアルラウネにとっては、やっぱり寂しい状況なんだろう。

 種なんかは前々から買いそろえてたのもあるし、エシルゥアや長老さんから貰った苗なんかもある。

 だから出来ないわけじゃないんだけど、どうしても必要性のある作物を優先させてしまっているのが現状。

 だから――


「……やってみる?」

「……いいの……?」

「もちろん。丁度家建ててるところの近くに空いている場所があるから、そこで好きなようにやってみればいいよ」

「ほんと……!」


 リリウムの顔がぱぁっと明るくなる。

 本当は納屋とか離れとか建てる予定の場所なんだけど、そこはまあ、ナハトと相談して何とかすればいいと思う。

 あんまり行き当たりばったりは良くないんだけど、これくらいの融通は良いんじゃないかな。

 基本、私の家だし。

 アルラウネが住処となる森を作るならどうするんだろう、という興味もあるんだよね。


 この辺りはあとで、エシルゥアがまた来た時に相談してみよう。

 エルフが独立して新しい枝族を作る場合、どうするのか。

 概ねは新しい森を探すとは聞いたことがあるのだけど、それを作るということならどうするのか。

 なかなか興味のある事柄じゃないだろうか。


 さっそく小さなスコップと、種の入った袋を手に、第一歩を踏み出すリリウムを見ながら、私は何だか、すごく楽しい気分だった。



    * * *



「楽しいっていうのは、大事なことだって思うんですよねぇ」


 スープの鍋をかき回しながら、ノエルが凄く楽しそうに笑う。

 食事については古い方の家の厨房がまだ使えるので、そちらで作って食べる形。

 いつもはユーミやリリウムが手伝っているのだけど、今日はたまたま二人ともやることがあって、私が久々に手伝いをしていたりする。


 二人が何をやっているかというと、人数が増えても寝る場所は相変わらず足りないんで、私とユーミが変わりばんこにベットを使って、そうでない人はナハトが急ごしらえ……と言っても十分寝心地の良い、急造の寝具を使っているのだけど、その手入れを二人でやっている。

 近くの街から持ってきた藁とシーツ、あと毛布だけでも案外快適に寝れるんだよなぁ。冒険者時代を思い出す。

 ユーミもナハトも旅には慣れているので、こういうことには抵抗は無いし、リリウムなんかは草の上なら大丈夫とか。流石アルラウネ。


「皆さんがここに来るまでのアーミリアさんはぁ、結構自分のことはどうでもいいと言いますかぁ、あれこれと手を抜くことが多かったですよねぇ?」

「そ、それは仕方ないじゃないか。こういう場所に客が来るとか思ってなかったし。一人暮らしだから困るのは私だけなんだし……」

「それとお料理とか掃除が出来ないこととは別ですよぉ」


 ちゃんとやった方がいいですよ、とノエルに叱られてしまった。

 ノエルがいるから大丈夫、と家のことは何かと頼っているのだけど、彼女がここに来る前はというと……まあその、雑というかなんというか。

 あんまり他人様には見せられない生活をしていたことは確かではある。


「――というよりも、この土地を何とかすることばっかり考えて、それだけになっていたっていうのは、あったと思うんですよぉ?」


 う。

 そこもちょっと反論しがたい。

 魔術の学院にいた時もそうだったし、冒険者をやっていた時もそう。

 子供の時に決めた目標があって、ずっとそれに向かって走り続けてきた。


 それこそ、昔馴染みのジェレミアが言うみたいに、それ以外のことは取りこぼしてきていた自覚はある。

 それでも、いや……だからこそ掴んできたものはあるし、それを教えられる相手も、今はいる。


 それは、素直にうれしいことなんだよね。

 ノエルを手伝って、鍋に入れる野菜やキノコを刻みながら、思わず目が細くなってしまう。

 結婚したり、子供を産んで育てたことなんてないけれど、それでもあんな子を育てられるっていうのは、とても価値があることの様に思うんだ。

 もちろん彼女が拒んだり、不要というならそれ以上押し付ける気は無いけれども。


 ……あと、いつかの夢みたいなことはその……リリウムの力が暴走した結果の、気の迷い。

 気の迷いったら気の迷い……ってことにしておかないと。


「こっちの準備はおわったよ?」

「はぁい、こちらも下準備は終わりましたからぁ、あとはじーっくり煮込めば美味しくなりますよぉ」


 自分の担当を鍋に入れ、火加減を整えていると、ノエルが私の顔を覗き込んでくる。


「なに、どうしたの?」

「楽しいって、いいことですよねぇ。だって今、前よりもずっと、良い顔をしていらっしゃいますもの」

「……そういうものかな。自覚、あんまりないんだけど」

「少なくとも最初にお会いした時からは、とっても」

「……そっか」


 そう見えているなら――やっぱり、良いことなんだろう。



    * * *



 そんなこんなで日々は過ぎ、新しい家がそろそろ完成する、という頃になった。

 ユーミの訓練も順調で、私が率いる幽霊兵との模擬戦もかなり上手くいくようになり、今は持久戦の訓練に移っていたりする。


 これに関しては、彼女の戦闘教義自体が肉体そのものを使うよりも、自分の身体に強化の加護を掛けることで力や速度を生むことが中心になっている、という前提を踏まえての話となる。

 そうでなければ成人前の女の子が、亜竜を一撃で倒す力など出せるわけはないからね。

 それを踏まえて、その加護の力を一度に使い切るのではなく、長く維持し、効率的に戦うことを前提としたやり方を身に付けることが目的。


 そのためには、無駄のない戦い方をどう身に付けるかが大事になってくるんだけど、それを理解するようになれば自然と、私がどうやってユーミの攻撃を防いでいるか、というのが判ってくるんじゃないかと思っている。


 それと並行して、空いた時間にはリリウムと一緒になって、あれこれと勉強をするようにもなった。

 リリウムにこの辺りの常識やらを教えていくのが主な目的だったけど、その内容は神学くらいしか学んでこなかったユーミにとっては興味深い内容だったんだろう。

 本や地図を手に、これまでちょっとした合間に聞いてきたような話を、あれこれと教えていく時間が増えた。


 もちろん、実体験に勝るものはないし、あんまり詰め込んでも良いことはないから、あくまで基礎的な考え方とか知識を優先的に教えるようにしていっているんだけど。



 そんな昼下がり。


「種の様子、見てきますねっ!」

「いって……くるね……」


 朝ごはんを食べ終えたユーミとリリウムが、食後の祈りも早々に席を立つ。

 

 最初、種とか苗はそんな早くに育たないよ……と思いもしたんだけど、流石は植物を操る力を持つアルラウネと、大地の力、つまりは豊穣を司る聖騎士というべきか、既に植えた種から芽が出たり、苗が大きくなり始めているのは凄い。

 二人としても自分の手で何かを育てるということに興味津々で、時折やってくるエシルゥアの指導を受けながら頑張って育てているのが、すごく微笑ましい。


 そんな二人を見送って、ノエルに食器の後片付けをお願いし、ナハトはスケルトン達と一緒に最後の仕上げに行くというので、残った私は辺りの見廻りがてら、畑の様子を見に行ったのだけど。


「やぁ、なかなか良い畑ですな」

「あー……結構手を入れてますから……」


 畑の近くに、背の高いご老人がいて、こちらに挨拶をしてきた。

 畑を褒められたのだけど、思わず警戒をしてしまったのは仕方ないと言いたい。

 だってこの辺りには、通りすがりで来るような物好きはいない。


 王国の地図から消されかけているような場所なんだから、ここは。


「失礼ですが、一体どなたです……?」


 探るように声をかけていく。

 いやなになに、と軽く手を振るご老人。

 これだけ見ると、どこかの街の好々爺にしか見えないのだけど、それなら余計にこんなところにいるはずがないわけで……。


「ここに住んでいる死霊術師に用事がございましてな」

「用事、ですか?」


 私に要件?

 少なくともこっちにはこのご老人に見覚えは無いし――エルフの森の関係か、な?


「なるほど、貴女がその死霊術師ですか」


 ちょっ!?


「……名乗った覚えはないんだけどね?」

「なに、問うた時にほんの僅か、身構えましたからな。それをもとにカマを掛けただけの事」

「それ見切るのってどんな変態だよ……!」


 じり、と後ろに体重を掛けながら身構える。

 正直、ほんのわずかな反射の体動を見極める相手に、多少の小細工が意味を持つとは思えないんだけど。


「ともかく、要件をお聞きしましょうか? 出来れば名乗ってくれると――」


 その瞬間、ご老人の身体が一気に膨れ上がったように見えた。

 違う、これは……踏み込まれた!?


 一瞬で懐に入られて、反射的に《(シールド)》の魔法で防ごうとするけれど、それが間に合わず――。



「みいいいいいいいいいとぉおおおおおおおおおおめんぞおおおおおおおおお!!」



「…………!?」


 なんか叫ばれた。





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