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死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――出会う二人――
2/28

1:聖騎士、死霊術師に出会う。

(8/25 全面改稿させていただきました)

    * * *


 ある王国の辺境。

 寂れた街道を往く馬車が一台。


 このお話は、ここから始まる。


    * * *


 がたごと、がたごと。

 暖かい昼下がり。

 何だかすぐに眠くなってしまいそうな陽気。

 眠気晴らしに荷台で手足を伸ばすけれど、ぼんやりするのが心地いい。


「眠いんだったら寝てくれても構わないよ? 物騒な場所だけど、それでも何かあった時に居眠りされても困っちゃうからね」

「だ、大丈夫です! ちゃんと起きてますから!」


 馭者さんの笑い声で慌てて意識を引き戻す。

 別に怒っているわけではなさそうだけれど、それでも護衛として便乗させて貰っているわけだから、その務めが果たせないのは良くないと思う。

 何かあったらちゃんと起こしてあげるから、と言って貰えもするのだけど、それはそれで信頼ではなくて、子供扱いされている気がしてちょっと悲しいから。


 ……うう、そう思われても仕方ないんだけど。


 ボクの背の高さは普通の騎士さま達に比べたら頭一つ、いや二つ……最近ちょっと背が伸びたから辛うじて一つ半って言い張れるかな? ともかくそれくらい低いし、体つきも決してがっしりしている訳じゃない。


 自分の身体のことで慣れてもいるし、仕方のないことなのだけれども、小柄なことはどうしようもなく劣等感を刺激する。


 褐色の肌は健康的だと褒めてもらえるし、短めに整えた銀髪は個人的に気に入っているのだけども、それでもやっぱり、威厳とか頼り甲斐というものとは縁遠いのは自覚している。

 顔立ちだってその……別に幼いとか子供っぽいってわけじゃないし! 年相応だし!

 そう、年相応なの。胸だってそのうち大きくなるし……!


 ぺたぺたと胸元を触りながら、聖印を握り締めて、早く大きくなれますように……とお祈りしていたボクを見て、馭者さんが大笑いする。

 べ、別におかしいことじゃないですよ! 大きく立派に育つのは、大地の神様の加護なんですから……。


「いやいや、笑ってすまないね。大地の神殿の聖騎士様も、年相応の娘さんなんだなって思ったら何だかおかしくってさ」


 そう。ボクは聖騎士。

 聖騎士ユーミ・アルティール。

 大地の神殿に任命され、その命を受けて各地の守護や、魔物の討伐をその任とする者。

 ……まだ、見習いなんだけれど。


 大地の神殿は、他の神殿と同じように幾つかの称号で、信者の格付けを行っている。

 入信者から始まって助祭や司祭などがあって、自衛を司る神官戦士の上から三番目の称号が、ボクの得ている聖騎士だ。

 この上となると聖騎士を取りまとめる聖騎士長と、神殿全体で認められた勇者しか無くて、勇者はよほどの事態に対抗する為にだけ任命される緊急の位階で常設はされていない。


 御者席で馬車を操っている馭者さんは女の人で、お婆……ってほど年を召した感じはしないから、おばさんなのかな? いやもうちょっと若いような? 声は思ったより若い感じがする。

 魔物除けの香草を染み込ませたコートを着ていて、目深にフードを被っているものだから、いまいち判りにくいけれど。


 この人は荷物を運んでいる道中だそうで、任務のためにこの先の土地へ向かうボクがお願いして、便乗させて貰っている。

 女馭者さんも護衛はいてくれた方が良いということで、乗車代は護衛の代金と相殺にして貰った。

 ちゃんと代価を払いますとは言ったのだけど、この先何かと危ないし、荷台の空き場所に乗せるだけで護衛費用を掛けずに済むならそれで充分、ということで押し切られた。


「そういや聞いてなかったけど、お嬢ちゃんは何でこっちの方へ? この先は村とか街とか、何にもないはずなんだけど」

「えーとですね、この先の死の荒れ地に行きたいって思ってて」


 ボクの答えに、女馭者さんが不思議そうに言葉を返す。


「死の荒れ地? あんなところは聖騎士様とはいえ、お嬢ちゃんみたいな子が行くところじゃないよ? 知ってるんだろう? あそこがどういう場所か」

「はい。二十年ちょっと前の邪竜との戦役で、魔物だらけの荒れ地になった場所ですよね。昔は街があったらしいですけど……」


 そう。

 この先にあるのは死の荒れ地と呼ばれ、王国の地図からも抹消されかけているような、そんな場所。


 突如現れた大型、かつ高位の魔物である邪竜と、その眷属によって滅ぼされた場所であり、王国や周辺諸部族の総力を挙げた討伐戦の末、太陽神の加護を受けた勇者様がその命と引き換えに邪竜を滅ぼした、という逸話の残る土地。


 今でも人が住めるような環境ではなく、昼間でも死者や魔物が徘徊するような呪われた場所になっているため、もはや寄り付くのは物好きな冒険者くらいだという。それもほとんどいないとか。


「見たところお嬢ちゃんはまだ若いのにその位を得ているし、だということは将来有望なわけだ。そういうご立派な人たちは当の昔に見捨てた街なんだよ、あそこは」

「その死の荒れ地に、邪悪な死霊術師が棲み付いたらしいんです」

「死霊術師? 確か、ゾンビだのスケルトンを操る魔術師だろう?」

「はい。何か邪悪な計画のためなんじゃないか、って噂になってるんです」


 はー、と女馭者さんが溜息交じりに頷く。


「そりゃ確かに、聖騎士様としては放置はできないかね」

「ええ……人々の苦しみを取り除く助けになるのが、神に仕えるものの役目ですから」


 そこは譲れない。

 何か大きな事件になってからでは遅いのだし。

 納得したように頷く女馭者さんが馬に鞭を入れ、少しだけ馬車の進みが速くなる。


「そういうことならちょっとは急ごうかね。この調子ならもうちょっとでお目当ての目的地さ」


    * * *


 身の丈が大人の二倍、いや三倍以上はある大蜥蜴、ここまでくると亜竜と言うべき魔物が咆哮を上げる。

 周囲の木々が震え、辛うじて逃げていなかった鳥たちが大慌てで逃げだしていく。

 先ほどまでの長閑な空気が嘘みたいに、張り詰めた空気が周囲を支配していた。


 その空気を裂きながら、強靭な四肢が地面を蹴り、猛然と獲物、つまりはボク目掛けて襲い掛かってくる。

 大きく開けた顎にはびっしりと鋭い牙が生えていて、人間の一人や二人は軽く嚙み砕けそうなそれが迫ってくるのに合わせ、逆にその鼻面を蹴って宙に逃れた。


「うわぁ……こんな大物が出るなんて、やっぱり死の荒野が近いんだなぁ……!」


 魔物は人に仇為す存在であり、感心できるようなものではない。

 けれど、街の近くだと殆どお目にかかれない巨体を見ると、やっぱりそういう感想を抱いてしまう。


 もう少しで死の荒れ地というところで、不運にも魔物に見つかってしまい、女馭者さんは迂回をしようとしていたのだけど追い詰められ、こうしてボクが迎撃に出たのだけど……。


 亜竜が一瞬こちらを見失った隙に、空中で体勢を整える。

 全身を廻る力の流れを構えと共に確認。

 息を大きく吸うと共に、自分が大地の神と繋がっているという意識を強く持つ。

 

 ――大地の神よ、ボクに魔を討つ力をお貸しください――


 その祈りと共に、自分が何か巨きな存在と少しだけ繋がり、その御力を借り受けられたことを感じる。

 その力は強い気配となり、亜竜が振り向きながらこちらを見上げ、迎え撃とうとするがもう遅い。


「はぁっ!!」


 体を廻る力を、身に着けた体術で腕に集め、落下の勢いともども振り下ろす拳に重ね、生み出した衝撃を空気ごと亜竜の頭蓋の真ん中に叩き込む。

 その力は巨大な鉄槌を撃ち込まれたかのように亜竜の頭を叩き潰し、強制的にその動きを停止させた。


「何とか一撃で仕留められたかな……二撃使わなくて良かった」


 もはや動かなくなった身体の末端から霧散していく亜竜を見ながら、額に浮かんだ汗をぬぐう。

 魔物は普通の生き物とは違い、どこからか生まれ、死ねばこうして無に帰る。


 何故そんな物が存在しているのかは未だに判っておらず、王都の学者さんの中には今でもそれを研究している人もいるというが、ボクをはじめとした普通の人たちにとっては、どこからかやってくる脅威だという認識だ。

 たまに魔力の強い部位が遺ることがあり、それ目当てに魔物狩りを生業とする冒険者の人たちもいるのだけれども、今回は残らず霧散していく。ちょっと残念かも。


 亜竜が完全に消滅したのを確認して、大きく息を吐く。

 ……もう大丈夫かな。

 体の力を抜き、満ちていた魔力を普段のそれに戻してから、後ろを向いて大きく手を振ろうと――。


 そこには、別の爪と、牙があった。


 しまった、と考える余裕すらなかった。

 亜竜と戦っているうちに別の魔物が近づいてきていたのに、それに集中し過ぎていて、接近に気づけなかったのだと気づいても、後の祭りだった。


 回避……身体から力を抜いてしまった一瞬で、出来ない……!

 防御……どこを守る? 頭と心臓……致命傷だけでも避けないと……!


 なんとかして、女馭者さんだけでも守らないといけないのだから。

 命の危機で間延びしたように感じる一瞬の中で、ボクはそちらを見た。


 そして、見た。


「……あまり怒らないで欲しいんだけどね?」


 女馭者さんがかざした手のひらの先に、黒い影が集まる。

 影は見る間に形を成しながらボクへ、いやボクを襲おうとしていた魔物、翼を備えた鳥のようなそれへと向かい――。


「…………――――!!」


 交錯する一瞬で三撃。いや四撃。

 両の翼と爪足と首。


 こんなことはボクはおろか正規の聖騎士にも出来ない。

 それほどの速さと力を両立させた黒い剣。

 そしてそれを握るのは、闇色の鎧を身に纏い、同じ色のマントをマフラーのように靡かせた剣士。

 顔は見えずに黒い靄のような影で満たされ、その表情を伺うことは出来なかった。


「これ、って……!」


 死霊騎士(デュラハン)

 高位の邪神官にのみ従うと言われる、死神。不死者(アンデッド)の中でも相当に上級で、討伐するなら聖騎士が率いた神官戦士の一部隊が必要とも言われる存在。


 ありえないものを見て、どうしようもなく震えたボクの声に、黒い剣士を呼び出した手のひらの主が答えた。

 死霊騎士の主……でも、ここにいるのはボクの他にはもう一人しかいなくて……!


「改めて自己紹介しようか。私はアーミリア」


 どこか楽しそうに、顔を隠していたフードを下して名乗ってくれた。

 そこにあったのは、思っていたよりも若く、何処か悪戯っ子のような生き生きとした笑みを浮かべた女の人。

 黒い髪が風に靡き、赤い目がとても綺麗な――。


「君の言う、悪い死霊術師(ネクロマンサー)、ってやつさ」


   * * *



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