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死霊術師のスローライフ  作者: おぼろくらげ
――エルフの森の事件――
11/28

9:昔馴染みと爆弾発言?


    * * *


 辺境伯の街を歩き回ること半日、ボクはアーミリアさんの昔の仲間だという人の家にお邪魔することになっていた。

 半日歩き回ったといっても、だいたいは職人ギルドとか名うての職人さんのところを回って空振りに終わっただけで終わったのだけど。

 その代わりというか、アーミリアさんのお目当てで、ちょっとしたお屋敷の主だったその人は、衛兵の人に名前を聞いてすぐに家がわかるくらい、名が知れた人だった。


「お前は突然ふらっと現れるなり、無理難題投げ込んでくるのほんと止めてくれないかなぁ……死の荒れ地に引っ込んでるとは聞いてたけどよ」

「あっはっは、悪い悪い。けれどだいぶ立派になったじゃないか、見違えたよ」

「よせやい、新米のガキどもにあれこれ教えるようになると、適当な生活も出来ないってだけだよ」


 迎えてくれたのは、アーミリアさんに負けないくらい背の高い……というかアーミリアさんの方が、男の人に負けないくらい背が高いって言うべきなんだろうけど……男の人で、どこか皮肉気な笑顔と、細身に見えて力のありそうな、俊敏な体つきを上流階級向けの単衣で包んだ人。


 社会の裏面に存在し、色々な犯罪を行う人たちの互助組織である盗賊(シーフ)ギルドの偉い人とは聞いていたのだけど、そういう風には全然見えなくて。

 むしろ貴族然とした余裕のある動きが自然に身についた感じのある、けれど無精髭で隙のある感じが親しみやすそうな……ちょっと格好いい人に思えた。

 実際、この街では冒険で成功した有閑貴族ってことになっているとか。

 ……ボクの好みじゃないけど。ないもん。


「アーミリアさん、新人さんに教えるようになると、良い生活をしなきゃいけないって……?」

「あー、ちょっと神官とかそっち向きの人にはわかりにくいかなぁ……ええっとね」

「そっちの子はお弟子さんか何かかい? 大地の神殿の聖騎士様を弟子に取るようになったとは、お前さんも変わったもんだ。ともかく入れよ、玄関で立ち話も何だろう?」


 そういうことでお邪魔させて頂いたお屋敷は、立派、というほど大きくはないんだけど、丁寧に掃除が行き届いていて、ノエルさんのような、でも彼女に比べると無表情で、その分てきぱきと仕事をしているメイドさんが数人、お屋敷の事を取り仕切っていた。

 応接間も豪華というほどではないけれど、調度品はお金がかかっているんだろうなー、と思うくらいにはしっかりしたもので、すごいなー、ときょろきょろしているボクをよそに、メイドさんたちはてきぱきと仕事をして、椅子を勧められたボクはアーミリアさんに続いて座らせてもらった。


 落ち着いて見回してみると、ところどころに目を引くような小物が置いてあって、偉い人のお屋敷なんだな、って素直に思えるくらいだった。

 でも、そういう目立つ美術品は何だか変な、違和感みたいなものがあって、思わず首をかしげてしまったのだけど。


    * * *


「改めて挨拶をしようか。ジェレミア・ロードリックだ。この偏屈女の友人というか、昔馴染みだな」

「あ、はいっ……ユーミ・アルティールって言います! 大地の神殿で聖騎士の位を頂いてますっ」

「偏屈女とは酷いね全く。自分だって浮気性の軽薄男のくせに」


 からからと笑いながら、アーミリアさんがジェレミアさんを紹介してくれる。

 昔……と言っても三年ほど前まで一緒に一行(パーティ)を組んでいた人で、アーミリアさんが魔術師だったように、この人は斥候役だったそうだ。


「一行が解散した後……貯めた財宝とかあるし、家に戻る必要もその気もなかったし、悠々自適に遊び暮らそうかと思ったんだが、遊び歩く以外何もすることがないってのはどうにも退屈でね。それでギルドの勧めもあって、相談役みたいな立場に就かせてもらったんだよ」

「相談役、ですか?」

「お前さんとこの神殿にもいないかい? 下の方の信者さんの悩みとかを聞いたり、何かあったときに外と繋ぎを取ったり、知恵を出してくれって頼られる人。ああいうのだよ」


 言われてみると確かに、そういう司祭様がいた。

 神殿の中で悩みを誰にも相談出来ないとか、そういう人もいないわけじゃないし、懺悔や告解を聞く立場だからこそ言えないこともあるとか、聞いたことはある。

 そういうのに加えて、ギルドの外の人とか、他の組織との交渉事を一手にやっているそうだ。

 ……軽く言っているけど、地味に大事ですごく大変なことじゃないのかな、それ……。


 家がこうして立派なのも、下の人たちに頑張ればこうなれるぞ、って目標になって示すためなんだとか。いくら働いても街の日陰でこそこそ暮らしているような……言ってしまえば盗賊らしい暮らしから抜け出せないとなれば、示しや説得力がつかなくてギルドから外れ、余計に酷い犯罪に手を出すこともあるって言われると、ちょっと考えてしまう。

 更にはボクが違和感を感じていた調度品は贋作、つまりニセモノだったんだけど、それを見抜く事が出来るかどうかも、観察眼を試す一個の試験になっているとか。

 ……色んなこと考えてるんだなぁ……。


 もしかして王都の神殿や、そこにいる上級司教さまたちが立派な法衣を着ていたりするのって、そういうことなんだろうか。

 後でアーミリアさんに聞いてみたら、そういう部分も確かにあるんだとか。なるほどなぁ……。


「まあこいつは現役のころから顔が広かったからね。貧乏貴族の三男坊とか言ってたけど、良い意味で誰も信じなかったくらい作法や立ち回りが上手くてね。そういうのは得意だったのさ」


 昔の彼を語るアーミリアさんの目が細められて、どこか遠くを見るような顔になる。

 ボクの知らない、二人だけの思い出を思い出しているのを見て、訳もなく胸が騒いだ。

 心の奥で、何だか嫌な気持ちが沸き上がる。むぅぅ……。


「その上細剣(レイピア)を取らせれば右に出るものなしとなれば、頼ってくる知り合いや言い寄ってくる女も多くて、流した浮名は数知れず。でもそういうのを上手く捌いて貸しを積んだり、情報を集めてたからなぁ……私も何かと頼りにしていたよ。今だから言えるけどね」


 私には真似できないよ、というアーミリアさんの言葉に、褒められてむず痒い、と言わんばかりのジェレミアさん。そういう誉め言葉はその時言ってくれよ、とかぶつくさ言っていて。


「アーミィだってモテたんだぜ? 魔術の学院を出ただけあって頭はいいし、女としても悪かないっていうか上物の部類だ。今だってちゃんと着飾れば十分貴婦人で通るくらいだしな? その上冒険者として名声が高い。それはユーミ嬢もわかるだろう?」

「それは、その、うん……わかります。……すごく」

「だろう? けどこいつなー、そういうのぜーんぶ無視してたんだよ。中には大貴族様からのお誘いだってあったんだぜ? 俺みたいな男爵とか王国騎士じゃなくてガチなやつ。そういうのまで蹴っ飛ばして平然としてやがんの。何なんだおまえ、って当時は思ったよ」


 ジェレミアさんが肩をすくめる。

 ……アーミィってなんですか。アーミリアさんの通称? 仲間内だけの? ……ふーん……。

 アーミリアさんはと言えば、なんかもう苦虫嚙み潰したような顔になっていて。


「モテたって言っても八割方は冒険で集めた金目当ての連中だったじゃないか! 絶対碌な目に遭わないよねそういうの! 大貴族のお誘いとやらも家に箔をつけるのが目的だったよねアレ!?」

「残り二割でも結構な数だったろうが」

「それに色恋より研究とか目的の方で頭が一杯だったし、二十五過ぎて嫁き遅れとかって話ですらなくなると、もうどうでもいいやって思うようになってね……」


 溜息。

 ボクはと言えば、出されたお茶を飲みながら、ちょっと感慨深いというか、そんな気持ちがあった。

 だって、アーミリアさんがそこで結婚とかしていたら、多分こうやって一緒に何かすることはなかったはずなんだよね。……運命のいたずらというか、巡り合わせみたいなものを感じてしまったから。


「けどまあ、ユーミ嬢連れてるの見て、あー、そういうことかー、ってなんか納得しちまったな」

「……? 納得って何が?」

「いや、こういう年下のお嬢さんが好みだったんだなーって」


 …………え?

 あ、隣に座ってるアーミリアさんが物凄い咽込んでる。

 これ気管に何か入って息が出来ないやつだ。

 とっても苦しそうだけどばんばん机を叩いて抗議してる。


 止まった頭がなぜか冷静にそんなことを考えて、そうなのかー、と思いながらボクもお茶を一口。

 カップをお皿に置いたところで、頭が情報を受け入れて――


 ええええええええええええええええええええええええ!!!???


 なにそれなにそれええええちょっとまってちょっとまってそれってつまり――!?

 ああああだめだめ顔から火が出そうっていうか湯気くらいはきっと確実にっていうかええええええええ!?

 だめだ、考えがめちゃくちゃになって、何も考えられそうにない。

 自分で出来たのは、俯いて膝の上で握った手を見つめていることくらいで。


「……おおおおおお前なぁ!? いきなり何言ってるんだよ!?」

「違うの?」

「そもそも私とユーミで何歳差あると思ってるんだよ!? そりゃすっごいいい子ではあるけれど、それとこれとは別だろう!?」

「俺はてっきりそういう意味で連れ回してるもんだと……」


 ジェレミアさんの視線がボクの方を向いたのを感じる。

 顔を上げてみると、違うの? と言わんばかりの……まるでよくわからないものを見てしまった猫のような顔になっていた。

 えええええっと……それは、そういう風に見える、ということなのかな……?


「誰もかれもがお前みたいに色恋万歳の思考してると思うなよ!? 何股か掛け損なって拗れた挙句に刺されそうになったことがあるの知ってるぞ私!?」

「うっるさいな上手く収めたからノーカンですノーカンー! お前だって他人の結婚式見て色々夢見(妄想す)る顔になる程度にはムッツリなの知ってんぞ畜生!?」

「黙れ他の連中に言いふらしてないだろうな、というかユーミの教育に良くないしこれ以上はお互い共倒れだから本題行くよ本題!」

「よぅし解ったこっちとしても二度三度刺されたくないからな!」


 あー、そばで控えてるメイドさんの目が冷たいんだけど、そういうこと……?

 ……よくわからないけど深く考えたりするのはやめよう、うん……。

 もう一口飲んだお茶が、美味しかったです。


    * * *


「で、死の荒れ地で家建ててくれる職人か……まあ普通に考えりゃンなやつはおらんわな」

「報酬は払うって言っても、やっぱり危険だからね……」


 何事もなかったように取り繕うと、ジェレミアさんは本当に格好いいんだよね。

 さっきの言い合いを見てなかったらとか、まだメイドさんたちの視線が怖いとかそういうのを差し引かなかったら、だけど。

 アーミリアさんも澄ました顔していて、相変わらずの美人さんだけど――うん。


「ボクやアーミリアさん、“旦那”さんがいるって言っても、不安だろうっていうのは否定できませんしね」

「あー、やっぱり難しいかなぁ。そりゃまあそんなにすぐ見つかるとは思ってなかったけどさ」


 まともな職人さんの伝手だと無理だし、だから顔の広いジェレミアさんに声をかけてみたということだけれど、ボクもそんなに上手くいくとは思っていなかった。

 いなかったんだけど――


「……なあ、大工でなくてもいいか? 具体的に言うと家建てるのが専門ってわけじゃないんだが。実用最優先というか」


 腕を組み、難しい顔をして考えていたジェレミアさんが顔を上げた。

 そう聞かれると、ボクたちの意見としては、


「家じゃないものを建てられても困るけど、実用的なのは問題ないかな。ユーミはどう?」

「ボクも質素な方が好みですし。この家みたいに贅沢の必要性があるのもわかりますけど、今はそういうわけじゃないと思いますし」


 ……ということで。

 その答えを聞いたジェレミアさんは頷いて、一人、当てがなくもない、と教えてくれた。


「今、こっちの依頼でエルフの森で仕事してる奴なんだがな、色々手広くやれるんで、多分家くらいは何とかなると思う。自分の身を守る程度には腕も立つしな。三食食えれば満足、っていう職人タイプだな」

「そういう人がいてくれるなら願ったり叶ったりだけど……今まで言わなかったってことは何か問題でも?」

「職人じゃないからな、むしろ俺ら(シーフ)寄りだな。本人には問題があるわけじゃないんだが……ちと請けた依頼の雲行きが怪しいんだよ、帰還日数の目算を過ぎても帰ってきてねぇんだ」


 仕事はきっちりやる奴なんで、それが遅れるとなると、何かあったんじゃないかと思うんだ……というジェレミアさんの言。

 勘だけどな、と言ってはいるけど、経験からか、何かがあったことは疑っていない様子だった。


「じゃあ彼の様子を見て、問題ないならそれで良いとして、何かあったら支援して帰還させる、ってことで良いかな?」

「もし死んでたら前後の事情とか調べてくれると助かるが、まあそこは可能な範囲で良い。聖騎士様にこういうことを頼むのは心苦しいが、やってくれたら紹介料はタダで良いし、そのまま連れて行ってくれても構わんよ」

「人助けにもなると思いますし、ボクは全然大丈夫ですよ!」


 ボクも頷く。

 そうと決まれば早い方がいいということで、ジェレミアさんに足の速い馬を借りて、ボクたちはエルフたちの住む、西の大森林に向かうことになったのである――。


    * * *



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