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死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――あたらしい住人と、流れる日常。――
17/28

15:ある朝の夢……ユーミの場合。

ここから新章といいますか、日常とかそういうものに近い話となります。

    * * *


 そこは、どこに明かりがあるかわからない、ほの暗い部屋だった。


 柔らかいベッドの上で、身動き一つとれないで、ただ息だけが何処までも熱く、火照っていって。


 足先を、するり……と撫でられる。

 その感触だけで、背筋にぞくぞくと、微妙な刺激が駆け上がってくる。


「あ……ぁ……ん……う……ぅ……」


 どうしようもなくて、声が漏れる。


 つま先に触れたものが、てらりと湿ったそれに変わって、丹念に指の一本一本を舐っていく。

 それだけでもう、どうしようもなくなる自分を抑えることが出来ない。


 逃げ出したくなるほど気持ちが良くて、なのに逃げられないくらい蕩けてしまいそうな。


 吐息と交じり合った、声にならない悲鳴をあげても、身体が言うことを聞かずに、びくびくと震えてしまう。


 そしてそれは、焦らすようにゆっくりと指先から足の甲、そしてふくらはぎを這い上って、ついには足の内側へと入り込んでくる。


 やめてと叫びたいのに、もっと、と。

 もっと欲しいのに、しびれていくのが、とけていきそうなのが、怖くて。


「……ひ……ん……ぁ……あぁ……」


 ついには腿の内側から、もっと奥に入り込もうと。


 なんと願っていいかわからないまま、哀願しようと手を伸ばすと、顔を上げて微笑まれた。


 ねとり、と唇から覗いた舌が、どうしようもなく赤くて、いやらしくて。


 それは……ゆっくりと近づいてくる。


 まるで獣みたいに四つん這いで、やさしくて……。


 肌とはだが、からみあうように、


 けれど、それだけで、なみだがこぼれてしまうくらい、きもちよくて。


 そして。


 そして、甘そうな唇が、


  すこしだけ開いた隙間から、ちろり、と舌が、みえて。

 

   ……この唇と、重なっ――






「…………――――~~~~っ!!??」


 悲鳴を上げて飛び起きてしまった朝。

 思わず周りを見回してしまうけれど、誰もいない。


 よくよく見てみれば……ボクがいるのは、辺境伯さんの街の宿屋だった。

 ばくばく言っている胸を押さえながら思い出してみると、エルフの森から帰ってきて、ここで泊まることになったわけで……。


 ……それはそれで良いし、何かおかしいことがあるわけではない。

 ないのだけど……。


(……あああああ……な、なんて、夢を、みちゃった……ああああぅああああああ……)


 顔がもう、火が出るように熱い。

 ベッドにもう一度倒れこむように潜り込むと、ごろごろと感情のままに悶えてしまって。


「神様……かみさま……ごめんなさい……ボクは、ボクは……」


 枕に顔をうずめて、足をばたばたさせながら神様に懺悔する。

 いや、うん、ちゃんと祈りを捧げて懺悔しないといけないんだけど……。

 いけないんだけど……!


(ゆゆゆ夢に出てきたのって、そのっ……アーミリアさんでっ……)


 ……触られた感触とか、肌の質感とか……あああああああああぁぁぁ、すごくて……


 頭から追い払おうとしても、そうすればするほど、離れてくれなくて。

 確かにボクは、あの人のことが好き、だと、思う。


 あの日の戦いで、アーミリアさんを助けた時に感じた思いは、嘘じゃない。


 女の人。

 ボクよりずっと、年上の人。


 なのに。


 ……だけど。


 ボクも、女で。

 

 この気持ちは間違いなのかも知れなくて。

 忘れてしまうべきなのかも知れないけれど――


「あああああああああ、もう! 悩んでるのに何でこんな夢見ちゃうのかなぁ!?」


 これじゃあ、忘れるなんて無理だよ……

 自分が、ボクに、認めろって。

 あの人のことが好きなのを受け入れろって、言っているみたいじゃないか……。


    * * *


 まだ顔が熱くて、動悸も止まらないけれど、何とか無理やり自分を落ち着かせて、ボクは懺悔の祈りの後で身づくろいを始めた。


 ちなみに、何でボクたちの家じゃなくて宿屋にいるかというと、新しい家はナハトさんが設計図を書くところから始めているからで。

 あの人は大工さんというわけではないけれど、斥候……本人は乱破(らっぱ)とか工兵だよと言っていたのだけど、戦場とかで陣地とかを建てたり、水利なんかの土木技術を身に付けているそうで、その一環として家を建てるくらいは何とかなるのだそう。

 けれど、どんなものを建てるのか決まってもいないうちに帰ってもやることは無いし、他の買い物もあるし、休息も兼ねてボクたちはこの街に滞在することになった、ということに。


 長老さんたちから頂いた種とか苗は保存の魔法をかけた上で大事にしまってあるし、材木なんかは伐り出す時間なんかもあるし、後から届けてもらうことにしてもらったので、今のところは馬車に積めない大荷物にもなっていない。


 あのあと、アーミリアさんとナハトさんがエルフの森の事件の報告というか、説明のためにジェレミアさんの所に行ったり、ボクはボクで大地の神殿への報告の為に、事態の大まかなところを神殿の司祭様に伝えたりもした。

 “旦那”さんのことは伏せるようにと何回も言われたし、ボクも他言するようなことではないと思ったから、そこは伏せてあるのだけど。

 近いうちにエルフの皆さんからも、魔物を持ち込んだ隊商の人たちの引き渡しとか、事態の調査とかで神殿や辺境伯と話し合うこともあるだろうとは、エシルゥアさんも言っていたっけ。


 そんなこんなで、街に到着したその日は、あれやこれやとやるべきことをやって、疲れ切ったまま宿屋さんのベッドに転がり込んだ。


(そうしたら、こんな夢を見ちゃうんだもんなぁ……)


 また思い出しそうになって、慌てて頭の奥に押し込めながら、もう一度神様に懺悔する。


 ……ボクは何を懺悔しているんだろう。

 そんな思いが、心によぎって、ちくりと痛む。


 あんな風に、おぼれそうになってしまったこと?

 それとも……好きになってはいけない人を、好きになってしまったから……?


 神様は、何も応えてはくれなくて……。

 アーミリアさんなら、教えてくれるんだろうか。

 ボクが、何になろうとしても良いように、いろんなことを教えてくれるといった……あの人なら。


 あなたを好きになっても、いいですか……?


    * * *


 気を取り直して、改めて外を見てみると……普段起きているよりも太陽が上がっているくらいで、ちょっと寝坊したかな? というくらいの朝だった。

 同じ部屋の隣のベッドを見ると、アーミリアさんと、あとエルフの森で出会った、花魔族(アルラウネ)の女の子は、もう起きたみたいで。


「……やあ、おはよう」

「おっ、おはっ……おはようございましゅっ……!」


 部屋のある二階から一階に降りる階段の途中で、先に食堂の席に座っていたアーミリアさんに声をかけられてしまった途端、またあの夢を思い出して、顔が真っ赤になってしまった。

 しかも、ものの見事に噛みました。

 うう、恥ずかしい……すごい痛かったし、耳まで赤い顔を見られたくなくて、階段の途中でしゃがみこんでしまった。しばらく駄目かも、これ……。


「どうしたの? まだ舌痛むかい?」

「だ、大丈夫ですからっ……!」


 宿の他のお客の注目を集めちゃいながらだけど、アーミリアさんの陣取っていた席に、ボクも座る。

 アルラウネの子は、昨日のうちに買い込んだ白い子供向けの服と帽子をかぶっていて、そうしていると魔族じゃなくて、髪の色が若草色なだけのかわいい女の子に見えるのが凄い。


「話を戻すけど、もうああいうことはしちゃダメだからね? 私も寝ぼけてて何もしなかったのは悪いけど……」

「……だめなの……?」

「悪いとは言わないけどさぁ……」


 朝ごはんに、パンとスープと、あとちょっとしたお肉と野菜を頼んでいると、そんな風にアーミリアさんが、女の子に言い聞かせていた。


 ……アルラウネの女の子、って呼び方だとあんまりよくないよね。

 彼女たちに名前っていう習慣はないっぽくて、それぞれの匂いでお互いを見分け、かぎ分けてるんだそうけれど、言葉も話せるし、ボクたちとしばらく一緒にいるのなら、名前くらいは付けてあげた方がお互いに不便がないと思う。

 それはそれとして……。


「どうしたんですか?」

「朝起きたら、私のベッドに潜り込んで寝てたんだよ。朝起きたらもう驚いたのなんのってさぁ……」


 ちょっと言葉じゃ言えないくらい驚いたんだよ、というアーミリアさん。

 それは驚くだろうけど……ボクとしては、思わずお説教に加わってしまった。


「そうだよ? そんな羨ま……違う、そうじゃなくて、そういうことはいけないんだよ!」


 だって、そんな、そんな……羨ましいよっ!

 それじゃダメって言うからおうちの建て直しって話になったんだし……ボクだって一緒に寝たいのにっっ!

 ……本音がつい口から出そうになったけど、何とか喉の奥で止めておく。


「こほん。えっと……その、そういうことは、夫婦の契りを交わしたものとか、恋人……はダメなんですっけ? ボクはそう教わりましたけど」

「あー、恋人なら良いって人は結構いるなあ。でもユーミみたいな神官とかだと生涯独身の誓いを立てるとかって人もいるし、貴族の姫様だと凄い身持ちは固いね。結婚するまで異性はおろか、決められた相手にしか体を預けないって場合もあるなぁ……」

「決められた相手って言うと……」

「身の回りのことをやってくれる傍仕え(メイド)、使用人とか……あとは薬師とか神官かな? 王家なんかだとお抱えの人がいたりするって聞くね」

「うわぁ……ちょっと想像つかない世界ですね」

「私もさ。とにかくびっくりするからやめてくれると助かる」


 女の子はボクたちのやりとりを、目をぱちくりさせながら聞いていたのだけど。


「……ふーふ、とか、すき、なら……いいの……?」


 駄目だよ、と言いそうになって、じゃあボクはどうなのか、と頭が止まる。

 一緒に寝たくない、って言ったら嘘になるし……なんていうかその、好きなら良いんじゃないのかな、と言われると……えっと……。


「……お互いが、好きなら……良いって言えば……良い、ですよ、ね?」

「なんでそこで私に振るかな」


 ボクが見上げると、何だか赤くなったアーミリアさんがちょっと目を逸らす。

 だって、その……アーミリアさんが良いって言うなら……その、ボクだって……良いかな、って……。


 ああもう、何でこんなこと考えちゃうのかな!?

 誰かを好きになるのって、こんなに気持ちがどうしようもなくなっちゃうものなの!?


「……ふたりは……わたしのこと、きらい……なの?」

「そういう言い方はズルいなぁ……嫌いなわけないじゃないか。アルラウネは男性を誘う習性があるけれど、きちんと制御できるとも聞くし、結ばれれば尽くすとも聞くから」


 ちょっと厄介な習性というか、文化を持っているせいでややこしくもなるけれど、善悪で言うなら決して悪ではないよ、とアーミリアさんは言う。

 自分たちに不利益だから、というだけで排斥しようとしたらぶつかり合いの原因になって、いずれは衝突や、酷いときには戦争にもなるんだから、と言われると何も言い返せない。


「私としては、ちゃんと言ってくれれば良い、かな。嫌な時は嫌って言うから、その時は止めてほしいかな。無理やりだったり、いきなりだったからびっくりしたんだしね」

「うん……ボクも、それで……」


 それはちゃんと約束しよう、と言われて、ボクも女の子も頷いて賛成した。

 ……ちゃんと言ってからなら良いんだよね。うん。

 問題は……その勇気が出せるかな、ってことだけど……勇気の無駄遣いな気もちょっとしちゃうな……。


 ってそうじゃない。

 話がどっか行っちゃってたけれど、他に大事な話があるんだった!


「あ、そうだ大事なことを忘れてたんですけど。アーミリアさん、この子に名前つけてあげません?」

「……なま、え?」

「うん、名前。ボクがユーミで、こっちの人がアーミリアさん、今はいないけど、あなたを助けてくれた男の人がナハトさんって言うみたいに、あなたにも名前があった方がいいと思うんです」


 女の子が首を傾げる。

 少なくとも、ナハトさんが家を建て終わるまではボクたちと一緒にいるわけだし、そのあとがどうなるにしたって、他の人が呼ぶ呼び名はあった方が良いと思う。


 ナハトさんに何て呼ばれているの、って聞いたら、「おい」とか「お前」って呼ばれてたって言われちゃうと、何かこう、可愛い名前を付けてあげたいって思うのは、きっと間違いじゃないはずだし……。


「そうだね、私としても何か呼び名がないと困るのは違いないし、付けてあげるのは賛成。ナハトにはちょっと命名センスは期待できないし、私たちで考えてみようか」


 それでいいかな、と確認すると、素直に頷いてくれた。

 じゃあ、と言うとアーミリアさんが立ち上がる。


「ここで考えても良いんだけど、今日は一日のんびりするつもりだし、疲れを抜くのも兼ねて三人で公衆浴場(バルネア)にでも行って、手足を伸ばしながら考えないかい?」

「あ、良いですね! 旅の間は水浴びとかが多いですし、休みの日なら……」


 実は神殿にも、旅の神官さんたちのために浴場が設置されているくらい大事なもの。

 疲れを取るにも良いし、リラックスも出来るし、何より信者の人たちの前に出るときは清潔な方がいいから、って。

 ナハトさんは打ち合わせとかで朝からジェレミアさんの家に行っているけれど、今日を休息に充てるというのはいうのは既に伝えてあるそうなので、そこは心配しなくて良いと、アーミリアさんが請け負ってくれた。


 そういうことになったので、ばるねあ? とよくわかっていない顔をしている子の手を引いて、ボクたちは浴場に向かったのだけど……。



 ――うん、あんな騒ぎになるとか、ボクは……思っていなかったんです。


    * * *




次はアーミリア視点からの予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な夢でした。ここからどうなるのか楽しみです
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